2016/09/30
「自由」というルールを共有し、プログラミングの学習機会を提供する CoderDojo Japan
「プログラミング教育」の広がり方
従来、公教育においても細々と行われていたプログラミング教育が、いま民間による教育によって一気に広がろうとしています。その多様な展開を見ていると、これまで蓄積されてきた教育実践や知見の量をたちまち追い越していきそうな勢いです。その中心的役割を果たしているのが、全世界の子どもたちに無料でプログラミングを教えているCoderDojoです。
Dojo=道場というコンセプト通り、門を叩く人には誰にでも開かれていて、子どもの学年や技量にかかわらず居場所があります。そこには、技だけではなく、自らの内面の成長を促してくれる師範(CoderDojoの場合"チャンピオン"と呼ばれる代表者)と仲間たちがいます。プログラミングという新しくて、正解のない学びだからこそ、誰もが教え合い、学び合える自由でフラットな関係性が前提としてあります。そんな学びの空間で起きていることや課題、そして、最終的に目指していることなどについて伺いました。
BERD編集長 石坂 貴明
CoderDojo はじまりはアイルランドから
昨今のプログラミング人気の高まりを受けて、プログラミング塾の人気は高まっているという。そんななか、ボランティアによる運営のもとにプログラミング学習の場を全国で展開している組織が、CoderDojo Japan(コーダー道場ジャパン)だ。
安川要平さん
(CoderDojo Japan代表)
(CoderDojo Japan代表)
CoderDojo Japanは、全世界で活動を展開するCoderDojoの日本支部にあたる。CoderDojoは2011年にアイルランドで発足し、63カ国で1,000を超えるDojoが立ち上がっている(2016年7月時点)。取材日の7月24日はちょうどCoderDojo設立5周年目の記念日と重なった。その成り立ちをCoderDojo Japanの代表、安川要平さんは次のように説明してくれた。「CoderDojoの創始者の一人、ジェームズ・ウェルトン氏がまだ高校生だった頃に、ボランタリーベースで子どもにプログラミングを教えていたのがそもそもの始まりです。アイルランド内での彼の活動がまずはイギリスなど近隣へと広がっていき、その後シリコンバレーへと広がりました。」シリコンバレーでもCoderDojoは好意的に受けいれられ、その結果GitHubというソフトウェア開発分野の有名企業がCoderDojoをサポートするということをブログ記事で公表した。「その記事を下北沢オープンソースCafeの住人たちの1人が日本語の記事に訳したんです。それが日本のCoderDojoのはしりになって、そこから第0回、第0.5回という、CoderDojo Tokyo(東京)が始まりました」と安川さんは話す。
CoderDojo Japanの根底にある「オープンソース」の思想
下北沢オープンソースCafeとは、主に「オープンソース(※)」のソフトウェアを使って開発に携わる人たちの集まるコミュニティで、その「住人たち」とは、オープンソースの理念に共感する人たちのこと。安川さんはそのなかでも中心的なメンバーの一人だ。
「CoderDojo Japanがチャレンジしたことは、オンラインの良さを生かしつつ、オープンソースコミュニティの文化を継承したオフラインの地域密着型コミュニティが成り立つかどうか。目指したのは、互いに教えたり、教わったり、一緒の場所で一緒の時間を過ごすみたいな、そういった技術よりも人を中心としたコミュニティ」だと安川さんは話す。それまでは、オープンソースに携わる人たちの活動といえば、ソフトウェアの一定部分をオープンソースにして、何か特定の技術やWebサービスを中心としたコミュニティを形成することが主だったという。いわばモノやサービスを軸として広がっているコミュニティが多かったが、それを「もっと地域や場所、人といったオフラインのコミュニティに注目して、次の世代に貢献できる『教育』という分野で繋がるオープンソースコミュニティを日本でもやってみよう」ということで下北沢オープンソースCafeに集まり、CoderDojo Japanが始まったという。
