【分析1】 勉強が「好き」な子どもの学習レリバンスの分類と構造[2/4]

3.勉強の「好き/嫌い」に関する子どもの語り -保護者の関わりと子どもの勉強への意味づけ-

(1)一貫して勉強が「好き」な子どもはどのような子どもか

 インタビュー調査における回顧的語りにおいて、一貫して勉強が好きと答える子どもが3名存在する。まず、彼/彼女たちの成績とともに好きである理由をどのように語るのかを確認し、保護者との関わりについても検討することにしたい。

事例1【02fさん】の家庭環境

<父親/母親の関わり方の違い>
 02fさんは成績が上位であり、勉強が一貫して「好き」であると回答している生徒である。保護者も02fさんの成績について上位であると認識しており、成績の情報についての共有がなされていることがうかがえる。02fさんは、父親とは勉強のやり方や社会のニュースなどを話す、母親は勉強以外の相談に乗ってもらうというように、異なる話題ではありながらも両親とは積極的にコミュニケーションをとっているのである。
 例えば、02fさんによると、父親とは「小学校んときは、塾の送迎とかがほとんど父親だったから、勉強とか社会のニュースとかそういうところばっかり(喋っていた)」というように、学習内容に関することについて相談することが多かった。その中でも勉強については「わからないところとか父親の方が教えてくれたり」と「やり方」を教えてもらっていたという。
 一方、母親は「あんまり内容とかを教えてくれることはなくって。もう、今、勉強しいやとかいろいろ、そういうな声はかけてくれたりとか。よく勉強の大切さとかを教えてもらったりとか。これから将来のこととか。今、勉強しといた方が絶対いい、役立つから将来に」ということや、「(母親との相談は)勉強のことよりはほとんど友達とかのことが多くって。(02fさんは)あんまり友達関係とか上手くやれる方じゃなかったから。(母親は)ずっといろいろもう、ほんまに小1の頃からずっと相談乗ってくれてはって。」と語るように、学習内容というより勉強の大切さや将来のことなど、あるいは、友だち関係についての相談が多い。
 02fさんの母親に対するインタビューと合わせて検討すると、保護者の関わり方については下記のように、02fさんと概ね一致している。
(学校生活で)人間関係が難しいなっていうのがまず1つですね。女の子同士の、いったら付き合い方とか、そういうのが苦手な子なので、そういうふうなのはやっぱりますます難しくなってきたなっていうのはあります。
小学校までは勉強私いちいち口出ししてたんですけど、ちょっと中学校になってくると教え方が先生より上手かってそんなこった絶対にないので、内容がどうかとか。今何やってんねんことは聞いたりしますけど、ここの問題見てこうしたらとかいうようなことは、特に数学なんか特に苦手だったんで私も、無理ってもう塾の先生に聞きなさいとか言うことは言ってます。
< 02f、保護者(母親)>
 母親へのインタビューであったため、父親に関する言及は少ないが、02fさんが懸念している学校生活の人間関係を把握し、中学校に上ってからの勉強に関しては塾の先生に頼っていることが示されている。
<進学塾の活用>
 02fさんは小6のときに塾を進学塾に変えている。その結果、02fさんは「めちゃくちゃ大変で。もう夜中の3時まで勉強するような。(3時までかかるのは)塾の宿題もあるし、他のこともいろいろ。」と述べており、勉強内容に関しては家庭から塾へと相談相手が移行している。その理由として母親は以下のように述べている。
小学校6年のときは、私の教えが上手いこといってると思ってたと思うんです。だから成績もごっつ良かったしね。もうなんかこう、これって好きになってくれてんのかなとかいうのも思てたんやと思いますわ。…(中略)…塾も言うたら、そんな勉強ばっかりじゃなくていろいろなこう幅広い勉強さしてくれはったんで、辛かったけどある程度面白かった。
< 02f、保護者(母親)>
 母親は小6の時の受験のための塾で幅広い勉強を経験したために面白さを感じることができたのだろうと述べている。これについて、02fさんのインタビューで「一番、勉強関係で影響を与えている人は誰か」という質問に対して「塾の先生」と答えていることからも、小6からの塾の先生に強い影響を受けていることがうかがえる。
 それでは、勉強が「好き」と答える02fさんが、勉強が好きな理由/勉強をする理由をどのように語るのかについて検討することにしたい。

