2013/07/12
第12回 新しいメディアは乳幼児の育ちに何をもたらすか?— スマートフォンに見られる課題と可能性 —
ベネッセ教育総合研究所 次世代育成研究室
主任研究員 高岡 純子
主任研究員 高岡 純子
ここ数年で、スマートフォンやタブレット端末が急速に普及しています。街中で、ベビーカーに乗った子どもがスマートフォンやタブレット端末を触っている姿 をときどき見かけるようになりました。子どもたちは、どのように新しいメディアに触れているのでしょうか。小さな子どもにとって、スマートフォンは母親が いつも手元に持っているものであるため、身近にある存在と言えるでしょう。今回は、スマートフォンと乳幼児の生活の様子から、これからの子どもにとっての 教育環境について考えてみたいと思います。
乳幼児のスマートフォン使用率
ベネッセ教育総合研究所では、首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)約3,200名の0歳から6歳の乳幼児を持つ母親を対象にメディアについての調査を行いました(乳幼児の親子のメディア活用調査)。この調査は、乳幼児の親子の生活にメディアはどのように使われているのかについての意識と実態を調べたものです。
図1. 乳幼児の母親のスマートフォン使用率
図1は、幼児の母親のスマートフォン使用率を見たものです。母親全体では約6割となっています。特に29歳以下の母親では80.2%と高く、年齢が上がるにつれて普及率は下がり、30~34歳で67.4%、35~39歳では58.7%、40歳以降では47.2%となっています。
乳幼児はスマートフォンにどのくらい接しているのでしょうか。2,3歳児の場合、スマートフォンを持っている母親の子どもで、「毎日見たり使ったりしている」のは、約2割を占めており、「週1~2日以上」を含めると約4割です。(図2)。
図2. 母親がスマートフォン使用の場合、 子どもが1週間にスマートフォンに接している割合
1日の使用時間は、0~6歳の平均で18分程度となっています。スマートフォンのタッチパネルは小さな子どもでも操作がしやすいため、母親が使っている様子を傍らで眺めているうちに、使い方を覚えてしまう子どももいるのではないかと思われます。
乳幼児の使用場面と「ルール」
乳幼児は、どのような時にスマートフォンを使っているのでしょうか。使う場面としては、「外出先での待ち時間」が多くなっており、外出先では、レストランや乗り物の移動中などに使っているという声も寄せられています(表1)。インターネット機能を持つスマートフォンは、いつでも使いたいときにどんな場所でも簡単に使えるため、公共の場などでおとなしくしてほしいときなどに活用されているようです。家の中で視聴を楽しむことが多いTVやDVDとは異なる新たな活用方法といえます。
表1. 子どもに使わせる場面(スマートフォン)
※ 母親がスマートフォンを使用する場合で、子どもが「まったく使わない」「無答不明」を除いた数値。
このように、スマートフォンの持つ機能的な使いやすさや見たいコンテンツに簡単にアクセスできるといった点も、ここ1,2年で幼児の生活に急速に広がってきた背景にあると思われます。では、スマートフォンの使用ルールはどのようになっているのでしょうか。スマートフォンを使わせている親の3割以上が、ルールとして「内容を確認する」「食事中は見ないように約束する」「見るときは親に伝えるように約束する」などを決めています。一方、「使用する時間帯を決めている」「スクリーンに目を近づけ過ぎない」「場所を暗くしないようにする」などについては、テレビに比べて低い傾向が見られました。スマートフォンなどの新しいメディアに対しては、親子が同時期に使い始めていることもあり、親子での使い方を模索しながら使用ルールを決めている段階にあると思われます。
スマートフォンは豊かな親子コミュニケーションのツール
乳幼児期の教育環境を考える上で、とくに発達に応じた人とのやりとりや五感をとおした体験が重要です。冷たい、柔らかい、さらさらしているなど実物に触れて感じる実体験を、自分にとっての身体的な記憶として残していくことが、後の様々な情報を判断・処理するときに役立つといわれています。一方で、スマートフォンなどのメディアは、指で直接的に触れる操作で、パソコンやTVになかった身体性があったり、自分で情報を選んでいく受け身ではないメディアであることから、新しいメディアならではの特性を活かした活動・体験も期待できます。
乳幼児の親子の生活にスマートフォンなどの新しいメディアが浸透する今、外遊びやおもちゃ遊び、メディアを使った遊びなど様々な活動や体験を組み合わせながら、親子での豊かなコミュニケーションを図っていくことが益々大切になっているのではないかと考えます。メディアの進歩とともに、子どもの健やかな育ちにとってよりよい教育環境はどうあるべきかを考え、生活の中で、実際の体験とスマートフォンなどのメディアの情報との連携をどのように作っていくのかがこれからの課題になるのではないでしょうか。
「乳幼児の親子のメディア活用に関する実態と意識調査」は、7月11日にプレスリリースをいたしました。2014年3月には詳細な報告書をまとめる予定です。ぜひ、今ご覧になっているベネッセ教育総合研究所のHPをチェックしてみてください。メルマガ登録していただければ定期的に最新情報をお届けします。
著者プロフィール
高岡 純子
ベネッセ教育総合研究所 次世代育成研究室 主任研究員
ベネッセ教育総合研究所 次世代育成研究室 主任研究員
2006年より、乳幼児領域を中心に子ども、保護者、教師を対象とした意識や実態の調査研究、乳幼児とメディアの研究などを担当。
これまで担当した主な調査
これまで担当した主な調査
調査研究その他活動:J-Win Next Stage メンバー、千代田区次世代育成支援推進会議委員