※オープンソース:誰でも閲覧可能な状態で公開されており、かつ自由に改修することが許されているプログラムソースのこと。
自然発生して広がるCoderDojoのプログラミング道場
公開されているCoderDojoの最新ガイダンス用資料。こうした資料が自発的に改修されていくのも、CoderDojoならではといえる。
こうしたオープンソースに根ざした背景は、CoderDojo Japanの広がり方にも影響を与えている。たとえば、CoderDojoは基本的に「始めたい!」と手を挙げれば、誰でも自由に始めることができる。もちろん始めるにあたっての事前準備や、始めてからの運営努力は必要になるが、必要な情報や運営ノウハウは、CoderDojo JapanのWebサイトやWiki、Facebook上に設けられたグループなどで入手可能だ。CoderDojo Japan自体がオープンソースの思想をベースにして運営されているため、他の道場のやり方を真似したり、改修したりといった道場運営も歓迎されている。
日本国内の道場数は、ここ数か月で一気に増えていると安川さんは話す。「CoderDojoの数は現時点で全国に40ヶ所(※)を超えています。今年の3月の時点では25ヶ所だったので、この数か月で急激に増えました」という話を聞けば、まさに急増中という現状が伺える。
※2016年9月時点で50ヶ所を超えた。
学生の運営するCoderDojo Kashiwa
全国に数あるCoderDojoのプログラミング道場のうち、今回取材したのは千葉県柏市の「CoderDojo Kashiwa(柏)」。CoderDojo柏は2013年に始まり、今年で活動4年目になる。
CoderDojo 柏
CoderDojo柏が他の道場と違う点は、ここが学生を中心に運営されているということだ。CoderDojo柏の創設者の一人でもあり、代表も務める宮島衣瑛さんは現役大学生。大学で教育学科に在籍しながら、ボランティアでCoderDojo柏の運営を担う。道場には宮島さん以外にも多くの学生メンターがおり、この日は社会人メンターも含めて10人程度のメンターが集まっていた。「社会人はやはり忙しい人が多いですが、CoderDojo柏はメンターに学生を巻き込めているので深刻なメンター不足は起こっていません。ただ、最近は参加希望者が増えたので、今のメンター数でも当日運営が厳しいことがあります」と宮島さんは教えてくれた。基本毎月第2、第4日曜の月2回開催をしており、定員は各回先着20名だが、昨今のプログラミングブームですぐに定員枠が埋まってしまう。「会場のキャパシティを超えつつある」のが現状だという言葉からも、その人気ぶりが伺える。
宮島衣瑛さん
(CoderDojo 柏代表)
(CoderDojo 柏代表)
宮島さんは、中学3年生のときにMIT(※)に見学に行った経験を持つ。「そのとき、たまたま一緒に行ったのがCoderDojo東京を運営されている方でした。その方からCoderDojoのことを聞いて、暇だったらやってみればくらいの軽いノリで言われたんですけど、そのときは僕も部活やっていたんで全然できなくて。そうして中3の終わりになって部活もなくなったし、中高一貫校だったのでなんか暇だなと思ったとき、その話を思い出したんです。ちょっとやってみようかなと思って始めたのがきっかけですね」と、高校生のときに道場を開設した経緯を話してくれた。
柏市にはCoderDojo柏の他に、隣接地域に「CoderDojo柏の葉」という別の道場がある。柏の葉道場は毎月第3日曜日の月1回開催なので、両方に通えば月3回、CoderDojoに通えることになる。
※MIT…マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology)
聞かれていないことや、自然に身につくことは教えない
