2014/08/06

Shift│第3回 夢の病院で始まる、「IT」と「デザイン」から生まれた教育の新しいカタチ 【後編】「メディカル・デザイン」から見える、教育へのヒント [3/7]

いずれは旧交を温められたら嬉しい

 「はじまりのプロダクト」の遠隔授業は、クチコミで評判が広がり、チャイルド・ケモ・ハウス以外でもある院内学級や地方の病院などいくつかの院内学級でも採用され始めている。パソコンやiPadさえあれば全国どこの病院からでも参加できることがE-Lectureを使った遠隔授業の利点である。さらには、授業に参加する生徒が増えたことで、授業中の雰囲気にも変化が現れた。
 「大勢の生徒が参加していると、授業にも活気が出てくる。いずれは100人くらいの生徒で選挙をしてみたい」と於保氏は言う。
 最近では画面を通して生徒同士の横の交流が生まれる兆しも見え始めている。於保氏は実際には始業時間の少し前から授業の配信を始める。早く参加してきた子どもらとチャットを通して雑談するからだ。ある時、彼女が「いい天気だね」と話すと、北海道の子どもから「こっちは雪だよ」という返信があった。遠隔授業ならではのやりとりだ。
 小児がんを扱う病院や施設、そして保護者の多くは子どものプライバシーにとても敏感だ。そのためE-Lectureの授業に参加している子どもたちも画面上では実名を出さずに「トロンボーン」や「ビオラ」など、楽器の名前をニックネームにして参加している。このため、今のところ施設を超えてリアルな友達をつくることは難しい。
 於保氏は、いずれプライバシーには配慮しつつ、施設の壁を超えて生徒同士の交流を生みたいと願っている。さらに、退院後も自宅のパソコンやiPadから遠隔授業を通して、チャイルド・ケモ・ハウスや病院でつくった仲間と旧交を温められたら嬉しい、というのが彼女の夢だ。