2014/03/20
【調査研究】 主体的学びためのカリキュラム・リデザインの勧め
元 主席研究員・チーフコンサルタント 山下 仁司
さる3月15日、日本高等教育協会(JAED)とベネッセ教育総合研究所・高等教育研究室の共催で、カリキュラムデザインワークショップが開催された。2012年の質的転換答申を契機として、大学ではPBLやディスカッション、フィールドワークなどの「アクティブラーニング(AL)」を導入する動きが顕著だが、学生が主体的に学ぶようになる効果が見えないなどの声を聞くことも多い。事実、JAEDとベネッセ共同で行った調査(「大学生の主体的な学習を促すカリキュラムに関する調査 アンケート調査編」)でも、ALを導入した大学の課題として「学生に主体的な学びの姿勢や意欲が身についていない」に「よくあてはまる、ややあてはまる」と回答した大学は55.8%に上る。
昨年来、JAEDとベネッセで教育の質的転換に関する実態の調査・研究を続けてきたが、これには一つの仮説があった。それは、アクティブラーニングは単独で取り入れられていても効果は薄いのではないかというものである。つまり、4年間のカリキュラム全体で、ALと他の科目との相互作用などを含め適切に設計されていなければ目指す効果は出ないのではないか、という事である。
そこで、個々の授業の工夫や細かいテクニックではなく、「カリキュラム」レベルでどのようにALを取り入れているのかを中心にまず定量的調査を行い、そこから良い実践を行っていそうな大学に訪問調査を行い、それらから得られた知見をまとめたものがこのたび刊行した「大学生の主体的な学習を促すカリキュラムに関する調査報告書 ケーススタディ編」である。
そこで、個々の授業の工夫や細かいテクニックではなく、「カリキュラム」レベルでどのようにALを取り入れているのかを中心にまず定量的調査を行い、そこから良い実践を行っていそうな大学に訪問調査を行い、それらから得られた知見をまとめたものがこのたび刊行した「大学生の主体的な学習を促すカリキュラムに関する調査報告書 ケーススタディ編」である。
冒頭に述べたワークショップは、このケーススタディ編を教科書に、内容に応じて「4つの視点」それぞれを1つのセッションとして行われた。セッションは、基本的に、執筆を担当したJAEDの先生方による理論的な説明と、ベネッセの研究員による訪問調査による実際の事例の紹介と、参加者を少人数のグループに分けたうえでのワークとディスカッションから構成される。
「4つの視点」とは、
① 何を課題・狙いとしてカリキュラムを改革するのか
② カリキュラム改革のための体制構築はどうあるべきなのか
③ 「主体的な学び」を促進するカリキュラムをどう設計するのか
④ 改革したカリキュラムの評価・改善(PDCA)をどのように進めるのか
① 何を課題・狙いとしてカリキュラムを改革するのか
② カリキュラム改革のための体制構築はどうあるべきなのか
③ 「主体的な学び」を促進するカリキュラムをどう設計するのか
④ 改革したカリキュラムの評価・改善(PDCA)をどのように進めるのか
というものである。この4つに順序性があるわけではなく、教学改革・カリキュラムの改革を検討し進める上でこれらのポイントをそれぞれ考えなくてはならないという風に考えていただきたい。
ワークショップで筆者が特に参考になった点を1点だけ例として紹介しよう。カリキュラム設計を考えるポイントには「内容(スコープ)」と「順序性(シークエンス)」があるという事である。(英米では、カリキュラム内容の事をScope & Sequence という事がある。)この順序性にも色々あって、基礎から応用・発展までを積み上げてゆくタイプや、同一の内容・範囲をレベルを上げながら何度も経験させるスパイラルタイプなどもある。
訪問調査の際に、ある大学で「きれいな積み上げ型のカリキュラムマップを作っても、学生は設計した通りに知識を積み上げてくれるとは限らない。だから、非効率に見えても、同じことを何度も繰り返して学ぶような仕掛けを随所に入れている。」という事を聞いたのだが、つまりこの事例は「スパイラルタイプ」のカリキュラムの組み方を行っていた、という事になるであろう。
