2015/06/03

シンポジウム開催報告[2/4]

シンポジウム開催報告 【第一部】社会情動的スキルを知る

社会情動的スキルを育む環境とは?

宮本 晃司●みやもと こうじ

OECD教育スキル局・「教育と社会発展」事業マネージャー。現在「子どもの社会情動的スキル形成」及び「社会情動的スキルの社会経済的効果」に関する政策研究・国際計量分析、国際縦断調査を統括する。世界銀行、OECD開発センター・雇用労働社会問題局を経て現職。

スキルを育む環境は山登りに似ている

 私からは、社会情動的スキルを育むために必要な環境と、学校、家庭、社会の果たす役割についてお話しします。
 山登りを例に、社会情動的スキルを伸ばすのに適した環境を考えてみましょう。たとえばアルピニストは、ある程度の認知的スキル(登山行程、登山道具の使い方、天候などの情報)と、社会情動的スキル(勇気、自信、モチベーション、コミュニケーション)の両方を備えて登山を開始します。出発後、各段階によって必要なスキルは変化しますが、上記二つのスキルを土台にして、シェルパを含む登山パーティーと助け合いながら困難な状況を乗り切り、ようやく頂上に辿り着くことができます。重要なのは、これらのスキルが登山のプロセスを通じて伸びうることです。

スキル形成には早期の教育投資が重要

 次にこれまでの社会情動的スキルに関する調査、研究でわかってきたことをお伝えします。一つ目は、「スキルはスキルを生む」、ということ。スキルが大きければ大きいほど、教育投資の効果も大きくなる。例えば、モチベーションの高い子供ほど新しい学習環境を生かす能力も高く、さらに社会情動的スキルを伸ばすことができます。二つ目は、社会情動的スキルは認知的スキルも伸ばすということです。例えば、自己肯定感が高い人ほど新たな学習環境を介してさらに認知スキルも伸ばします。つまり、教育投資が早い段階で充分されていると、その後の教育投資の効果もさらに高まるということが言えます。

社会情動的スキルの育成に適した環境は?

 では社会情動的スキルはどのように伸ばせるのでしょうか。学校段階では、社会情動的スキルをのばすために特別にデザイン化されたプログラムがあります。代表的なものとして、Social and Emotional Learning (SEL)Programmesがありますが、これは、学科のなかに社会情動的スキル形成の要素を取り入れ、意識的にそのスキルを伸ばす手法です。アメリカではすでにさまざまなSELプログラムが実施され、その効果が高いものも特定されています。これ以外にも、学校と地域社会を連携した「サービス・ラーニング」というプログラムもあります。このプログラムは、社会体験を通して社会情動的スキルを学ぶことを目的としています。例えば、学科活動の中で、子供たちが清掃などのボランティア活動に従事し、その体験の後に、クラスに戻り、その活動の意義や体験後の感想などをクラスメイトと議論します。「サービス・ラーニング」はすでに、アメリカやイギリスの学科に取り入れられていますが、その学習効果が高いことを検証した研究もあります。
 多くの幼児介入プログラムでも社会情動的スキルを伸ばすことを目的としたものがあります。それらのプログラムの多くは幼児教育センターにおいて、子どものみならず保護者に対する介入も行います。これについてもアメリカにおいて多くの評価プログラムがあり、たとえば、子どもがセンターを出た後の犯罪率が低くなり、大学進学率が上がったという結果も出ています。
 成功したプログラムの特徴として挙げられるのは、教員や保護者、メンターと、子どもたちの間での強いアタッチメント(愛着)・コミュニケーションの強化が有効であることがわかっています。また教員及び保護者が適切な学習過程を導いていくための十分なスキルを備えるようにする必要があります。