2019/09/26
【学びの場づくり】子ども自身の気づきや学びを大切にした教育活動で、主体的に学びに向かう姿勢を育む(後編)
2019.09.26 update
埼玉県宮代町立笠原小学校では、数十年前から、次期学習指導要領の理念を先取りした教育活動を推進している。当初は思うような結果が残せなくても、他者と協働しながら粘り強く取り組み、試行錯誤を続ける子どもが目立つという。後編では、地域と連携した取り組みを中心に、子どもにそうした意欲が生まれる源泉を探る。(前編はコチラ)
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1.子どもが粘り強さを身につける農業体験学習
豊かな自然との触れ合いを通して、自ら学び、考える子どもの育成を目指す埼玉県宮代(みやしろ)町立笠原小学校では、地域と連携した取り組みにも全学年で力を入れている。その1つが、近隣の田畑を借りて行う農業体験学習だ。農家や地域のボランティアの指導を受けながら、種蒔きや田植えから始まり、収穫までを子ども自身が行っている。例えば、1・2年次には、サツマイモの栽培に取り組むと、白石昌孝校長は語る。
「子どもたちは、サツマイモを育てる体験を通して、育てることの大変さや苦労、仲間との協力、様々な人たちへの感謝などを学び、活動に粘り強く取り組んでいます(写真12)」(白石校長)
5年次の農業体験学習のテーマは、餅米づくりだ。農家の人を講師として招き、苗の持ち方や苗を植える適切な深さなどを学んだ上で、5月に田植えを行う(写真13)。そして、10月に収穫。餅米は、前編で紹介した「笠原まつり」で行う餅つきに用い、日頃お世話になっている学校応援団(地域のボランティア集団)等の人たちに振る舞ったり、自分たちで食べたりする(写真14)。
「あんこやきな粉、大根おろしなどを家庭から持って来て、味つけを工夫する子どもがいます。自分たちが手間をかけて栽培した餅米なので、美味しさも格別なようです」(白石校長)
6年次の5〜10月には、紙の材料となる植物「ケナフ」を栽培。収穫後、茎を3か月間乾燥させ、1月にそれを使って紙すきを行う。そうして作った和紙は、自分の卒業証書の用紙となる。
「本校の設置を主導した齋藤甲馬町長が掲げた学校づくりのコンセプトの1つは、『学校は思い出』というものです。それを形にする方法の1つとして、子どもが材料から手作りした和紙を用い、思いのつまった卒業証書を作る活動が始まったのではないでしょうか」(白石校長)
写真12:11月には、サツマイモを収穫し、焼き芋を行う
写真13:地域のボランティアから成る「田んぼの学校」の人たちの指導により、
田植えに取り組む5年生
写真14:「笠原まつり」では、地域のボランティアや保護者に手伝ってもらいながら、
自分たちで育てた餅米を使って餅つきを行う
2.子どもが関心の幅を広げられるよう、高齢者との交流を推進
同校では、2000年度から、地域交流の一環として、高齢者が集まる施設「陽だまりサロン」を併設しており(写真15)、同サロンに通う高齢者と様々な交流を図っている。
「子どもたちには、高齢者との触れ合いを通して、関心の幅を広げたり、生活の知恵を学んでほしいと思っています。そこで、福祉教育担当の教師が月1回、同サロンを訪問し、子どもたちも参加できる催し物などについて打ち合わせを行っています」(白石校長)
6年次の9月に行う「わらじ作り」は、そうした中で生まれた取り組みの1つだ。5年次の農業体験学習で刈り取った稲を1年間乾燥させておき、わらじの材料に用いる。また、1年次の1月には、紅白の団子を木の枝に刺して豊作を祈願する、地域の伝統行事「繭玉づくり」の仕方を学ぶ。地域の人たちや高齢者からベーゴマやメンコの遊び方を学ぶ「昔の遊び集会」も実施している。
写真15:「陽だまりサロン」には、1日平均十数人の高齢者が通っている
3.多彩なアウトプット活動を通して、子どもの表現力の向上を図る
自然と一体化した校舎での学びや遊び、地域との協働による取り組みを通して得た多様な気づきを言語化させることも、教育活動の中核として位置づけている。その代表が、各教科の授業や学校行事などの振り返りとして取り入れられている「俳句づくり」だ。例えば、5月、同校の中庭には、藤やハナミズキなどの花が咲く。そこで、前編で紹介した各学年混合の班「ドリームグループ」ごとに中庭に集まり、藤の花を見ながら昼食をとる「藤まつり」を実施している(写真16)。「藤まつり」では、俳句大賞の表彰式を行ったり、子ども一人ひとりが事前につくっておいた俳句を藤棚の下に掲示したりもする。
