【分析1】 勉強が「好き」な子どもの学習レリバンスの分類と構造[1/4]
松浦 加奈子●まつうら・かなこ
一橋大学社会学研究科博士後期課程。都留文科大学・大妻女子大学非常勤講師。専門は教育社会学。教師ストラテジー、学級秩序、発達障害児支援、合理的配慮に関して、理論的・実証的に研究している。主要業績として、「授業秩序はどのように組織されるのか-児童間の発話管理に着目して-」『教育社会学研究』(日本教育社会学会、2015年)、「特別支援教育の取り組み状況の校種間比較-教師の期待認知・責任意識の形成に着目して-」『教師の責任と教職倫理-経年調査にみる教員文化の変容』(共著、久冨善之・長谷川裕・福島裕敏編、勁草書房、2018)など。
1.背景と目的
「子どもの生活と学びに関する親子調査2016」では次の2点が指摘されている。1つ目は、勉強が「好き」な子どもは学校段階が上がるほど減少し、中学生になると、「好き」よりも「嫌い」の方が多くなるという点である(「親子調査2016」速報版 図1-2-1)。2つ目は、学校段階が上がるにつれて、内発的動機づけ(新しいことを知るのがうれしい、問題を解くことがおもしろい)で勉強する中高生の割合が低くなる一方、外発的動機づけ(自分の希望する高校や大学に進みたい、友だちに負けたくない)と回答する割合は高まっている点である(「親子調査2016」速報版 図2-1-1)。学校段階が上がるほど、勉強が好きであることを維持することが困難となり、内発的動機づけによって勉強に取り組む子どもは減少するということである。
そこで本稿では、18組の親子に対するインタビュー調査の結果から、子どもたちの勉強の「好き/嫌い」の実態とその変化を捉え、学習の動機づけや保護者の関わりとの関係を明らかにすることを目的とする。
本田(2004)は「子どもが学習にどのような意味や意義を感じているか」ということを「学習レリバンス(relevance)」と表現し、それを「現在的レリバンス」と「将来的レリバンス」の2つに分け、前者を学習そのものの面白さを指すもの、後者を学習が将来何かに役立つといった感覚のものとして設定している。そして、2001年に実施された「学力・生活実態調査」における小学5年生と中学2年生の質問紙の分析結果から、「「将来的レリバンス」が「現在的レリバンス」の前提条件であり、「現在的レリバンス」単独では成り立ちにくい」(p.81)ことを明らかにした。さらに、「長期的に有効性を発揮する資質の形成という視点から見ると、「将来的レリバンス」のみの効果は存在せず、そこに「現在的レリバンス」が加わって初めて効果が現れることになる」(p.97)ことを指摘している。
上記の点は、学習レリバンスを分類し、それらが教育達成に対する効果を明らかにするとともに、長期的な学習への志向をも規定することを示した点で意義がある。
このような結果をもとに、本稿では「学習や「学力」に対する個々の子どもの側からの主観的意味付与」(p.78)としての学習レリバンスが子どもの学習意欲(勉強の好き/嫌い)とどのような関係にあるのか、保護者との関わりについて子どもと親はどのように語るのかについて、分析を深めることにしたい。それは、学習レリバンスを持つ子どもが必ずしも学習意欲が高いとは限らないという想定がされるからである。そして、冒頭で述べたように、小学校から中学校へ上がると勉強が「嫌い」と答える子どもが増加するとともに勉強に対する内発的動機づけが減少するという結果を踏まえて、勉強が「好き」と語る子どもの学習レリバンスの構造について、新たな方向性を示していく。本稿における分析対象は、小学6年生から中学1年生にかけて勉強が「好き」な状態を維持している子ども3名と勉強が「嫌い」から「好き」に変化した子ども3名、そしてそれぞれの保護者の語りである。
構成は以下の通りである。第1に、一貫して勉強が「好き」と答えている子どもは勉強の何が好きなのか。勉強をどのように捉えているのか。成績との関連はどうか。第2に、勉強が「嫌い」から「好き」へと変化している子どもはどのような理由で勉強が好きになっているのか。第3に、保護者は勉強面に関して子どもとどのように関わっているのか。これらを保護者と子どものインタビューデータにおける語りから明らかにしていく。なお、3節の分析で登場する子どもたちの勉強の好き/嫌いは小6から中1のアンケート調査とインタビュー時のグラフ、インタビュー内容を総合して判断している。
2.勉強の「好き/嫌い」を語るということ
本調査では、アンケート調査で勉強が好きと回答していても、インタビュー調査時には勉強が嫌いと語る子どもがいる。反対に、アンケート調査で勉強が嫌いと回答していてもインタビュー調査で勉強が好きと語る子どももいる。このように、アンケート調査とインタビュー調査における勉強の好き/嫌いは一致していない。これは何を示しているのだろうか。
単純に考えれば、1年を通じて勉強の好き嫌いを持続させる子どもは少ないということになる。それは、インタビュー開始前に勉強の好き嫌いの変化のグラフを記入してもらった結果からも明らかである。
一方で、下記のように考えることもできる。語り手はインタビュアーや世間を意識せずに語ることはできないために、語られたことの解釈については語り手とインタビュアーの関心からその場で構築されるという立場である。
体験された過去の出来事は、口述/記述される場合には、言語的形式の制約を受けて表象される。つまり、過去に体験された出来事は、言葉によって語られることによって、その場でつくられる。そのうえ、語りには現在の語り手の動機も作用する。語り手はインタビューの場で語りを生産する演技者であって、十分に聴衆(インタビュアー、世間など)を意識して語るのである。彼/彼女はもともともっている情報を提供するたんなる〈情報提供者(インフォーマット)〉ではないのである。その意味で、ライフストーリーは過去の出来事や語り手の経験を表象しているというより、インタビューの場で語り手とインタビュアーの両方の関心から構築された対話的な構築物にほかならない。
(桜井2005、pp.38-39)
(桜井2005、pp.38-39)
そこで、アンケート調査をした時点では異なる回答をしたとしても、インタビュー場面において、子どもがインタビュアーに対して勉強が好き/嫌いな私を語るとき、彼/彼女の経験がいかに勉強の好き/嫌いと結び付けられているのか、また、勉強の好き/嫌いの揺らぎをもたらす要因は何かについて焦点を当てていく必要があるだろう。