2014/12/09

第61回 デジタルネイティブ世代の「つながり」とは? -「中高生のICT利用実態調査2014」より-

ベネッセ教育総合研究所 高等教育研究室
研究員 吉本 真代
 現在の中高生は生まれた時からインターネットやデジタルメディアに囲まれて育ったデジタルネイティブ世代である、とよくいわれる。ICTメディアの利用に関する調査は多く実施されているが、メディア環境の変化が速いこともあり、必ずしもその全体像がとらえられているわけではない。世代間の違いもさることながら、その世代内の違いはどうなっているのだろうか。当研究所では、2014年2~3月にかけて、中1生~高2生(中学生3,203名、高校生6,265名)を対象に、「中高生のICT利用実態調査」を実施した。この調査では、スマートフォンなどのICTメディアの利用が、中高生の生活や文化にどのような影響を与えているのか、コミュニケーション、学習、趣味、情報入手など生活の様々な場面において、ICTメディアを通した中高生の姿をとらえることを目的としている。本稿では、その中から特に、オンライン上の「つながり」と「コミュニケーション」に焦点をあてて、中高生の実態をみていく。その上で、それが将来どのような影響をもたらすのかについて、考えてみたい。

つながりの範囲 ~オンライン上の知り合い・オフラインへの移行の実態~

 まずは、オンライン上のつながりの範囲についてみていこう。本調査は、学校経由で実施しているため、ふだんインターネットをまったく利用していない人も含めた中高生全体の分布をみることができる。図1は、オンライン上のつながりの範囲について、「①学校など、リアルの人間関係の延長上のつながりのみ」「②ネットで知り合った人がいるが会ったことはない」「③ネットで知り合った人に会ったことがある」に分けて比率を示している。 
 まず、前提として、中学生には、ふだんインターネットを「まったく使っていない」(学校の授業の利用は除く)人が1割、ネットを使っていても「コミュニケーション利用はしていない、または月1~2回以下」の人が2割存在する。そして、中高生ともネットで知り合った人がいる割合が2割強(②+③)、うち会ったことのある比率(③)は中学生5.1%、高校生8.2%であった。中学生と高校生ではあまり違いがないようにみえるが、中学生は高校生に比べてコミュニケーション利用者(=行為者。①+②+③)が少ないため、行為者に占める割合は高いことになる。また、世代内の差異という点でも、中学生はより多様になっている。
 つながりの数の面ではどうか。高校生では「LINE」の友だちの数が、「300人以上」の人が、ネット利用者の3%、「Twitter」のフォロワーを「500人以上」もつ人が5%存在した。つながりの数の個人差も大きいといえるだろう。
図1.オンライン上のつながりの範囲[中高生全体]

趣味でも勉強でも「つながる」

 今回の調査では、「インターネット上で趣味の情報や作品を発信したり、趣味のグループやコミュニティに参加しているものはありますか」と、オンライン上の趣味のつながりの有無をたずねている(図2)。結果は、中高生とも約2割が趣味のつながりがあると回答している。性別では、女子の方が若干多く4分の1が該当する。なお、オンライン上のつながりのある趣味の内容で、最も多かったのは中高生ともに男子が「ゲーム」、女子が「タレントやアーティストの情報収集やコンサートに行く」ことであった。
 また、趣味のつながりのある中高生のうち、約半数は「ネットで知り合った人・友達がいる」と答えており、そのうち高校生では41.5%、中学生では27.6%が実際に会ったことがあると答えている(図3)。趣味をきっかけとしてオンライン上の人間関係が広がり、かつ特に高校生になるとオフラインの関係にも移行しやすい傾向がみえる。
図2.趣味のつながり[中高生全体・性別]
図3.インターネットで知り合った人・友達がいる割合
(趣味のつながりの有無別)[中高生ネット利用者]
インターネットで知り合った人・友達がいる割合
 一方、勉強に関しても「つながり」の影響がみられた。調査ではインターネットやメールの学習利用についてもたずねている。学習にあたって「メールやチャットで友だちにわからないところを質問する」は中学生26.4%、高校生では約半数の48.3%(「よくある」+「ときどきある」の%)が行っている。「授業のノートや定期テストの過去問題を友だちと交換する」も、中学生では8.0%とわずかだが、高校生は27.2%と4分の1が該当した。高校生になると、学習する際にもネットやメールを使って友だちと協力しながら勉強する人が増えることがわかる。
 さらに、ニュースなど社会のできごとに関する情報の入手経路も変わりつつある(図4)。ニュースなどの入手経路として利用しているのは、依然「テレビ」(86.0%)が最も多いものの、高校生で次に多いのは「Twitter」(39.6%)である(中学生は「Twitter」の利用率自体が高くないため、情報源としての利用も少ない)。特に女子では45.6%と半数近くがあてはまる。情報の入手もネット上の「つながり」の延長線上で行われつつあるようだ。
図4.ニュースなど社会のできごとに関する情報入手経路[高校生全体]
ニュースなど社会のできごとに関する情報入手経路[高校生全体]

コミュニケーションに費やす時間はどれくらい?

