2014/12/24
第62回 メディア利用時間が子どもの成績に与える影響はどれくらいか?
ベネッセ教育総合研究所 初等中等教育研究室
研究員 佐藤 昭宏
研究員 佐藤 昭宏
近年、中高生の間でもスマートフォンが普及したことで、子どもたちのインターネット利用は急速に拡大し、そのアクセスの仕方も多様化している。ベネッセ教育総合研究所が2014年に行った「中高生のICT利用実態調査」では、高校生のインターネット利用者は96.9%にのぼり、そのうちスマートフォン利用者が8割を超える。利用場面は友だちとのやりとりといったコミュニケーション利用にとどまらず、趣味や学習など生活における多くの場面でさまざまな機能やサービスを利用している実態が明らかになった(第61回オピニオンを参照)。
メディアを有効に活用する力は、近年、文部科学省も重視している。文部科学省が2011年に公表した「教育の情報化ビジョン」には、「情報活用能力の育成」を通した教育の質の向上が明示されており、「必要な情報を主体的に収集、判断、処理、編集、創造、表現し、発信・伝達できる能力」を育むことが、今後の社会を生き抜く上での重要な力になるとしている。ICTメディアは今後さらに子どもたちの生活に深く浸透し、日々の行動と密接な関わりをもっていく可能性が高い。しかしながらメディア利用が全面的にポジティブに捉えられているわけではない。例えば、友人関係の維持のために携帯やスマホを手放せないといった「ネット依存」は、メディア利用のネガティブな側面として捉えられている。総務省の情報通信政策研究所が2014年1月に都立高校生を対象に実施した「高校生のスマートフォン・アプリ利用とネット依存傾向に関する調査」では、「スマートフォンの利用開始により減少した時間」の上位に「睡眠時間」「勉強時間」が挙がっており、子どもたちの生活時間への悪影響が指摘されている。また、文部科学省が発表した「平成26年度全国学力・学習状況調査の結果について(概要)」では、携帯電話やスマートフォンでの通話やメール、インターネットの利用時間が長い子どもほど、学力テストの平均正答率が低い傾向が確認されている。こうした状況を受けて、自治体や学校単位で子どもたちの夜の携帯電話やスマートフォンの利用を制限したりする動きがみられる。
だが、気になるのは、子どもの生活時間や勉強時間が奪われる要因、また成績が低下する要因は「メディア利用の長時間化」以外にもあるだろうということだ。メディア利用の長時間化がどの程度マイナス影響を与えているかは、その他の要因も考慮した上で論じられるべきだ。そこで、ここでは中学生のインターネット利用者を対象に、メディア利用時間の長短がどの程度成績に影響を与えているか、特に成績への影響が大きいと考えられる普段の学習態度と併せてその影響力を検証してみよう。
メディア利用時間と成績の関係
最初に、メディア利用時間と成績の関係をみてみよう。ここではメディア利用時間として「インターネットやメールをする時間」(図1)をとりあげる。
図1 メディア利用時間(インターネットやメールをする時間)と成績の関係
N=2706, 0.1%水準で有意 p=0.000, ガンマ係数 -0.118
※ インターネットやメールをする合計の時間:ここでは「15分くらい」「30分くらい」を「30分以下」に、「4時間くらい」「5時間くらい」「5時間以上」を「4時間以上」にまとめている。
※ 成績の平均値は2.96
※ インターネットやメールをする合計の時間:ここでは「15分くらい」「30分くらい」を「30分以下」に、「4時間くらい」「5時間くらい」「5時間以上」を「4時間以上」にまとめている。
※ 成績の平均値は2.96
クロス分析の結果、メディア利用時間が短い層で成績が高く、一方メディア利用時間が長い層で成績が低い傾向がみられた。やはりメディアの利用時間は成績に対してマイナスの影響を与えているようである。ただし関連の強さを示すガンマ係数は-0.118と、それほど強い相関はみられない。
普段の学習態度と成績の関係
次に、普段の学習習慣や態度と成績の関係についてもみてみよう。メディア利用時間が成績に与える影響を検討する際に、子どもたちの普段の学習態度がどの程度成績に影響しているかを考慮しておく必要があるだろう。図2は、「わからないところはまず自分で考える」【自力志向】と成績の関係をみたものである。
図2 「わからないところはまず自分で考える」【自力志向】と成績の関係
N=2704, 0.1%水準で有意 p=0.000, ガンマ係数 0.404
※ 「分からないところは自分で考える」は、分析のため「とてもあてはまる」~「まったくあてはあまらない」を4~1に逆転して割り当てている
※ 「分からないところは自分で考える」は、分析のため「とてもあてはまる」~「まったくあてはあまらない」を4~1に逆転して割り当てている
分析の結果、「わからないところはまず自分で考える」という自力志向の強い生徒ほど成績が高く、自力志向の弱い生徒ほど成績が低い傾向がみられた。また関連の強さを示すガンマ係数は0.404と、普段の学習態度と成績の間に比較的強い相関があることが確認された。
