2016/02/16
若者がライフデザインできる情報・機会の提供の必要性 ~第4回 少子化社会と子育てより 研究員の目~
ベネッセ教育総合研究所 次世代育成研究室 研究員 持田聖子
日本は、現在、少子化が進行している。松田(2014)によると、日本の少子化の二大要因は、「未婚化」と「夫婦の持つ子どもの数の減少」である。 そのうち、「未婚化」の原因については、「結婚についての価値観の変化」「経済的な原因」「出会いの機会の変化」など、さまざまな原因が挙げられているが、筒井(2015)によると、研究者の間でも見解が一致せず、整理できていない。日本は、婚外子比率が極めて低い国(2008年の統計で2.1%)であるため、未婚化は出生数の減少をもたらす。筒井(2015)は、少子化による人口減少が大きな問題であるにもかかわらず、未婚化の要因についての理解が混乱したままなのは、社会的な損失であると指摘している。
これから結婚や出産を迎える20代後半の男女は、子どもを持つことについて、どのような意識を持っているのだろうか。ベネッセ教育総合研究所では、2013年に、子どもを持たない未婚・既婚男女約4,000人を対象に調査を行った。25~29歳の未婚男女に絞って分析したところ、男性の55%、女性の65%が「子どもが欲しい」と回答した(図1)。「子どものいる暮らし」のイメージは、男女ともに半数以上が、「お金がかかる」「責任」を選択した(図2)。子どもを持つことについての考えは、経済的な負担に加えて、特に女性は、「仕事との両立が大変である」「子どもを持つと自分の自由な時間が制限される」「身体的な負担が大きくなる」といった生活にかかる負担感を男性より多く感じていた(表1)。本調査では、「卵子老化という言葉を聞いたことがありますか」という、妊娠に関する知識についてもたずねたが、「聞いたことがある」と回答した比率は、男性は36.5%、女性は58.6%と大きな差があり、「聞いたことがない」という人も多かった(図3)。
図1.子どもを持つことについての意向
*25~29歳。
(出典)ベネッセ教育総合研究所「未妊レポート2013-子どもを持つことについての調査」
(出典)ベネッセ教育総合研究所「未妊レポート2013-子どもを持つことについての調査」
図2.子どものいる暮らしのイメージ
*複数回答。
(出典)ベネッセ教育総合研究所「未妊レポート2013-子どもを持つことについての調査」
(出典)ベネッセ教育総合研究所「未妊レポート2013-子どもを持つことについての調査」
表1.子どもについての考え
*各設問について「あてはまる」と回答した%
(出典)ベネッセ教育総合研究所「未妊レポート2013-子どもを持つことについての調査」
(出典)ベネッセ教育総合研究所「未妊レポート2013-子どもを持つことについての調査」
図3.「卵子老化」ということばを聞いたことがあるか
(出典)ベネッセ教育総合研究所「未妊レポート2013-子どもを持つことについての調査」
子育てに関して、経済的な負担を強く感じている若者たちであるが、若者を取り巻く労働環境は厳しさを増し、若年雇用者(15~24歳)の非正規比率は5割に上昇している(2013年)。夫婦の形は、男性が働き、女性は専業主婦となるモデルから、共に働き、共に収入を得て家計を支えていく形に変化してきている。そのような変化の中で、若者にとっては、自分の両親の生き方を手本にすることが難しくなっているといえる。
現代の若者には、将来の生き方の手本となるような「ロールモデル」がいるのだろうか。誰をロールモデルにしているのだろうか。 「教育フォーカス 特集9.少子化社会と子育て 第4回」で、大学生の男女3名に「ロールモデル」の存在についてたずねたところ、女子学生は、「母親」を挙げた。しかし、同時に、さまざまな生き方をしている「ロールモデル」と出会って、家族の在り方やパートナーとの付き合い方、子どもとの付き合い方を考える機会が欲しいと言っていた。 筆者が大学生・大学院生の男女20名に対して行ったライフデザインに関するワークショップでも、女子学生12人中8人は、ロールモデルがいると答え、「母親」を挙げた人が多かった。男子学生は、半数(8人中4人)はロールモデルはいないと答えた。このワークショップでは、民間企業で勤務する様々な年代、立場の男女が、仕事や家庭について、自身の経験を語ったが、事後にアンケートでもっとも評価(役立ち度)が高かったのは、この経験談を聞くパートであった。
以上のことから、生き方の選択肢がより多様になってきている現代において、次世代の男女に対して、共に働き、共に子どもを育てられる情報を伝えることが大切である。そのひとつとして、親以外のさまざまな「ロールモデル」と出会い、自分が目指したい生き方を考え、相談できる環境をつくることが必要ではないかと考えられる。
大学生に対してライフデザインの授業をされている白河桃子さんは、少子化社会の中で、男女が共に仕事と育児を担い生きていくためには、当事者だけでなく、職場と政府の三位一体で取り組まなければならない、と主張されている。「第三次少子化社会対策大綱」の中でも、妊娠・出産に関する正確な知識の教育や、若者がライフデザインできる機会の提供は重点施策になっており、今後、具体化が進んでいくと予想される。
多様な生き方が選択できる現代、親の世代とは夫婦の役割分担の在り方が変容している現代において、若者が、中長期的に、職業人としてだけでなく、生活者として、ライフデザインが描けるような教育・情報提供を提供していくべきである。
(参考) 松田茂樹(2014)「少子化総論:日本の少子化の実態と要因」より(ベネッセ教育総合研究所 教育フォーカス 特集9.少子化社会と子育て) 筒井淳也(2015)「仕事と家族」中央公論新社
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