「自分が感じたことを生き生きと述べる子どもが目立ち、自分の気づきや感動を自分の言葉で表現していると感じます。また、自分と他者の感じ方の違いが分かるよう、全員の短冊を藤棚に掲示しています」(白石校長)
ほかにも、子どもが自分の好きな本を読み、それについての感想文を書いて発表したり、教師へのインタビュー調査を通して、「笠原小学校の外壁はなぜ赤いのか」といった学校についての疑問の答えを探り、それらを壁新聞にまとめたりするなど、多彩なアウトプット活動を行っている。
「本校には、教室以外にも、子どもが学んだり、気づいたりする機会がたくさんあります。そこで、自分の発見や感動を発表する場面を積極的につくり、子ども同士が互いに刺激を受け合えるようにしました。そうして子どもたちの学びをつないでいくことは、教師の重要な役割だと考えています(写真17)」(白石校長)
写真16:5月になると、藤棚は鮮やかな紫色に染まる
写真17:同校が重視する教育方針「学びをつなぐ教育」
4.全学年で英語教育に力を注ぐ
近年は英語教育にも力を注ぎ、全学年で英語の授業を行っている。そのきっかけは、2014年度、同校と、同町立東小学校、同町立百(もん)間(ま)中学校の3校が文部科学省の「外国語(英語)教育強化地域拠点事業」の指定校となったことだ。夏目漱石の門下の英文学者である島村盛(もり)助(すけ)氏が同町(旧・百間村)の出身であり、同町の小学校では、以前から道徳の授業などで島村氏を取り上げていた。そうした地域性もあり、町内の小中学校が合同で同事業の指定を受けた。
同校では、全学年の毎回の授業で英語を「聞く」「話す」活動を中心に据え、担任やALT、JTEによる授業を行っている。そのねらいを、白石校長は次のように説明する。
「ネイティブの発音になるべく多く触れ、自然な英語を耳で習得してほしいという思いがあります。子どもが英語を話したくなるような場面を設定したり、子ども同士が気づきや学びを共有したりできるよう、授業は担任が中心となって進めています。子どもの感性を豊かにすることを重視した本校の教育活動や学校経営は、英語教育にもよい影響を及ぼしているようです」
5.ICTを活用し、子どもの学びをより深めていきたい
同校の取り組みの成果は、子どもの姿に表れている。例えば、教科学習や学校行事では、自分で目標を設定し、その達成に向けて努力をする子どもが目立つ。すぐには結果に結びつかない場合も、クラスメートや上級生、教師、地域の人たちに進んでアドバイスを求め、試行錯誤を重ねている。
「粘り強く取り組んだり、失敗から学んだりしながら、子どもたちは次第に『やればできる』という自信をつけていきます。将来、社会に出れば、簡単には解決策が見つからない課題と向き合います。また、グローバル化を背景に、急激な変化が進む現代では、以前にはなかった課題を解決できるよう、新しいアイデアを出すことが欠かせません。自分で気づき、行動に移す意欲や、他者と協働しながら粘り強く取り組む姿勢といった、本校で身につけた資質・能力は、そうした社会を生きていく支えになると考えています」(白石校長)
教師の指導力が向上しているのも、大きな成果だ。赴任当初は「自分が教える」といった意識だった教師も、次第に「子ども自身が学ぶ」ことを大切にした指導に力を入れるようになる。そうした中で、子ども一人ひとりの気づきや学びをつなげ、クラス全体で共有できるよう、声かけなどを工夫していくという。
「教室外での活動を積極的に行っている本校では、教師が子どもの変容や成長に気づく機会も増えます。教師であれば誰しも、そうした子どもの姿をより多く見たいと感じるでしょう。そこで、指導改善に意欲的に取り組むようになるのだと考えています」(白石校長)
今後は、教育活動をさらに充実させられるよう、取り組み一つひとつのねらいや位置づけをより明確にし、整理しながら、新たな取り組みを取り入れていく。その1つが、ICTの活用だ。現在、同校では、タブレットなどのICT機器の整備が着実に進められている。
「今後、タブレットを活用していけば、目の前にないものや景色などを見ることができ、子どもの学びの機会が広がります。また、子ども同士が互いの考えを共有しやすくもなるでしょう。自然と都市の融合という齋藤町長の街づくりの精神を継承し、従来の取り組みの強みを生かしながら、新しい挑戦を続けていきたいと考えています」(白石校長)