2014/05/19

Shift│第2回 危機に瀕した女子校が、教育界から注目を集める革命者に 【後編】学校は生徒に「何」を教えればよいのか [2/5]

「こんなに生徒を愛している学校はない」

現在、実験室にある光学顕微鏡
 とはいえ、機材がなくては研究ができない。 そこで木村氏は企業や大学など、さまざまな場所に足を運びつつ、まずは国の助成金を集めてくることからスタート。大学などで汎用的に使う本格的な顕微鏡を50台揃えるに至った。「やっぱり、本物の機材だと使いやすいし、精度が高い」と木村氏は言う。
 その後も生命科学関連の研究機器をつくる企業などに教育市場の有望性などを説いて機材を借りてきたり、大学にいらなくなった機材をもらいに行ったりと東奔西走した。特に大学は協力的だったという。
 どんな機材を揃えるかは生徒たちと相談しながら決めていく。「こんな研究をやりたいから、こんな装置が必要」と言われると、そのたびに木村氏らが企業や大学との交渉に回った。
 ある時、生徒から研究のために電気泳動装置という実験器具が必要だと言われたが、学校としても予算がなく、企業から借りることにした。しかし、その企業が棚卸しの時期になると、実験の途中でその装置を返却することになる。春休みに研究ができなくなり困った生徒らは相談して、自分たちでお小遣いを出しあって4万円もするその装置を購入しようとした。
 「その時はグっと来ましたね」。木村氏は自腹で買う覚悟で上司にもう一度かけあったところ、最終的には学校側で買ってくれることになった。「こんなに生徒を愛している学校はない」と言う木村氏だが、彼自身の生徒への愛情も深く感じられるエピソードだ。
 このように紆余曲折を経ながらも、教員と生徒が手探りのなか、今日の医進・サイエンスコースをつくりあげていったのだ。
 翻って、医進・サイエンスコースのように新しいことをすれば、それだけ先生たちの業務は増える。この点について、IT企業での就業経験もある木村氏は合理的な解決策を見出している。Google Appsを導入して教員-教員間、教員-生徒間の情報共有を円滑にしたり、スケジュール調整を簡素化したり、ファイルの共有化により学年や教科を超えた連携を実現したりして、業務の効率化を図っている。
 「研究を指導するためには、実験はもちろん、最新の論文を読む必要もあります。従来の業務以上の負担がかかっている医進・サイエンスコースの先生を、できるだけ雑務から解放していきたい。先生方の限られた大切な時間を捻出して、教員本来の重要な仕事に充てることは重要なことです」