フィードバック研究

　学習のための評価を浸透させていくためには，学習への取り組みやその成果物に関して，学習者が主体的にフィードバックを活用していくプロセスを，学習指導者と学習者自身が理解することが必要です。学習者の高等教育を中心として，学習者がフィードバックを受け取り，その内容を理解し，活用していくプロセスを詳細に分析し，それを支援する研究が進められています。特に，代表的な研究（Carless & Boud 2018）において，学習者のフィードバック活用を支える概念である「フィードバック・リテラシー」が提案され，様々な研究でその概念の具体化や育成・測定方法の研究が進められています。
　Carless & Boud（2018）によれば，フィードバック・リテラシーは以下の４つの要素で捉えられるといいます（日本語訳は瀬崎・渡邊・小野塚 2023より）。

• ① フィードバックの価値を理解する（Appreciating Feedback）
• ② 判断する（Making Judgments）
• ③ 感情を管理する（Managing Affect）
• ④ 行動を起こす（Taking Action）

　つまり，フィードバック・リテラシーを発揮するとは，「学習の改善のために，得たフィードバックを自分の責任で活用することが重要であると理解し（①），評価基準・評価規準を理解した上で，それに基づいて自分の学習アウトプットの質を評価し（②），批判的なコメントをもらってもめげずに否定的な感情をうまくコントロールし（③），フィードバックの内容を実行に移すための知識・技能や能力を身につけ，実行する（④）」というふうに捉えられるでしょう。
　ベネッセ教育総合研究所では，学習者のフィードバック・リテラシーの育成に向けて，先んじてその評価尺度の開発（大学生を対象）を開始しています（JSPS科研費JP24K22754，渡邊・野澤・瀬崎・小野塚・楠見 2024）。

　さらに，学習者のフィードバック・リテラシーだけではなく，その成長を促すようなフィードバック・プロセスをデザインする教員の資質・能力を構成するものとして，「教員のフィードバック・リテラシー」が提案されています（Carless ＆ Winstone 2023, 瀬崎・渡邊・小野塚・楠見 2024）。この概念は，フィードバックを通じて学習者のフィードバックの活用を促したり，学習者のフィードバック・リテラシーを向上させたりする側面が含まれており，単に「うまくフィードバックを伝える」という一方向的な情報伝達の側面を超えた，学習者中心のフィードバック・プロセスのデザインを要求している点が特徴的です（Boud & Dawson 2023）。
　学習者のフィードバック・リテラシーに関する実証的研究はいまだ萌芽的段階であり（Little et al. 2023），理論的枠組みの精緻化と並行して，さらなる発展が期待されます。

研究発信

【学会発表報告】　「教員のフィードバック・リテラシーに関する文献レビュー」＠日本教育工学会研究会（2024年10月開催）

【学会発表報告】「フィードバック・リテラシーに関する研究動向」＠日本教育工学会研究会（2023年10月開催）