2022/12/16

「探究」を切り口に高大接続の強化を図る桜美林大学の新たな挑戦とは?

桜美林大学
高校生のためのキャリア支援プログラム「ディスカバ!」
高校時代の探究の学びを表現する機会としての「探究入試Spiral」
桜美林大学は、2019年4月から、自学のリソースを活用し、高校生の探究学習を支援するプログラム「ディスカバ!」を実施している。さらに、2022年度入試からは「探究入試Spiral」を導入し、2023年4月には新たに「教育探究科学群」を設置予定だ。「探究」を切り口に、高校と大学の学びをどのように接続しようとしているのか。桜美林大学入学部高大連携コーディネーターの今村亮さんに、取り組みの背景とプログラムの詳細を聞いた。
今村 亮

今村 亮

桜美林大学 入学部 高大連携コーディネーター
株式会社Discovery Studio代表取締役。1982年熊本市生まれ。東京都立大学卒業。学生時代に認定NPO法人カタリバ(以下、カタリバ)に出会い、教育の道を志す。凸版印刷を経てカタリバに入職し、ディレクターとして多数の教育事業創出を手がける。2019年に独立。桜美林大学と「ディスカバ!」を立ち上げた後、東京都の創業支援事業に選出され、2020年に法人を設立。文京区青少年プラザb-lab館長、文部科学省熟議協働員、岐阜県教育ビジョン検討委員会委員を歴任。2022年から現職。慶應義塾大学非常勤講師、NPOカタリバパートナー、中野区区民公益活動推進協議会委員。共著『本気の教育改革論』(学事出版)。

高校生が、大学生メンターと旬のテーマを探究する

「ディスカバ!」は、2019年4月から、桜美林大学が運営している高校生向けキャリア支援プログラムだ。2022年度には200本以上のプログラムを提供し、延べ2万人の高校生が参加した(2022年11月末現在)。
プログラムは、大きく2つある。1つめは、「学びたいことに出会う」を目的とした、高校1・2年生向けのインプット用プログラムだ。例えば、「ディズニー研究会」は、世界中で愛されるディズニーを研究し、高校生がマーケティングの視点から新企画を考えるという人気プログラムだ。ほかにも、ジェンダーやSDGs、ファッション、航空マネジメントなど、様々なテーマのプログラムを用意しており、毎年、全体の4割は内容を入れ替えている(図1)。幅広く旬のテーマを取り揃えるねらいを、桜美林大学入学部高大連携コーディネーターの今村亮さんは次のように説明する。
「探究学習では、自分の興味・関心に基づいて課題の設定から始めますが、多くの高校を訪問する中で、高校生が課題の設定に苦労していることを実感しました。そこで、本格的な探究に取り組む前の練習として、自分にはどんな興味・関心があるか模索しながら、探究のプロセスを体験できるプログラムにしようと考えました。ここで主体性に火が灯り、探究学習をさらに深めたいという高校生のために、活躍の場となるよう、研究発表会やコンテストを『ディスカバ!アワード』として実施しています」
もう1つは、大学入試を控えた高校3年生向けのアウトプット用プログラムだ。「総合・推薦型入試準備セミナー」や「オンライン面接対策セミナー」、「小論文対策セミナー」など、高校生が自分のこれまでの学びや経験を整理・言語化し、合格に近づくための大学入試の出願書類を作成できるようサポートしている。
図1 主なプログラム
図1 主なプログラム(https://discova.jp/program/
プログラムの開催期間はいずれも半日〜3日程度で、会場は同大学のキャンパス、もしくはオンラインとなる。参加定員は、10人程度から最大60人。当日は、同大学の教職員がファシリテーターを務め、少人数のグループワークを中心とした構成にしている。
各プログラムには基本的に、グループワークをサポートする大学生メンターがつく。
「大学生メンターが活動をきめ細かくサポートすることで、高校生が自分は何に関心があるのかに気づいたり、興味を深く掘り下げたりできるようにしています。大学生メンターは、『ディスカバ!』の修了生であることが応募条件で、他大学の学生も含まれます。彼らはメンター研修を受講し、高校生の支援に努めます」(今村さん)

