2015/09/24

第79回 ICTを活用し、友だちの学びを学び、自分で学ぶ力を伸ばす~「まなみっけ」小学校3年生の実践より~

主任研究員 住谷 徹

はじめに

 児童にとっての学校での学びが「教わる」から「学ぶ」に変わっていこうとしています。ベネッセ教育総合研究所ICT教育研究室は、一人1台情報端末を活用して「主体的な学び」をどう構築すべきか、プロジェクトを立ち上げ、東北学院大 教養学部 准教授 稲垣忠先生や現場の学校の先生と検討をすすめてきました。
 そして、教育学者のバリー・J.ジマーマンが提唱する「自己調整学習」の理論などを基に、ICT機器を活用した自主学習の学習モデル「まなみっけ」を立案しました。自主学習とは、学習内容やテーマを自分で決め行う家庭学習のことです。2014年度より「まなみっけ」を通して、子ども自身が主体的に「a.計画」「b.遂行」「c.相互省察(学習内容などを公開し合い、それぞれ考える)」の三つのプロセスを回して学習を進めていけるかどうか研究しています。具体的には、【図1】の(1)~(3)のサイクルを回すことで自ら学ぶ姿勢を高めていこうとするものです。
【図1】「まなみっけ」学習モデル
【図1】「まなみっけ」学習モデル
 今回は、2014年度に東京都内の公立小学校小学3年生の1クラス(児童数38人、iPad一人1台環境)で4週間実践した結果から、ICTを活用した自律的な学習の可能性についてお伝えしていきたいと思います。
 なおデータ分析には、電気通信大 大学院情報理工学研究科 准教授 久野雅樹先生のお力をいただいています。

「まなみっけ」で学習量が増える/継続する

 今回の実践では、自主学習をやってくると児童は学校でiPadを取り出します。そして、アプリケーションを使い、取り組んだテーマ、教科、学習方法を記入します。「楽しかった」「むずかしかった」「もっとやりたい」「自信がついた」などの各項目についても5段階でチェックし、iPadのカメラで自分の「自己学習ノート」を撮影しアップします(写真1)。アップ時にも友だちのノートも確認することができます。その後週末に1回振り返りの会を設け、自分のiPadから友だちのノートや友だちの自己評価を見ます。そして、「ふりかえり→計画シート」に自己評価、特に友だちに見せたい日のノート、今後取り組みたい自主学習の内容を記入し、翌週の自主学習につなげています。
【写真1】児童がアップし、他の児童に公開した画面(部分)
*別の学校での事例。
 児童の取り組み状況【グラフ1】ですが、学校行事などで入力できない日もありましたが、4週間で計14回機会があり、日々のアップ数に差はあるものの、合計で487件のアップがありました。個々のペースに任せましたが、1週目の1日のアップ数の平均が34.7件、2週目の1日の平均値が28.7件、3週目の1日の平均値が39.3件、4週目の平均値が38.3件でした。アップ件数が児童数より多い38件を超える日があるのは、複数のノートなどをアップした児童がいたためです。開始時より日々のアップ数は多く、文字入力が必要になる感想の欄も全487件中422件(86.6%)で記入されています。
【グラフ1】取り組み状況(累積件数)
【グラフ1】取り組み状況(累積件数)
 「過去取り組んできた紙のみの自主学習の場合、多くても3分の2位の取組率なので、『まなみっけ』の方が自主学習に取り組んだ児童の数が増えました」と実践者は評価しています。また、2015年6~7月に行った別の学校の6年生1クラス(34名)の実践でも、タブレット未使用時、使用時のそれぞれ2週間のクラス全体の提出件数を比較すると【表1】、件数が56件→161件と使用した場合の方が3倍近く増加しています。「まなみっけ」により児童が自主学習に意欲的に取り組むようになったと評価できます。
【表1】タブレット利用の有無による自主学習への取り組みの比較
【表1】タブレット利用の有無による自主学習への取り組みの比較

