2015/02/16

[第1回] 学力レベルと高大接続—学力クライシス下の高大接続 [2/3]

Ⅱ.分析

1.学生の受け入れ状況

 まず、表1にもとづき高校と大学の接合点である学生の受け入れ状況についてみていく。
学生の受け入れ状況
 最初にC群において学生確保の厳しい状況がみられることを指摘しておきたい。C群では「志願者数が少ない」に「とてもそう+まあそう」と回答した部局が79.8%となり、また「学力が足りない学生も合格させざるを得ない」に「とてもそう+まあそう」と回答した割合も75.3%となり、A群(20.8%)やB群(29.2%)に比して著しく高くなっている。そこでは、「大学の教育内容をよく理解しないまま入学してくる学生が多い」「とてもそう+まあそう」と回答した部局の割合をみると、A群が23.3%、B群が34.2%であるのに対して、C群では48.2%に上っている。こうなると入試をテコにして学生の質を上げることと真逆の戦略を取らざるを得ず、「志願者数確保のため、入試科目を減らさざるを得ない」ということになる。この割合は、C群で40.7%に上っており、B群の11.7%、A群の8.3%から約30ポイントも大きい値となっている。これらのことに照らせば、とくに入試難易度の低いC群においては、高度な人材育成を語る以前の厳しい状況に置かれているといわざるを得ない。
 つぎにそうした状況においては、入学者のレディネスはどのようなものになっているのか。分析結果からは、ここでも入試難易度が低くなるにつれて問題状況が深刻化することがみえてきた。
 「高校の教育課程で身につけるべき教科・科目の知識・理解が不足している学生」が「半分くらい」以上と回答した部局の割合をみるとA群で10.8%、B群で23.1%なっており、これらの比較的入学難易度の高いところでも基礎学力不足が無縁でないことを示しているが、とくにC群においては56.8%という—B群よりも30ポイント以上も—高い数値がみられる。理解不足に加え、高校時に「大学の専門分野を学ぶ上で必要な教科・科目を高校で履修していない」という問題もあり、これに該当する学生が「半分くらい」以上の割合になると回答した部局がC群で31.6%に上っている。また、「基本的な学習習慣が身についていない学生」もC群で49.5%と著しく高い値となっている。
 以上の分析結果からは、大学で学ぶ準備がなされているとはいえない学生を抱えながら、学習活動を組織化しなければならない大学が少なからずある—C群は全体の約半数を占めている—ことがみえてくるだろう。現時点における高大連携の最大の課題は、こうした学びの前提条件の欠如をどう改善するか(あるいは、それにどう対処するか)にあるということができるのではなかろうか。

2.学生の能力

 大学は学問の府、すなわち研究を中心とした科学的思考を軸とした学びの場という性格をもっているということができる。このことは、大学に対する汎用的能力や職業的能力の育成の要求が高まったとしても、学問の府であることには変わりないと考えられる。表2に示すいくつかの能力(上から4つめまで)は、研究や科学的思考を支えるものとみることができるが、ここでは第一に入試難易度とこれらの能力との間にどのような関係があるのか、についてみていくこととしよう。
入試難易度と学生の能力
 まず大学での学びに対するレディネスを尋ねた「貴学部・学科での学習に必要な教科の知識」をみていくと、「十分備わっている+ある程度」と回答した部局の割合は、A群、B群ではそれぞれ82.5%、71.5%と比較的高いのに対して、C群では46.2%と著しく低い値がみられる。この傾向は、科学的な議論を行う際の前提として、「文献や資料にある情報を正しく読み取る力」が問われるが、これに関してもA群においては85.0%と高い数値がみられるのに対して、B群では65.8%と約20ポイントも低くなり、さらにC群では39.4%と極めて低い値がみられる。ここでも、学問の前提をなす部分が入試難易度の低いグループで欠如する傾向があることがわかる。
 また、科学的思考の根幹をなす「物事を論理的に考える力」においても、「十分+ある程度備わっている」と回答した部局の割合がA群で83.3%、B群で56.6%、C群で30.6%となっている。同様に科学的思考の根幹をなすと考えられる「根拠に基づいて判断する力」についてもよく似た結果がみられる。このように大学ならではの学びの成立に対して、偏差値に基づく入試難易度が深く関わっているという分析結果をみるにつけ、あらためて「従来型の学力」の重要性が確認されるのではなかろうか。
 付言すれば、A群の大学でもこれらの力は十分に備わっているとはいいがたい。「物事を論理的に考える力」が「十分備わっている」と回答した割合は、A群でも5.1%にとどまり、同様に「根拠に基づいて判断する力」でも4.3%にとどまっている。A群でも科学的思考力育成が課題になっているということがいえるだろう。
 さらに、「答申」で示される新しい学力像—主体的学び、創造性、協調性—に関する能力についても、入試難易度が深く関わっていることがみえてきた。同じく表2に示すように、まず「与えられた課題だけでなく主体的に学ぶ力」についてみると、A群で72.4%であるのに対してB群では54.3%、さらにC群では29.5%と大きな隔たりがある。また、創造性と関係の深い「新しい発想やアイデアを出す力」や協調性と関係の深い「人と協力しながら物事を進める力」でも同様の傾向があることがわかる。このことは、「従来型の学力」と新しい学力像とは、相関関係があるということを指し示している。
 最後に「従来型の学力」の高い学生が集まるA群においては、基礎学力の欠如の問題はないといえるのか。このことを調べるべく、表3にA群を対象として「従来型の学力」—知識技能として「貴学部・学科での学習に必要な教科の知識」を指標とした—と新しい学力との関係をみた相関分析の結果を示す。相関係数とは1~-1の値をとる数で、絶対値が大きくなるほど相関が強いことを示している(無相関のときに0となる。+/-の符合は関係の方向性を示す)。
A群における「旧来型学力」と新しい学力の関係
 ここでは、「貴学部・学科での学習に必要な教科の知識」がすべての項目と有意な相関を持っていることがわかる。したがって「従来型の学力」の高い学生が集まるA群においても、相対的に所属学生が「従来型の学力」を身につける度合いが低いと認識している大学ほど新しい学力の問題を抱えやすいということができる。

3.教育上の課題

 最後に入試難易度の低い大学でどのような教育上の課題を抱えやすくなるのかについてみていく。以上の分析では、C群において大学での学びの前提が欠如しやすいことがみえてきたが、そこでは教育上の課題も抱えやすいということができそうである。
 まず、大学での学びの前提が欠如したときにどのような学習をめざすのかという問題についてみていこう(表4)。
入試難易度と学生の能力
 「学生の実状に対応した教育目標の設定が難しい」に「とてもそう+まあそう」と回答した割合は、A群の40.0%、B群の49.8%に対して、C群では70.7%と高い数値がみられる。また、「学生の学力が多様で、一律の教育が難しい」でも、入試難易度が低いグループで難しさを抱えやすいことがみえてきた。
 つぎに高大接続の眼目の一つである主体的な学びについてみていくと、「学生の主体性がなかなか育たない」に「とてもそう+まあそう」と回答した部局がA群では33.3%にとどまるのに対して、B群では49.5%、C群では68.9%にも上っている。また、「学生の学習意欲が喚起できない」でも同様の結果がみられる。
 なおC群では、学生に働きかけようとさまざまな取り組みを行ってきたのだろう。すでに「多様な取り組みを整理・統合する必要がある」という意識が高くなっている。すなわち、この項目に「とてもそう+まあそう」と回答した割合は60.9%に上っており、3グループのなかで最も高い数値となっている。