事例1【02fさん】の勉強が好きな理由/勉強をする理由

<できるようになると楽しい>
[調査者](勉強を)長時間続けるのは好きじゃない。じゃあなんか好きな理由ってあります?
[子]覚えられたり、できたりとかすると嬉しかったり楽しかったりするから。…前まであんまり解けなかったけど、もう1回教えてもらってやったらできるようになったりとかしたら。
<02f、子ども、成績上位>
 02fさんは勉強が好きな理由を「覚えられたり、できたりすると嬉しかったり楽しかったりする」という勉強そのものの面白さに言及している。一方で、勉強をする理由については別の理由が述べられている。下記のように、勉強をしなければいけない理由が存在しているということである。
<周りの環境から抜けたい>
[調査者]02fさんにとって、今勉強する1番の理由ってなんですか?
[子]周りの子から、周りの環境から抜けるため。
[調査者]うん。抜けるってどういう?
[子]結構レベルが低いっていうか、すごい陰湿ないじめとかもあるし、すごい低いテストの点数とかでも、普通に思ってはったりとかすることが多かったりとか。普通に規則破ったりとかもしはるし。そういうのも嫌やから、結構合わない子が多くって。
< 02f、子ども、成績上位>
 02fさんの通っている学校の子どもたちが02fさんとは合わないために、勉強をすることで「周りの環境から抜ける」ことを望んで勉強をしているということである。このように、勉強をする理由としては勉強の面白さだけではなく、「周りの環境から抜け出すため」という現在の状況を変えたいという期待も存在している。
 従って、勉強が「好き」な状態を維持している02fさんは、勉強そのものの面白さという現在的レリバンスとともに、現在の状況を変えたいという将来的レリバンスを持っていることが確認される。

事例2【01mさん】の家庭環境

<子どもの興味関心への理解>
 01mさんも成績が上位であり、勉強が一貫して「好き」であると回答している生徒である。保護者も01mさんの成績について上位であると認識している。01mさんは、父親と勉強や成績のことをよく話すと述べている。特に数学的な話が中心であり、「6年生の時に、方程式の予習とかしたりとか。あと理科でよく元素のことは話してました」というように、数学や理科に関する知識について父親から話を聞くことが多い。また、母親とは勉強の内容ではなく、学校の出来事について話している。学校の朝読書や休み時間に読んでいる本については、「中学生におすすめの本っていう、母親が良さそうだなっていうやつとか」を読んでいる。選ぶ本は算数に関する小説であり、母親が01mの興味関心を理解して選んでいるのである。
<勉強は教えない>
 一方で、01mさんは母親と勉強内容について話すことはあまりないと述べている。そこで、下記から母親が勉強を教えない理由を検討したい。
[母]数学の授業参観のときの数学とか見て、教え方が全然、自分が習ったときと違うので、あらあと思って。
[調査者]どんなふうに違うんですか?
[母]小学校のときそうだったんですけど、算数とかの考え方も、ちょっとおはじきとかいろいろ使ったりするじゃないですか。私たちのときとちょっと、私たちはもうこう計算を書いて、普通の引き算ですけど、おはじきを置いてこれがなくなったからどうのこうのとか、いろいろ複雑なことやってるんで、ええ、そんな教え方するんだみたいな不思議な感じだったので、すごくあら、じゃあ自分の教え方してもたぶん伝わんないし、迷っちゃうかなと思ったので、学校の勉強の仕方がもうルールなんだからそれでいいかなあと思って。変に教えない方がいいかなあっていうのがあったので、家の勉強は全部ノータッチで。
 だから国語だったりするのも、その全然もう時代が違うんだなあと思って。変に教えない方がいいなと。…まあ歴史は年代が変わったり言い方が変わったりするので、変な覚え方されるよりはちゃんと学校のがいいかなっていうので。触らないで、わかんないっつったら、じゃあこういうの調べてみたらとか、図書館行ってみようかとか、科学館じゃあ行ってみるとか、そういう感じ。
<01m、保護者(母親)>
 「学校の勉強の仕方がルール」になっているために、家で母親自身のやり方を教えると「伝わらないし、迷っちゃうかな」と述べている。それ以来、小学校から「家の勉強は全部ノータッチ」である。しかし、勉強に何も関わっていないわけではない。「図書館に行ってみようとか、科学館に行ってみるとか」という声かけをして、わからないことを自分で調べるように働きかけているのである。続いて、勉強が「好き」と答える01mさんが、勉強が好きな理由/勉強をする理由をどのように語るのかについて検討することにしたい。