児童は他者の学びを自分の学びとして取り込んでいく

 下の【表2】は、どのような意識で児童は「まなみっけ」に取り組んだかを見ています。児童がアプリケーションに自主学習を登録する際に入力した振り返りの自己評価(最も評価が高い場合は☆5個を選択、最も評価が低い場合は☆1個を選択)について星の数を数値化し、一般化線形混合モデル(GLMM)を用い、週単位で平均差検定などを行ったものです。「実践~振り返りの会」までの1週間を1サイクルとし、段階的にスコアが変化するのではないかと考えたためです。
 1週目と4週目の平均スコアを見ると上昇傾向が認められます。「1 楽しかった」のスコアを見るとスコアが全部の週で平均が4を超えています。「2 むずかしかった」のスコアは2.6~3.05の間で上下しています。難しいに☆を5個をつけた児童のコメントには「漢字が読めないから.練習をした」「難しいけど、覚えられたからもっとやりたい」などが見られます。テーマを決定する際、自分に合った難易度の設定している児童がいる様子がうかがえます。「5 がんばれた」は1~4週目まで高いスコアを維持しています。
 自分で自分に合ったテーマを設定し、それをがんばってやり遂げたことで満足感を感じ、「1 楽しかった」といった達成感につながる項目の評価を押し上げていると推測されます。さらに、「3 もっとやりたい」「4 自信がついた」のスコアは週を追うごとに有意に向上しています。ただ、学習内容の公開が前提なのにも関わらず「6 友だちに伝えたい」のスコアは2.62~3.03の間で、1→2週目で若干向上するものの、それ以降はほとんど変化しませんでした。
【表2】PC登録時の自己評価(週別)
*一般化線形混合モデル(GLMM)を使用
 毎週末に行った「ふりかえり→計画シート」でのクラス全員(38名)がどのような学習方法【グラフ2】を選んだのか(複数選択可)を見てみます。1週間毎のクラス全員の状況を確認(全員が選択すると100%)すると、「ア くりかえしれんしゅうする」「エ 本やネットでしらべる」のスコアが高いことがわかります。しかし、平均スコアは必ずしも高くないものの、「カ 自分の言ばでまとめる」のみが有意に向上しました(1週目14%→2週目25%→3週目31%→4週目31%で、p=0.044 一般化線形混合モデルによる)。
【グラフ2】「まなみっけ」で使った学習方法 *クラス全員が回答していた場合は100%
【グラフ2】「まなみっけ」で使った学習方法
*クラス全員が回答していた場合は100%
 さらに友だちのノート画像や自己評価の相互省察について見てみます。このクラスでは、デッサンの授業後にデッサンを自主学習に取り入れる児童が出、実践者が学習として認めたことなどから、その後デッサンを自主学習する児童が見られました。「友だちの自しゅ学習をみて、気づいたことをメモしよう」という自由記述欄を【表3】で確認してみます。「えをくわえたりランキングをつけるのがいいと思いました」「ローマ字を書く人が多い」「ていねいに書いている」などクラス全体の90%の児童が自由記述欄に記入していました。また、「ぼくはたいいくとかデッサンとかあたまをつかはないやつだけどたまには国語やいろいろあたまをつかうやつをやってみたいと思いました(原文ママ)」や「自分も絵をくわえてみたいと思った」といった記述もみられました。
【表3】他の児童の取り組みへの評価(抜粋) *個人名を除き原文ママ
【表3】他の児童の取り組みへの評価(抜粋)
*個人名を除き原文ママ
 以上の結果からは、90%の児童が友だちの学習を確認している一方、自分の学習を友だちに伝えたいという意識は高まらないことがわかりました。また、「自分のことばでまとめる」という学習法を選択する児童が増えていき、実践者は「意外だったのは、子どもの多くが自分の課題を的確に捉えて、自主学習に取り組んでいたことです」とコメントしています。「まなみっけ」は「○○さんよりうまくやりたい」とか「みんなに認められたい」という意識よりも、「学びは自分のためにするもの」という意識を高める傾向がありそうです。他の児童の学習を目標や一つの学習法ととらえ、自分に必要な取り組みとして取り入れたりコメントする様子も見られており、自分の学びを客観視し、方略を見つめ直すメタ認知を引き出す役割があったと評価できるでしょう。

「まなみっけ」の学びの効用(まとめとして)

 「まなみっけ」の実践からは、小学校3年生でも「①友だちの学習を参考にしながら自分に必要なテーマの設定を行い ②実践し ③やり遂げたことで満足感を得て ④達成感・自尊感を高め ⑤他の学習者の様子を(自分と比較して)確認し ⑥もっとやりたいと学習意欲を高めていく」【図2】といった学習プロセスを、自分に必要な学習を考えながら取り組めることがわかってきました。
 また、実践者は自主学習に取り組む大切さと機器操作の説明、振り返りの会の開催と時々のコメントといった部分的な関与にとどまりました。「今回の仕組みは、教員が手本を示さなくても児童が自ら自分に合った手本を見つけ学習の参考にでき、自ら学習する仕組みでした。教員の業務もほとんど増えませんでした」とコメントしています。
 これらは、すぐアクセスできるICT機器やアプリケーションが一人1台整備されていて、自他の学習履歴をいつでも取り出し学習の参考にできる環境があったことにより得られた成果と考えられます。
 今回の実証研究により「自己調整学習を進めるにあたり、一人1台情報端末による学習履歴の蓄積と共有は有効である」ことがわかりました。「まなみっけ」は自己調整学習理論をベースとしながらICTの活用を前提とした、「主体的な学び」を引き出す学習法と考えられます。今後も、さらに検証を行いながら、自己調整学習におけるICTの効用を明らかにしていきたいと思います。
【図2】今回確認された児童の意識の流れ(イメージ)
【図2】今回確認された児童の意識の流れ(イメージ)
※関連した研究は、東北学院大 教養学部 准教授 稲垣忠先生より「日本教育工学会第31回全国大会」でも発表されました。また、「第22回日本教育メディア学会年次大会」でもご発表いただく予定です。

※リンク先(関連記事)として教育フォーカス【特集8】「一人一台環境における学びの自立を支援する学習モデルの検討」研究より

著者プロフィール

住谷 徹
すみや とおる
(株)ベネッセコーポレーションの企業・大学・小中学校領域での新規事業商品開発及び営業職を経て、2010年より当研究所に所属。教育情報誌の編集等を経て2014年より現職。デジタル領域を中心に、ICTを活用したこれからの学びのあり方の実証研究などを担当。学校を中心とした教育現場が過去に実践してきた数多くの事例と、近年語られている様々な能力との関係に関心。