2014/12/01
第60回 英語を好きになることが「グローバル化」に対応することの近道 ─「中高生の英語学習に関する実態調査2014」より
ベネッセ教育総合研究所 グローバル教育研究室
研究員 福本 優美子
研究員 福本 優美子
11月20日開催の中央教育審議会では、下村文部科学大臣から次期学習指導要領の全面改訂について諮問されたが、英語教育改革はその中でも大きな検討事項の一つである。小学校中学年への外国語活動の導入、高学年の教科化、中学校・高等学校における英語教育の高度化、大学入試の4技能化など英語力向上のためのさまざまな取り組みについて、その実行に向けての議論が、今後、重ねられていく。
先んじて設置されていた「英語教育の在り方に関する有識者会議」では、専門的な見地から「今後の英語教育の改善・充実方策」について検討が重ねられてきた。その最終回の会合でも指摘されていたことは、中学校・高等学校での指導改善について具体的な検討や議論が不十分だということである。子どもたちの英語力や学習状況、指導実態などの客観的なエビデンスも少ない。今後、中学校・高等学校の指導改善を具体的に進めていくうえで、これらの現状把握・課題把握は必要不可欠であろう。そこで、本稿では、ベネッセ教育総合研究所で実施した「中高生の英語学習に関する実態調査2014」(調査対象:全国中1生~高3生、6,294名)の結果から、中高生の英語学習についての課題を考えてみたい。
子どもにとって英語学習に取り組む理由は「グローバル化の進展」ではない?
英語教育改革をめぐる議論の中では、改革が必要な背景として「グローバル化の進展」が挙げられている。グローバル化によって英語力の向上とコミュニケーション能力育成の改善が必要だというわけだが、その改革の受け手である子どもは、英語の必要性についてどのように考えているのだろうか。今回の調査で、大人になったときの社会での英語の必要性と自分が英語を使うイメージについて聞いたところ、中高生の約9割はいずれも何らかの形で英語は必要と感じている。しかし、その一方で、将来、自分が英語を使うイメージは低く、しかも4割以上は「英語を使うことはほとんどない」と答えている。現在の日本のように英語を使う機会がほとんどない環境では、ごく自然な結果といえるかもしれない。むしろ、社会での英語の必要性を何となくは感じていることに望みをもつべきだろう。しかし、これだけ英語を使えるようにと英語教育改革が進められているにもかかわらず、当人たちが、将来、英語を使うイメージをもっていないということは課題である。
では、どうすれば、中高生が自分ごととして、将来、英語を使うイメージをもてるようになるのだろうか。
そこで、同じ質問(英語を使うイメージ)について、英語の「好き」「嫌い(好きではない)」別にみた(図1)。すると、英語を「好きではない」生徒は、6割以上(中学生61.0%、高校生61.0%)が自分が「英語を使うことはほとんどない」と回答しているが、英語を「好き」な生徒は約3割(中学生34.7%、高校生33.5%)にとどまる。英語を「好き」な生徒は、「日常生活で外国の人と英語を話すことがある」「いつもではないが仕事で英語を使うことがある」という回答も「好きではない」生徒よりも高い。英語を「好き」と感じられていると、将来、英語を「使う」ことを自分ごととして捉えやすくなるようである。
図1 将来、自分が英語を使うイメージ(「好き」「嫌い(好きではない)」別)
英語に対する肯定的な意識とつまずき
英語を好きな理由は色々あると考えられる。本調査で聞いた英語に関する意識について「好き」「嫌い(好きではない)」別にみてみると(図2)、英語を「好き」な生徒は、「英語の文のつくりやしくみがおもしろい」「英語の音やリズムがおもしろい」といった英語そのもののおもしろさを感じている。また、「英語を使って仕事をしたい」という意欲にも差がみられた。高校生(図省略)もほぼ同じ傾向であるが、とくに、「外国の高校や大学に留学したい」「世界で活躍できる人になりたい」といった項目でも差が大きく、英語を使うことに対する意欲がより強くみられる傾向があった。英語が「好き」であると、当然のことながら「使う」イメージをもつことにもつながりやすいようである。
図2 英語に関する意識(中学生/「好き」「嫌い(好きではない)」別)
また、英語のつまずきについての質問では、いずれの項目でも「好きではない」生徒が肯定する割合が高く、とくに「英語のテストで思うような点数がとれない」が中高生共に差が大きかった(中学生「好き」43.6%、「好きではない」81.9%、差38.3%/高校生「好き」44.3%、「好きではない」80.8%、差36.5%)。さらに、英語の授業の理解度についても英語が「好きではない」生徒ほど低いなど、学習そのものへのつまずきが英語が嫌いになる要因になっていることは容易に想像がつく。