事例2【01mさん】の勉強が好きな理由/勉強をする理由

<ちょっとした工夫で解けると楽しい>
[子]数学は前から好きです。
[調査者]はい。それどういうところが好きなの。
[子]やっぱりちょっとした工夫ですごい簡単に解けるものが多いので、それがすごい楽しいので。
<01m、子ども、成績上位>
 01mさんは勉強の中で数学が特に好きである。勉強が好きな理由としては、解答へ導く過程を知ることで、簡単に解けることを知り、それが楽しいというものである。また、02fさんと同じように、勉強が好きだからという理由だけで勉強をするわけではない。
<大人になって恥をかかないため>
[調査者]勉強している1番の理由って何かなと思って。
[子]大人になって恥をかかないためとか、そういう感じだと思ってます。いろいろ悩んだりとか、そういう感じで苦労したりとかしないようにっていう。結構生かされることが多いかなって思ってて。
<01m、子ども、成績上位>
 勉強をする理由を述べる時、将来のことについて言及されている。「大人になって恥をかかない」「苦労したりしないように」というものである。今勉強するのは将来に生かすためであると考えている。01mさんも、勉強が楽しいという現在的レリバンスとともに、将来苦労しないようにという将来的レリバンスを持っていることが確認される。

事例3【03fさん】の家庭環境

<小学校低学年から「勉強のやり方」を伝えていた>
 03fさんは小6のときのアンケート調査では嫌いと回答していたが、インタビュー調査では小6のときから勉強が好きであると回顧的に述べているため、勉強が一貫して「好き」である語りとして取り上げる。小5では授業で扱う「問題の量が多」かったり、「ノートをたくさんとらなくちゃいけな」かったりしていたために、勉強があまり好きではない時期もあったが、小6での「自分で勉強してちょっと楽しかった」経験を回顧的に語っている。それは03fさんが勉強を好きになるきっかけとなっていると言えよう。
 家庭に関しては、母親とは友達の話をし、父親と学校の授業でわからなかったことについて話すことが多く、特に小5・6のときに父親が具体的に解き方を教えてくれたという。また、解き方だけではなく、「ノートを書くのが遅いので教科書に書き込んだり、ノートをとるだけに集中するなって言われました」というように、勉強の方法も教わっている。03fさんの父親に対するインタビューによると、保護者の関わり方については下記のように、勉強のやり方を教えることに重点が置かれている。
基本的には私は暗記主義というか、覚えなさいという教育よりも論理的に考えることを重視してるんで、勉強のやり方を小学校低学年の頃から教えてたつもりです。とにかく何かわからないことがあったらまず自分で辞書を引いたり、調べなさいと。で、わからないことがあったら聞きなさいと。で、とにかく考えなさいと、自分の頭でということを重視して教えてきたつもりなので、高学年とか中学生になったら、もうよほどのことが無い限り私には聞いてこなくなりました。
(勉強の)計画を立てなさいというのは私が特に言ったんですよ。夏休みになったらまず計画を立てなさいと。そうしないとずるずるいって、最後に苦労するよと。だから1日何をするかは自分で計画を立てて、で、しなさいと言ったらもう最近は夏休みとかだけじゃなくって、自分で進んで計画を立てるようなったなと思って。
<03f、保護者(父親)>
 勉強の内容のわからないところを教えるだけではなく、勉強のやり方を小学校低学年の頃から教えることで、辞書を引いたり調べたりして自分の頭で考えることの大切さを03fさんに伝えてきている。その結果、小学校高学年から中学生になると自分で解決するようになり、父親に聞くということはなくなっていると父親は捉えている。同時に、夏休みになったら勉強の計画を立てるように言うことで、「自分で進んで計画を立てるようになった」と評価している。03fさんも20位以上の成績を目指しており、そのために「毎日こつこつワークとかをたくさん進めて」いる。利用するワークも本屋さんで「自分で選」んでいるのである。
 03fさんの家庭では勉強のやり方を教わる環境を父親が整えていたと言えよう。その中で、03fさんは勉強が好きな理由をどのように語るだろうか。