さらにもう1つ、学習態度と成績の関係をみてみよう。図3は「わからないところはすぐに誰かに教えてもらう」【他力志向】と成績の関係をみたものである。
図3「わからないところはすぐに誰かに教えてもらう」【他力志向】と成績の関係
N=2695, 0.1%水準で有意 p=0.000, ガンマ係数 -0.223
※ 「分からないところはすぐに誰かに教えてもらう」は、分析のため「とてもあてはまる」~「まったくあてはあまらない」を4~1に逆転して割り当てている
※ 成績の平均値は2.96
※ 「分からないところはすぐに誰かに教えてもらう」は、分析のため「とてもあてはまる」~「まったくあてはあまらない」を4~1に逆転して割り当てている
※ 成績の平均値は2.96
結果をみると、他力志向の強い生徒ほど成績が低く、一方、他力志向の弱い生徒ほど成績が高い傾向が確認された。また関連の強さを示すガンマ係数は-0.223と自力志向ほどの関連の強さはないものの、他力志向と成績の間には自力志向とは異なる負の相関がみられた。
中学生の成績の規定要因
ではそれぞれの要因は、中学生の成績にどれくらいの影響を与えているのだろうか。その影響の強さを比較したものが、次の重回帰分析の結果である(表1)。
表1 中学生の成績の規定要因(重回帰分析)
※ 平日のインターネットやメールの時間、平日の学校外の学習時間:「しない」=0、「15分くらい」=15「30分くらい」=30、「1時間くらい」=60、~「5時間以上」=360など、それぞれ実数換算して使用。
※ 「わからないところはまず自分で考える」「わからないところはすぐにだれかに教えてもらう」:それぞれの項目について「とてもあてはまる」~「まったくあてはまらない」を4~1に逆転リコードして使用。
※ 成績:「上のほう」=5、「真ん中より上」=4、「真ん中くらい」=3、「真ん中より下」=2、「下の方」=1に得点化して使用。
※ 独立変数間に多重共線性の問題は確認されなかった。
※ 「わからないところはまず自分で考える」「わからないところはすぐにだれかに教えてもらう」:それぞれの項目について「とてもあてはまる」~「まったくあてはまらない」を4~1に逆転リコードして使用。
※ 成績:「上のほう」=5、「真ん中より上」=4、「真ん中くらい」=3、「真ん中より下」=2、「下の方」=1に得点化して使用。
※ 独立変数間に多重共線性の問題は確認されなかった。
結果をみると、まずインターネットやメールの利用時間の長さは、成績に対して負の影響をもっている。次に学習態度であるが、「わからないところはまず自分で考える」の自力志向は成績に対してプラスの影響があるのに対し、「わからないところはすぐに誰かに教えてもらう」の他力志向はマイナスの影響が確認された。またそれぞれの標準化偏回帰係数の大きさを比べたところ、「わからないところはまず自分で考える」の自力志向は0.289と、インターネットやメールの利用時間の2倍以上の規定力を持っていることが確認された。
メディア利用時間以上に、自ら学ぶ学習態度を身につけることが成績向上には重要
上記の結果をまとめると、たしかにインターネットやメールの利用時間が長くなると成績にマイナスの影響を与える。しかし今回の結果から明らかになったことでより重要なことは、メディアの利用時間が短くなったからといって成績が上がるものではなく、メディア利用時間の長短以上に、どのような学習態度を持っているかのほうが成績に対してより影響力がある、ということである。
こうした普段の学習態度は、学習時のメディアの使い方にも影響している可能性がある。詳細な説明は割愛するが、学習態度別に学習時のメディア利用内容を調べたところ、自力志向が強い生徒は「調べ学習やレポートをまとめるための情報収集」や「英語のリスニングや発音を聞く」、他力志向の強い生徒は「メールやチャットでわからないところを質問する」で利用率が高いといった具合に、学習態度において一部メディアの使い方に違いがみられた。
子どもの発達段階に応じて大人がいかに子どものメディア利用時間を管理、規制するかという視点はたしかに重要だ。しかしそれだけでなく、子どもがどのように学習をしているか、メディアを利用しているかという視点から、メディアの「適切な使い方」が検討されてもよいのではないだろうか。
著者プロフィール
佐藤 昭宏
ベネッセ教育総合研究所 研究員
ベネッセ教育総合研究所 研究員
ベネッセコーポレーション入社後、初等中等領域を中心に、子ども・保護者・教員の意識・実態、教育選択に関する調査研究を担当。近年、担当した主な調査は、
「中高生のICT利用実態調査」、「小中学生の学びに関する実態調査」(2014年)、「第2回学校外教育活動に関する調査」(2013年)、「第5回学習指導基本調査」(2010年)など。その他、教育情報誌編集や教材開発にも携わる。
その他の活動:福岡県教育センター専門研修講師(2014年)、公立小中学校校長会研究大会・公立高校進路講演会講師(2010~2014年)。
最近の研究関心:「自律的な学習者を育てる指導の在り方」「消費社会における子どもの自立・社会化」「義務教育段階におけるキャリア教育のあり方」。