2015/05/14
[第4回] 大学入学者選抜における能力測定の臨界点と複数回受験の効用 [3/4]
Ⅲ.大学入学者選抜における複数回受験の効用
次に、図2をご覧頂きたい。図2には、現在取り上げられている大学入学者選抜改革に対する高校・大学側の賛否が示されている。ここで興味深いのは、高校と大学の反応が分かれた項目であり、1つは、「基礎レベル、発展レベルの2種類の『達成度テスト』導入」(高校:賛成27.2%<反対41.4%、大学:賛成37.5%>反対24.9%)、もう1つは、「『達成度テスト』の複数回受験」(高校:賛成31.8%<反対40.6%、大学:賛成43.7%>反対23.1%)である。「現在のセンター試験の廃止」も高校側の反対(41.6%)が賛成(19.6%)を大きく上回っていることも踏まえると、高校側から、現状変更に対する一定の忌避感はあるように思われる。
図2 大学入改革・高校や大学の改革についての賛否(高校・大学)
出典:ベネッセ教育総合研究所「「高大接続に関する調査」」(2013年)
現状を変更するという意味合いでは、やはり、新たな枠組みの新テストに対する関心が高い。その中で、1つのトピックである、複数回受験に関して、面白い研究成果を紹介しよう。大規模統一試験における複数回受験は、我が国では、能研テスト時代(1963[昭和38]年~1968[43年]実施)に、高校2年生と3年生での受験を経験しているが、中央教育審議会答申で述べられているような同一年度内での複数回受験は未だ実施されていない。ただ、米国では、SATやGREなどをはじめとして複数回受験の実施体制の仕組みをとっているテストも多く、その研究成果も豊富である。例えば、表2は、ある時期にSATを受験した生徒が直近の2・3・4回のSATを受験した回数(の有無)を従属変数にしたプロビット回帰分析の結果である(*註:1998年秋以降のSAT連続受験者データ)。つまり、2回目、3回目、4回目を受験した学生の属性の中で何が一番影響を与えているかを示したものである。これを見ると、「誰が複数回受験で利するのか」といった入試制度の「社会的影響」を考える手掛かりを与えてくれる。
表2 直近の2・3・4回のSAT受験回数を従属変数にしたプロビット回帰分析の結果
Clotfelter & Vigdor(2001) p.39のTable 3.から作成
表2によれば、前回のSATスコアが高いほど複数回受験する確率が下がるという結果は至極当然の結果であるが、その他の係数の推定値を見てみると、親学歴や親の収入、郊外居住率、高級住宅街への居住有無などといった、所謂「家族資本」が高いほど、複数回受験する確率が上がるといった結果や、アジア系が複数回受験したり、ブラック・アメリカンが複数回受験を回避したりするといった結果なども含めて、米国の事情も多々有ろうが、家庭環境に大きく影響されているという結果が興味深い。また、クラスでの成績や各種学力の自己評価が低いほど、複数回受験する確率が下がるという結果も同じく非常に興味深い。
我が国で同じ結果になるとは限らないが、少なくとも米国におけるSATの複数回受験に関しては、複数回受験するのは、親が裕福な家庭に育ったものであり、また、成績が悪い層は、複数回受験を回避するということになる。このことは、テストの最終成績において、社会階層を反映する結果となることを示唆する。つまり、大規模統一テスト成績の上位層において、複数回の機会を得た社会階層の上位者たちのみ、成績差を縮小させることに成功し、そうでない階層で、且つ、成績が悪い生徒層は、複数回による成績改訂の機会を放棄することから、差はそのまま維持されるが、場合によっては拡大する。複数回受験の導入目的が、成績上位層の差を小さくすることであれば、それで導入目的は達成されるように思われるが、一方で、複数回による成績改訂の機会を放棄する層(それが家庭資本による影響であれば尚更)が存在することで、上位層と下位層との差がより開く結果になることも想定されることに注意を払う必要があり、それが複数回受験の導入の意図する結果であるか否かは、十分に吟味する必要がある。必ずしも、複数回受験の恩恵に預かる層ばかりではないことが米国の経験から明らかであることが分かった以上、複数回受験の効用も含めて、大いに議論が待たれるところである。