高校生の「探究」を支援する新たな高大接続の形を模索

同大学が「ディスカバ!」を始めたのは、高校と大学の学びの接続を強化し、高校生の学びを支えたいという意図から。同大学は、多様な学生を受け入れるという考えの下、1999年度からAO入試(現・総合型選抜)を実施しているが、提出される志望理由書の完成度が二極化しており、その差が年々広がっていることに課題意識を持っていた。そこで、2016年度、AO・推薦入試(現総合型・学校推薦型選抜)の準備を支援する「AO・推薦入試準備セミナー」を開始。加えて、高校時代に自分のやりたいことを見つけられていない高校生が増えていると考え、2017年度からは、高校生が様々な体験ができる「じぶん探究プログラム」も実施した。
それらを高大接続プログラムとしてまとめたのが、「ディスカバ!」だ(図2)。
「2018年頃は、入学定員厳格化の影響で、本学の志願者数は伸びていました。しかし、今後、少子化が一層進み、大学全入時代になることを踏まえると、志願者数の増加は一時的なものであり、10年後、20年後を見据えて、本学の魅力を高める施策が必要だと考えました。折しも、高校では、2022年度から『総合的な探究の時間』(以下、総合探究)が始まる予定でした。そのため、これまで以上に高大連携のニーズが高まると予測できました。そこで、大学と高校の学びをつなぐプログラムを本格実施することにしたのです」(今村さん)
図2 プロジェクト全体像
図2 プロジェクト全体像
2019年度に、夏期休業中のキャンパスで20分野のプログラムを開催したところ、約500人の高校生が参加した。2020年、コロナ禍の影響で全国の高校が臨時休業となった際には、同プログラムをオンラインで提供すると、全国の高校生から参加申し込みがあった。その評判は高校教員に伝わり、全国の高校から「総合探究を支援してもらえないか」といった相談が同大学に寄せられた。そこで、2021年度、「ディスカバ! for School」として高校への出張プログラムを開始。近県であれば、同大学の教職員が高校を訪問して実施している。全体の約3割はオンラインで、鹿児島や沖縄などの高校にもプログラムを提供しており、2022年度は約60校の高校と提携している(2022年11月末現在)。
開始からわずか3年間で、2万人規模のプログラムに急成長した要因を、今村さんは次のように分析する。
「『ディスカバ!』は、本学の教育資源を活用して、高校生が探究したいことを発見する場になればと考え、プログラムを設計しました。多様な高校生に参加してもらうため、『ディスカバ!』専用のウェブサイトを本学のサイトとは別に設け、本学の名前は最下部に小さく表示しました。それが功を奏したのか、桜美林大志望以外の高校生もプログラムに参加しています。事後アンケートでは、プログラムの満足度は約98%、継続参加の意欲も約94%と非常に高く、参加者から高評価を得ています。開始から3年が経って、結果的に総合型・学校推薦型の志願者数の増加にもつながり始めました」

高校での探究学習を評価する「探究入試Spiral」を新たに導入

2022年度入試からは、総合型選抜に「探究入試Spiral」を導入した。出願条件は、教育課程内外にかかわらず、高校や自主的に進めた探究学習について学内外のコンテスト等に応募している者、もしくは応募した者だ。「ディスカバ!」の運営を通して肌で感じた高校生の飽くなき探究心が、大学入試につながることを形にした入試形態である。同入試を設計する上で最も重視したのは、高校側の探究学習における目標と、同入試の評価基準との目線を合わせることだった。
「『探究入試Spiral』の評価基準は、学習指導要領に示された総合探究の目標に沿って設定し、本学のウェブサイトで公開しています(図3)。また、コンテストの受賞歴といった実績だけでなく、学習者本人の学びや成長を評価することを大切にしています。既に輝いている高校生とともに、大学入学後に伸びると思われる高校生を評価したいと考えています」(今村さん)
図3 「探究入試Spiral」 評価視点
図3 「探究入試Spiral」 評価視点
「ディスカバ!」での活動をきっかけとして、学校でも意欲的に探究学習に取り組み、それが大学進学、将来のキャリアへとつながる者も少なくない。
「本学のビジネスマネジメント学群に入学したある学生は、幼少期から航空業界に憧れていました。ただ、人見知りで初対面の人とのコミュニケーションに苦手意識がありました。『ディスカバ!』に参加し、発表などの経験を通して自信をつけ、高校での探究学習は『航空会社の制服』をテーマに取り組み、学年代表として発表しました。そうした経験を本学の『探究入試Spiral』でアピールして合格し、現在は憧れの航空業界を目指して学んでいます」(今村さん)
高校の探究学習と大学入試との接続をよりスムーズにしようと、2023年度の「探究入試Spiral」では、「ディスカバ!」の対象プログラムで所定の成果を収め、認定証を得た高校生について、1次審査(書類選考)を免除する「ディスカバ!育成型」を新たな方式として追加した。
「ディスカバ!」「探究入試Spiral」を含めた高大接続の今後の展開について、今村さんは次の3つを挙げる。
1つめは、「ディスカバ!」での学びやフィードバックの内容を記録する仕組みを作ることだ。高校生なら誰でも登録できる同大学のマイページに、プログラムの申し込みや入試出願などの機能に加えるなどして、ポートフォリオ機能を設けたいと考えている。
2つめは、高校生や高校教員に「探究入試Spiral」の特徴を分かりやすく伝えること、さらにポートフォリオ機能ができれば、その内容をもとにもっと簡単に出願できるようにすることだ。現状では、入試制度や出願手続きが複雑に見えるという課題があり、簡単に出願できる仕組みを検討中だという。
3つめは、「ディスカバ!」の講座内容の増加や多様化だ。例えば、現在注目が集まっているディープラーニングなどのプログラムを提供したいと考えても、学内にそのリソースが十分にはない。そこで、他大学と連携してコンソーシアムを立ち上げ、より多様なプログラムを提供できないかと構想を広げている。
同大学は、2023年4月に新たな学群「教育探究科学群」を開設予定だ。同学群では、高校の探究の学びを踏まえ、教育学を土台として探究型のカリキュラムを構築し、自分の学びを自ら形作る力を身につけていくことを重視している。既に総合型選抜で合格を勝ち取った志願者の多くは、入試方式として「ディスカバ!育成型」を選んだという。
「教育探究科学群では、学生がお互いに『教えて、学ぶ』をコンセプトに、教員養成課程とは異なる、大学の新たな教育学のあり方を提示していきます。予測困難な社会に求められる好奇心や探究心を、探究科学の手法の獲得を通じて身につけ、社会に通じる確かなリサーチスキルを修得し、教育的な素養をもち人と人をつなぐ専門家である『共創型ファシリテーター』を育てることを目指しています」(今村さん)
取材日:2022年11月16日