 次に、利用時間についてみてみよう。本調査では、「①インターネットやメールを利用する合計の時間」と、「②①のうちメールやチャット(LINEなど)、SNS(mixi、Facebookなど)、Twitterをする時間」(=コミュニケーション利用時間とする)に分けて平日1日あたりの時間をたずねている(図5)。1日のコミュニケーション利用時間は、中高生ともネット利用者の約7割が1時間くらいまでであり、平均時間も中高いずれも1時間強である(「しない」も0として算出に含めている)。しかし一方で、中高生の約1割は4時間以上費やしており、時間の使い方も世代内でかなり異なっている。こうした違いが日々蓄積されることにより、やがては大きな差異となって、学力や生活習慣に違いをもたらすことが懸念される。
 なお、「②コミュニケーション利用時間」が「①ネットやメールの合計時間」に占める割合(②/①)は、中学生64%、高校生70%である。性別では、女子が中高生とも77%であった。女子はネット利用の多くをコミュニケーションが占めていることがわかる。
図5.インターネットやメールをする合計の時間とコミュニケーション利用時間
(平日1日あたり)[中高生ネット利用者]

中高生は「つながりたい」と思っている?

 では、中高生は実際どのくらい「つながりたい」と思っているのだろうか(図6)。「インターネットやメールでたくさんの人とつながりたい」という質問項目に対して、肯定的な回答(「とてもそう」+「まあそう」)は中高生とも約3割であった。積極的につながりたいと思っている中高生は実はそれほど多くはない。
図6.ネットでつながることに対する意識[中高生全体]
 さらに、オンライン上のコミュニケーションに対する意識をたずねた結果をみると(図7)、中高生のネット利用者の約6割が「メールがきたらすぐに返事を出す」と回答している(「とてもそう」+「まあそう」の割合、以下同)。コミュニケーションを大切にしている様子がうかがえるが、その反面、「メールのやりとりが嫌になることがある」(中学生28.2%、高校生51.6%)や「メールやチャットを終えるタイミングが難しい」(中学生31.6%、高校生40.4%)とわずらわしさを感じている中高生も少なくなく、複雑な思いが垣間見える。また、オンライン上で人と知り合うことに関しては、半数以上が「メールやインターネットで知らない人とやりとりをするのは怖い」と慎重な姿勢を示している。だが一方では、先にみたとおり、オンライン上でネットワークを拡大している中高生も少なからず存在しており、そうした「ネットで知り合った人がいる」中高生の約4分の1は、「インターネットで知り合った友だちには本音を話しやすい」(中学生28.3%、高校生23.9%)と回答している。
図7.メールなどのオンライン上のコミュニケーションに対する意識
[中高生ネット利用者]

デジタルネイティブの未来

 こうしてみていくと、趣味に勉強に情報入手に、中高生の生活のあらゆる場面にICTメディアが「つながり」を伴う形で浸透しつつあることがわかる。なかでも、趣味のつながりは、中高生が、学校などの場所の制約を受けずに、興味・関心を同じくする人と文化やコミュニティを形成していくことを意味する。現時点での該当者は2割に過ぎないが、今後オンライン上のコンテンツやサービスが充実すれば、このような中高生が増えていく可能性もあり、その存在は注目に値するだろう。
 また、世代内の差異という点では、多くの中高生が、リアルの延長のつながりにとどまるのに対し、数は多くないがネットワークをリアルの関係以外にも拡大している人もいる。また、時間についても、多くは常識的な範囲の利用時間にとどまるが、極端に長時間の人も存在する。人的ネットワークをもつことは人生を豊かにする面があるが、早い時期からそれにあまりに時間がとられると、それにより失われるものもでてくるだろう。中高生の頃からの人的ネットワークのもち方、人との関わり方や時間の使い方の違いは、彼らが大人になった時、どのようなライフスタイルの違いをもたらすのだろうか。
 スマートフォンなどの高機能のモバイル型デバイスの普及により、中高生がいつでもどこでも使える状況が広がっていくと、周囲の大人からは何をしているのかが見えづらくなっていく。子どもたち自身が、誰とつながり、どのように時間を使い、どういう情報に触れるのか、自分でコントロールできる力を身につけさせることが一層重要になるだろう。
 将来デジタル社会を生きぬいていかなくてはならない子どもたち。メリットとリスクを考えながら自律的に“スマート”にICTメディアを使いこなしていってほしい。

著者プロフィール

吉本 真代
ベネッセ教育総合研究所 研究員
2004年に(株)ベネッセコーポレーション入社後、アセスメント研究や大学における高大連携活動の企画・運営に携わり、近年は中等・高等教育領域を中心とした調査研究に従事している。これまで担当した主な調査に「第2回 大学生の学習・生活実態調査」など。