2019/07/17

【授業づくり】「レゴRシリアスプレイR」メソッドを活用して 自分自身や社会を探究する力を育てる 後編

学習者中心の授業づくりを目指して———
たゆまぬ挑戦をしてきた実践者の経験から、
これからの授業づくりについて議論を深めます。
2019.07.17 update
聖光学院中学校高等学校では、2018年度から中学3年生で、「レゴ®シリアスプレイ®」メソッドを活用した探究ワークを行っている。今後、英語学習などにも活用の幅を広げる方針だ。担当の名塩隆史先生に、その教育効果や生徒の反応を聞いた。(本記事は後編。前編はこちらです。)

(1)LSPのワークを通して、潜在的なイメージを徐々に形にする

 聖光学院中学校高等学校の「探究基礎」を担当する数学科の名塩隆史先生は、「レゴ®シリアスプレイ®」メソッド(以下、LSP)と教材活用トレーニングの修了認定資格を持つファシリテーターである。数学の授業にブロックを活用しようと教材研究をしていた際にLSPと出合い、探究学習や進路指導にも生かせると考えて、認定資格を取得した。
 2018年度は、「探究基礎」の選択科目の1つとしてLSPを導入。生徒の反応が良好で、教育効果も感じられたため、2019年度の「探究基礎」では、中学3年生全員を対象に、LSPを活用したワークを展開している。
 「LSPのよさの1つは、手を動かして作品をつくり上げる過程で、頭の中にぼんやりとある潜在的なイメージが徐々に形になり、発想がどんどん広がっていくことです。最初から言葉で説明しようとすると、言語化できる明確なイメージの中だけに発想が限定されてしまいます」と、名塩先生は説明する。
 前回紹介した「探究基礎」の第5回の授業でも、最初にどのような作品をつくるのかを考える時間は設けず、テーマを提示するとすぐにつくり始めるように指示した。そのため、生徒は完成形をイメージしてつくり始めたわけではないが、迷うことなく次々にレゴ®ブロックのパーツを組み立てていった。
 「最初の数回の授業では、生徒たちは頭で考えようとして、なかなか手が動きませんでした。そうした生徒たちに対し、『考え過ぎずにパーツを組み合わせると、次第に発想が広がるよ』『完璧につくろうとせず、何となく思ったイメージを形にしてごらん』と繰り返し伝えました。そのプロセスを何度も経験するうちに、徐々に漠然としたイメージを形にすることに慣れていきました」
 内面にあるイメージを十分に膨らませる作品づくりを通して、生徒が語りたい内容が豊かになるため、グループでの話し合いは活性化しやすくなる。
 「自分の意見に反論をされると、人格を攻撃されたと感じる生徒もいます。その点、作品に対する意見を交わし合う形にすると、『あくまでも作品のことだから』と、お互いに受け入れやすくなるよさもあります」

(2)自分自身を見つめ直して、社会や将来を考えるきっかけに

 「探究基礎」の授業では、「あなたのやる気を引き出してくれる教訓」「あなたが今とにかく夢中になっていること・達成したいこと」「(SDGsを踏まえて)社会が解決すべき課題を自分が解決するならどうするか?」「近未来(20年後)の日本を想像して,あなたはどうしていたいか」といったテーマで、同様の作品づくりやグループワークを行う。

(3)多様な資質・能力を育成し、大学入試改革にも対応

 LSPを活用した教育活動では、大学入試改革への対応も視野に入れている。例えば、東京大学を始めとした難関国公立大学の入試では自由英作文の出題が増加しているが、従来の指導では十分に対応しきれないと捉えている。
 「例えば、『未来の乗り物を想像して説明しなさい』という問題で、文法や単語がきちんと書けていたとしても、肝心の内容が既に実在するような乗り物について書いていたら、問いに対する解答として内容(イマジネーション)が不十分と捉えられてしまいます。そうした入試問題にも対応できる、即興で想像力を働かせて考えをまとめる力の育成にも、LSPは役立つと考えています」
 LSPで自分の内面を作品化し、それについて英語で説明するといった活動では、英語コミュニケーション能力の育成につながると考えている。今後は英語科教員がファシリテーターの認定資格を取得し、英語の授業でもLSPを活用する方針だ。
 同校では生徒の教養を高める目的で、アカデミックで体験的な講座を開講する「聖光塾」を長期休業中などに実施している。その1つとしてLSPの講座も開講している。
 「LSP講座の受講生徒は、自己肯定感や学習活動へのモチベーションが全体に比べて高いことが分かりました。もともと前向きな生徒が参加していることもありますが、生徒たちが中・高の学年を超えて意見を交わし合う中で、視野がぐんぐんと広がり、具体的なアクションを起こそうとする姿勢が育っていると感じます」
 LSPを活用した活動には様々な教育効果を実感しており、今後も多様な資質・能力の育成につながる活用方法を模索していく。

プロフィール

名塩 隆史 なしお たかし

 聖光学院中学校高等学校教諭。「レゴ®シリアスプレイ®」メソッドと教材活用トレーニング修了認定ファシリテーター。東京大学理学部数学科卒業、同大学大学院数理科学研究科・教育学研究科修士課程修了後、現職。