高校生の聞き取り調査から見えてきたこと
2013年に行った「中高生に対する聞き取り調査」では、上記の結果を具体的に表したような対照的な二人の高校2年生の事例がある。
A君は、高校に入る前までの英語に触れた経験が英語に積極的になれる原体験となっており、言葉への興味が高まっていた。高校の英語学習にもうまく適応し、学んだ文法や語彙を活用して英語を使う機会を作り、その喜びも感じている。学習と活用の循環が学習意欲をさらに高め、英語を使った将来の仕事の夢までイメージし始めていた。
B君は、中学時代は好きな先生から良い影響を受け、英語で物語を読める感動を味わい、英語学習に楽しさも自信も感じていた。しかし、高校の英語学習の大変さ(文法の抽象概念の難しさや訳読、大量の問題集をこなさなければいけないことなど)にぶつかって楽しさも自信も感じられなくなり、文法訳読に偏った高校の英語学習と自分自身の状態に苛立ち、学習意欲を失っていた。
この二つの事例のように、英語が「好き」という気持ちがあると、英語学習に積極的に向かうことができる。そして、学習と活用がうまく循環するとさらに学習意欲を高めることになる。だが、学習でつまずき、「使う」楽しさも感じられなくなると、英語を「好き」という気持ちを減退させ、学習意欲も失うこととなってしまっている。
コミュニケーション能力の育成の先には? 子どもたちにどのような力を身に付けてもらいたいのか。
有識者会議が出した「今後の英語教育の改善・充実方策について 報告 ~グローバル化に対応した英語教育改革の五つの提言~」には、「『英語を用いて何ができるようになったか』よりも、『文法や語彙等の知識がどれだけ身に付いたか』という観点で授業が行われ、コミュニケーション能力の育成を意識した取組が不十分な学校もあるとの指摘がある」と記述されている。それを踏まえ、中学校では、「文法訳読に偏ることなく、互いの考えや気持ちを英語で伝え合う学習を重視」し、高等学校では、「情報や考えなどを的確に理解したり適切に伝えたりするコミュニケーション能力を高める」ということを目標に掲げている。
これをみると、これまでの小学校の外国語活動で目指してきた「コミュニケーションへの関心・意欲・態度」の育成こそが、これからの中学校・高等学校で目指すことの本質を実行してきたともいえる。専科ではない小学校の教員は、子どもの発達や興味・関心に寄り添いながら上記を実現しようとしてきた。中学校・高等学校の教員もそうした取り組みに学ぶべきところも多い。当研究所が行っている「中高の英語の先生に対する聞き取り調査」でも、子どもの発達や興味・関心に寄り添っている教員は、結果的に言語活動を多く取り入れた授業になっているという話が聞けた。さらに、「英語を好きになってほしい」「英語を嫌いにさせたくない」という思いが、コミュニケーション能力を育成する実践につながっているようだ。
英語教育改革では、小・中・高等学校の英語教育を一貫したものとして捉え、その充実・強化を図ろうとしている。教育目標も一貫したものを示し、大学入試も含めて一体となって英語力の向上、コミュニケーション能力の育成に取り組もうとしている。そのことは評価できる。では、そこで目指されているコミュニケーション能力の育成や英語力の向上という目標達成の本質はどこにあるのか。それは、英語を通じて人とのつながりが豊かになり、子どもの未来や可能性が広がることだと考える。この改革の中心には当然のことながら子どもがいる。子どもが英語を好きになる理由はさまざまである。一人ひとりの「好き」に寄り添い、子どもが楽しく英語学習に取り組めるような指導を教員も心がける必要がある。英語を「好き」だという気持ちは、英語を学びつづけられる原動力になるからである。
そのためにも、英語を「好き」と感じられる子どもが増えてほしい、と思う。
「中高生の英語学習に関する実態調査2014」
https://benesse.jp/berd/global/research/detail_4356.html
「中高生に対する聞き取り調査」
http://www.arcle.jp/report/2013/0005_3.html
https://benesse.jp/berd/global/research/detail_4356.html
「中高生に対する聞き取り調査」
http://www.arcle.jp/report/2013/0005_3.html
著者プロフィール
福本 優美子
ベネッセ教育総合研究所 研究員
ベネッセ教育総合研究所 研究員
英語教育領域を中心に、子どもや保護者、教員を対象とした調査研究を担当。最近は、量的研究だけでなく、質的研究にも携わっている。これまで担当した主な調査は、