事例3【03fさん】の勉強が好きな理由/勉強をする理由

<わかると楽しい>
[調査者](勉強が)ガーってすごい好きになった1番の理由は、そういう自分で問題集とか解いてわかるようになったことが1番の理由ですか?
[子]はい。…中学になって数学がちょっと苦手だったので、問題集を買ってそれを時々やってます。ちょっと苦手なところとかを中心に勉強したりして、少しは前よりはわかるようになったので(楽しくなった)。
<03f、子ども、成績上位>
 03fさんは父親が働きかけてきた「勉強のやり方」を身につけることで、自分でワークを選んでそれをこつこつ進めることができるようになってきている。その結果、中学で数学が苦手と感じていても、「問題集を買って」進めていくことで「わかるようにな」るという経験を積み、それが勉強を楽しいという現在的レリバンスを持つことにつながっている。一方、上記の2つの事例と同様、勉強する理由は将来のことに言及されている。
<将来困らないように>
[調査者]勉強をする1番目の理由って何かなっというのを聞きたいんですけど。
[子]将来で困らないように。
[調査者]ふうん。何に困らないようにってことですか。
[子]働くと思うので、数学とかわからなかったら駄目かなと思って。
[調査者]ふうん。そうなんですね。そっか、宇宙関係の仕事で働くため?
[子]はい。
<03f、子ども、成績上位>
 03fさんの場合、勉強をする理由は将来の夢である「宇宙関係の仕事で働く」ことを実現させるために、数学がわからないと駄目であると考えているからである。

 上記では、勉強が「好き」であることが一貫している生徒について、3つの事例を検討してきた。そこから明らかになったのは次の3つである。
 第1に、3人とも成績が上位であり、保護者も自分の子どもの成績を上位であると認識している。第2に、保護者との関係では、勉強を教える/教えないという2つのパターンが確認されたが、勉強内容を教えないといっても勉強に全く関心がないわけではなく、わからないところは自分で調べるように働きかけるようにしていた。また、両親のどちらかが「勉強のやり方」を教えていた。それは、勉強内容の難易度が上がる中学校に入っても、子どもが自分で勉強が進めていけるような働きかけである。第3に、子ども自身が勉強を好きな理由について語るときは「わかると楽しい」といったように勉強そのものの面白さに言及し、勉強をする理由については、自分の将来のためであるという語りが多かった。
 3つの事例であるために、さらなる調査が必要であるが、一貫して勉強が好きであると述べている生徒は、学習意欲に関しては勉強そのものの面白さという現在的レリバンス、勉強をする理由としては将来的レリバンスに言及した語りであった。
 本田(2004)は「子どもの間にはまず勉強を「役立つ」と思えるか否かで断層があり、それに加えてもう一歩進んで「面白い」とまで思えるか否かでさらに分化が存在している」(pp.81-82)と述べている。今回の事例においても勉強を面白いと語っていた生徒は、勉強が将来に役立つことについても語っていた点において、インタビュー調査でも同様の結果が示されたと言えよう。
 それでは、本田(2004)は「将来的レリバンス」が「現在的レリバンス」の前提条件であると述べているが、「将来的レリバンス」はどの生徒にも幅広く根付いているのだろうか。さらに検討を進めることにしたい。