2015/05/14

[第4回] 大学入学者選抜における能力測定の臨界点と複数回受験の効用 [4/4]

Ⅳ.大学入学者選抜制度の制度的妥当性の担保に向けて

 冒頭で述べたように、大学入学者選抜制度の改革は、いつも「未完の教育改革」である。その改革が、生徒にとってハイステイクスであるが故に、議論も毎回熱く盛り上がる。但し、何の改革であっても同じであるが、改革の前提として、ある種の合理性が必要であろう。つまり、改革の必要性があるのであれば、合理的な理由があるのであれば、例えどんなに労苦を払ってでもやる価値がある。逆に、様々な制度の導入に必然性や合理性がなければ、十分にその意義を世間に説明できなければ、導入するべきではないことは言うまでもないであろう。何故、二つの達成度テストは必要なのか、何故、CBTや適応型テストは必要なのか、何故、複数回受験は必要なのか、その導入目的の合理的な説明が求められてくる。本稿でとりあげた論点も含めて、以後、専門家会議で大いに議論され、導入の意義が明確化されることが望ましいであろう。
 また、繰り返し述べてきたように、大学入学者選抜制度の設計は、素人判断だけでは非常に難しい。それは、上記で述べてきたように、測定道具としての「テスト」の知識と、その制度設計がもたらす社会的影響の部分も踏まえて、大いに専門知識が必要とされるからである。ただ、そうした「テストの専門家」による判断のみで制度としての妥当性を担保し得ないのが、ハイステイクスな大学入学者選抜制度改革の特徴でもある。その提案は、世論が満足するものでなければならないが、世論の雰囲気に押し出された改革案を丸呑みにしては、大学入学者選抜制度の破綻は目に見えている。
 一方、アンケート結果から透けて見えてきたように、現状変更に対する忌避観は根強い。高校現場としては、できないものはできない、というのを本音として、しっかり受け止めるべきであろう。実際に、現在提案されている制度改革案が、高校現場に降りてきたとき、現場の支持が得られない制度は、いくら上意下達であったとしても、うまくいかなくなるものであろうし、歴史的な経緯を無視したものは、その歴史的必然性の意味から成り立ちにくいものとなるであろう。現在、オンゴーイングで議論されているところなので、その結末まで予測することはできないが、こうした制度改革の是非は、現状の世論の中においてではなく、必ず、後に歴史の審判を受けることを忘れてはならない。センター試験と個別学力検査の例でも見たように、我が国における大学入学者選抜制度のいずれもが、日本における大学入学者選抜制度の長い歴史のもとに築かれ、醸成されてきたものであって、それぞれに合理的な必然性が存在する。新たな制度改革の導入が、それらの合理的な必然性を尊重しながら、それらとの齟齬を埋めることができなければ、今回の制度改革は困難を極めることに違いないし、逆に言えば、その齟齬がない形でうまく新制度の導入がされるとするならば、「未完の教育改革」がようやく「完遂」されるのかもしれない。

【引用文献】

  • Clotfelter, C.T. and Vigdor, J.L., 2001, "Retaking the SAT", Working Papers Series, SAN01-20, North Carolina:Terry Stanford Institute of Public Policy at Duke University.
  • 池田央,1973,『心理学研究法8 テストII』東京大学出版会.
  • 木村拓也,2008,「2003年以降の全米学力調査の変質」荒井克弘・倉元直樹編『全国学力調査?日米比較研究』金子書房,pp.178-202.
  • 文部科学大臣,2015,「高大接続改革実行プラン」
    available to:
    http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo12/sonota/__icsFiles/afieldfile/2015/01/23/1354545.pdf(最終確認日:平成27年3月1日)
  • 臨時教育審議会,1985,「教育改革に関する第一次答申」『教育に関する答申--臨時教育審議会第一次?第四次(最終)答申』大蔵省印刷局.
  • 中央教育審議会,1969,「付属資料 わが国の教育発展の分析評価と今後の検討課題」,『今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について?中央教育審議会答申』大蔵省印刷局,pp.77-538.
  • 中央教育審議会,2014,『新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育,大学教育,大学入学者選抜の一体的改革について--全ての若者が夢や目標を芽吹かせ,未来に花開かせるために』
    available to:
    http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/__icsFiles/afieldfile/2015/01/14/1354191.pdf(最終確認日:平成27年3月1日)