CoderDojoには共通の指導カリキュラムはなく、教え方はそれぞれの道場に一任される。CoderDojo柏では、最初の30分はScratch(※)のトレーニングシートに取り組む時間となっていた。トレーニングシートはCoderDojo柏で作ったオリジナルの教材で、全24問。この24問を解けば、Scratchプログラミングの基礎力が一通り身につくようになっている。これ以外に、初めてCoderDojo柏を訪れた子には「Scratchとは何か」という講義形式の授業が用意されている。
トレーニングシートは、「正方形を書け」「正三角形を書け」といった簡単な問題から始まり、だんだんと難易度が上がっていく。たとえば問題10は、次のような問題だ。
トレーニングシートは、「正方形を書け」「正三角形を書け」といった簡単な問題から始まり、だんだんと難易度が上がっていく。たとえば問題10は、次のような問題だ。
問題10
アナログ時計をつくろう。現在時刻と同じ時間を刻む必要はないが、秒針は1秒ごとに動き、分針は60秒(1分)ごとに動くつくりにしよう。
※細かい目盛りは作らなくてもいい
アナログ時計をつくろう。現在時刻と同じ時間を刻む必要はないが、秒針は1秒ごとに動き、分針は60秒(1分)ごとに動くつくりにしよう。
※細かい目盛りは作らなくてもいい
この問題を解くには、1時間が60分、1分が60秒であることや、時計盤の上で秒針や分針が360度回転することと秒数、分数との関係を理解していなければならない。しかし低学年の参加者のなかにはこうしたことをまだ学校で習っておらず、知識を持っていない子もいる。そうした子には、メンターが時間の概念や時計の仕組みから丁寧に説明をする。
子どもの質問に個別で応じるメンター。指導は基本的にマンツーマンで行われる
多数のメンターが必要なのは、このように、子どもたちの質問に丁寧に答えていくためだ。メンターはプログラミングについての質問だけでなく、問題の意味や考え方など、プログラミング以外の質問にも答えていく。一方で、聞かれていないことや自然に身につくことは教えない、というのがCoderDojo柏のスタイルだ。たとえば、参加している子どもたちのなかにはタイピングがうまくできない子も少なくない。Scratch自体はブロックプログラミング言語なのでタイピングのスキルはさほど必要ないが、それでも文字を表示させたい場面ではタイピングスキルが必要だ。けれど、タイピングは「プログラミングをしていれば自然と身につくことなので、教えません」と宮島さんは話す。
※Scratch…ブロックプログラミング言語。詳しくは「まなびのかたち 阿部和広さんインタビュー後編」を参照。
身につけてほしいのは、学びに対する能動的な姿勢
手を挙げなければ、メンターはやってこない。自ら質問する姿勢が必要とされる
子どもの側から質問をしなければ、メンターは教えに来ない。こうした指導スタンスなので、子どもが受け身でいれば何も教わらずに時間が過ぎてしまうこともあり得る。しかし、宮島さんはそれでいいと考えている。「結局、僕らから教えにいっちゃうと子どもも受け身になっちゃうので、子どもたち自身の学びにならないんですよね。わからないところは、メンターがそこら中にいるから手を挙げて名前を呼べ! ぐらいの姿勢でいた方が、その子のためになるかなと思っています。」
集中してプログラミングに取り組む子どもたちの姿が印象的
こうした指導姿勢の背景には、プログラミングそのものよりも、プログラミングを学ぶ過程により深い学びがあるという宮島さんたちの信念がある。CoderDojo柏が子どもたちに本当に身につけてほしいと考えているのは、プログラミングの知識やスキルよりも、学びに対する積極的な姿勢だ。「プログラミングをマスターしてほしいというよりは、プログラミングを学ぶ過程で質問する体験だとか、質問すると答えてくれる人がいて『わかった』という体験のほうが重要だと思うんです。そのための題材としてプログラミングっていうのは非常にやりやすい」と宮島さんは考えている。なぜなら、「どの業界でも、やっぱり何か気になることがあったら質問したり提案したり主張したりできるっていうのはとても重要なスキルだと思うんですよね。それを小さいうちから体験しておくと、かなり大きな財産になると思う」からだ。
学校教育ではできないことを、CoderDojoで