訪問調査の際に、ある大学で「きれいな積み上げ型のカリキュラムマップを作っても、学生は設計した通りに知識を積み上げてくれるとは限らない。だから、非効率に見えても、同じことを何度も繰り返して学ぶような仕掛けを随所に入れている。」という事を聞いたのだが、つまりこの事例は「スパイラルタイプ」のカリキュラムの組み方を行っていた、という事になるであろう。
また、この大学で行っているスパイラル型の教育の狙いは学生の「気付き」を誘発することであった。主体的な学びのためには、学生は自ら能動的になる必要があることに気付かなければならない。しかし、気付きは教えることができない。なので、何度も同様の機会を設けて気付くのを待つ、ということである。さらに、1年と2年で同じような事を行っても、2年次には1年前にできなかった事が出来るようになっている。その事に学生自身が気づくことで、「自己肯定感・効力感」を高めることも、スパイラル型のカリキュラムの効果である。
「大学生の主体的な学習を促すカリキュラムに関する調査報告書 ケーススタディ編」には、具体的な事例だけでなく、このように4つの視点それぞれの理論的整理や裏付けが掲載されており、また各章で自大学・学部の状況を確認できる「チェックリスト」などもついている。上記書名のリンクからダウンロードできるようになっているので、ぜひ参考にしていただければ幸いである。
プロフィール
山下 仁司
元 ベネッセ教育総合研究所 主席研究員・チーフコンサルタント
福武書店(現ベネッセコーポレーション)入社後、進研模試副編集長、ニューライフゼミ英語教材編集長、ベルリッツ・アイルランド、シンガポール出向、国際教育事業部長、ベルリッツ・ジャパン取締役、英語力測定テストGTEC開発統括マネージャーなどを経て現職。
◆近年の活動◆
大学FD・SD研修講演
広島大学、宮崎大学、名古屋工業大学、福岡工業大学、名城大学他多数
◆シンポジウム◆
・全国大学入学者選抜研究連絡協議会大会 公開討論会パネル
(平成22年、25年)
・九州工業大学シンポジウム
「大学教育のあり方と秋入学-世界で活躍できる人材を育てるために-」
(平成25年)
・ベネッセ教育総合研究所シンポジウム
「主体的な学びへと導く大学教育とは」(平成24年)
◆論文◆
・「高校・生徒からみた高大接続の課題と展望~高大接続の真の課題は何か~」
(2011)
・日本高等教育学会 学会紀要『高等教育研究』第14集 高大接続の現在
・『「答え」や「モデル」のない今後のグローバル社会で活躍できる力とは?
産学連携教育の研究実践と、主体性を引き出す大学教育の在り方』(2012)
・第4回横断型基幹科学技術研究団体連合シンポジウム 予稿集
福武書店(現ベネッセコーポレーション)入社後、進研模試副編集長、ニューライフゼミ英語教材編集長、ベルリッツ・アイルランド、シンガポール出向、国際教育事業部長、ベルリッツ・ジャパン取締役、英語力測定テストGTEC開発統括マネージャーなどを経て現職。
◆近年の活動◆
大学FD・SD研修講演
広島大学、宮崎大学、名古屋工業大学、福岡工業大学、名城大学他多数
◆シンポジウム◆
・全国大学入学者選抜研究連絡協議会大会 公開討論会パネル
(平成22年、25年)
・九州工業大学シンポジウム
「大学教育のあり方と秋入学-世界で活躍できる人材を育てるために-」
(平成25年)
・ベネッセ教育総合研究所シンポジウム
「主体的な学びへと導く大学教育とは」(平成24年)
◆論文◆
・「高校・生徒からみた高大接続の課題と展望~高大接続の真の課題は何か~」
(2011)
・日本高等教育学会 学会紀要『高等教育研究』第14集 高大接続の現在
・『「答え」や「モデル」のない今後のグローバル社会で活躍できる力とは?
産学連携教育の研究実践と、主体性を引き出す大学教育の在り方』(2012)
・第4回横断型基幹科学技術研究団体連合シンポジウム 予稿集