報告1「学生と大学教育の13年間の変化」

ベネッセ教育総合研究所 主席研究員 木村治生

ベネッセコーポレーション入社後、初等中等教育領域を中心に子ども、保護者、教員を対象とした意識や実態の調査研究、学習のあり方についての研究、教育市場(産業)の調査などを担当。専門は、社会調査、教育社会学。文部科学省や経済産業省、総務省から委託を受けた調査研究にも数多く携わる。主著に、『子どもの学びと成長を追う—2万組の親子パネル調査から』(共著、勁草書房、2020)、『多面的な入試と学修成果の可視化』(共著、追手門学院大学出版会、2021)など。

アクティブ・ラーニングが増加する一方、大学に指導を求める傾向が強まる

 最初に、木村主席研究員から、高校時代の学びと、大学での学びの調査結果を基に、大学生の学習意欲や学習行動の変化についての考察が報告されました。
 高校時代の学びの様子を見ると、学習時間は4回の調査を通して大きな変化はなく、「1時間以内」が3割、「4時間以上」が3割と分散しています。その一方で、学習形態は「対話的な学び」「探究的な学び」など、いわゆるアクティブ・ラーニング(以下、ALと略称)型の授業が増えていることがわかりました。
 また、大学での学びについては、コロナ禍での停滞が見られるものの、高校と同様に、AL型授業が増加傾向にあります。図1に見るように、主体的・能動的な学習姿勢を強めていることもわかります。ところが、大学生の教育観では、単位を楽に取れることや、大学に学習方法や生活指導を求める傾向が年々高まっていました(図2)。
 次に、コロナ禍の影響に注目すると、AL型授業に関する質問では、2021年調査の肯定率が2016年調査よりも下がっている項目が多くありました。特に対話的な学びは、実施が難しかった様子がうかがえます。加えて、「学びの充実度」や「成長実感」は、コロナ禍による休校が多かった2020年度入学生(調査時2年生)の数値が他学年よりも低くなっていました。
図1 授業に対する取り組み
図2 学生の大学教育観の変化

AL経験が、学びの充実や成長実感につながる

 上記の結果を踏まえて、高校時代の学びや大学での学びが、学びの充実度や成長実感にどのような効果を持っているか、パス解析すると、図3に示した関連性が見られました。
 「高校時代の学びと大学での学びには連続性が見られます。特に、高校時代のAL型の学びが大学でのAL型の学びにつながっています。さらに、学びの充実や成長実感には、学習時間よりもAL経験の方が効果の大きいことがわかりました。AL型の学びは、大学生の学びを豊かにして、成長実感につながっていると考えられます」(木村主席研究員)
 ところが、AL経験と学習時間には関連性が見られませんでした。
 「AL型の学びが増えると、学習意欲が高まり、学習時間が増えるといった関連があるのではないかと考えていたが、必ずしもそうなっていません。また、学習時間の多さが、学びの充実や成長実感に関連しているわけでもありませんでした。学習時間の効果については、今後も研究の課題となります。同様に、高校時代のAL経験と、入試形態との関連も見られず、高校時代の学習経験が選抜に反映されていない可能性があります。高校までの学びと大学での学びを接続するために、入学者選抜をどのように機能させるかも課題となるでしょう」(木村主席研究員)
図3 学びと成長の関係(パス解析)