トレーニングシートの課題に取り組んだ後は、各自の作品作りの時間が1時間程度あり、この日は最後に作品発表会があった。自ら手をあげた子が作品をみんなの前で披露し、他の参加者は作品に対する質問やフィードバックを返す。
発表会の様子。発表する側もそれを聞く側もみな積極的で楽しそうだ
発表会では、発表する側も聞く側もみんな積極的で楽しそうなのが印象的だ。そして、作品に多少の不備や完成度の低い部分があっても、それに対する批判はほとんどなく「あ、バグだ。なにこの動き(笑)」とそれを楽しんでしまう雰囲気がある。「これ、だめだね」ではなく、「このプログラムはどうなってるの?」「ここすごいね!」といった、前向きな質問やフィードバックが多い。
この光景を見ると、学校の授業で、果たしてこのような光景が見られるだろうか…と考えてしまう。生徒が黒板に書いた回答が間違っていたときに、「これは不正解です。正解はこうです」という結果のフィードバックだけではなく、そのプロセスを聞き出し、本質的な理解を促せる先生のいる教室は、新しい学びを得られる場になる。結論だけでなくさまざまなプロセスが考えられるプログラミングというメディアが入ることで、先に例示した教室のように、子どもたちの学びに対する意欲や関心を引き出せているのだろうか。そうした取材チームの質問に対し、宮島さんはつぎのように答えてくれた。「公教育は、やっぱり(子どもの)アクションを気長に待てないと思うし、成果を上に報告しなきゃいけないということもあると思うんです。僕らはそういったしがらみがない分、少なくとも各道場が考える、こういうやり方のほうが抜本的にいいよねっていうものを実験的にやってみることができる。それを見た人が『確かにいいよな』って思ってくれたら、良かった部分のエッセンスや知見を教育機関に共有していきたいです。」
参加も自由、教え方も自由
CoderDojo柏の指導方法にも、CoderDojo Japanの運営方法にも共通するのが、「自由」という思想だ。宮島さんはその一例をこう話す。「僕らから子どもたちにアプローチをかけていく教え方ではないので、来なくなった子たちもたくさんいます。でも、来る・来ないが自由なのがCoderDojoのいいところなのかなっていう気はしますね。自分にはあまり合わないなと思ったらスッと抜けられるのが、こういうコミュニティの良さかなと思います。」
CoderDojo柏の会場は、市内のコワーキングスペース。誰でも入りやすい雰囲気がある
安川さんによれば、CoderDojo柏のようなトレーニングシートを使った指導スタイルを採用しているのは、おそらく柏道場と隣接する柏の葉道場のみ。一方で、西宮・梅田の道場では電子工作にも対応していたり、ひばりヶ丘や名古屋の道場では組み込み開発を学ぶ参加者がいたりと、取り組みは道場によってさまざまだ。
これは、「CoderDojoだからといって、どこに行っても同じプログラムを受けられるわけではない」ことを意味する。こうした運営になっているのは、そもそもオープンソースの文化の1つに権威的な制度よりも個々人の自由意志を尊重するスタイルがあるからだ。一見、統一された指導カリキュラムによる営利の教育ビジネスと非営利のCoderDojoは相反するようにも見えるが「互いに排他的な関係ではないので、ビジネス側の方々とも協力できる場を積極的に模索していきたい」と安川さんは話す。
CoderDojoの存在意義
CoderDojo Japanがミッションとして掲げるのは、「日本全体でプログラミングを気軽に楽しく学べる場 (道場) を増やし、支援していく」こと。そのために、非営利団体であるCoderDojoだからこそできるチャレンジがあり、営利を求めるべき企業と協力していくこともミッションの達成には必要だと安川さんは考えている。
特にプログラミングという分野では、その必要性を実感している親がまだ少ないゆえに、企業が教室を運営することは経営的に難しい地域がある。プログラミングはどこでも気軽に始められるという特徴があるのに、実際には地域によって学ぶ機会の差が生まれてしまっている。一方で、企業の進出を待つのではなく、自分たちで自分たちの地元を盛り上げたい、という人たちもいる。こうした背景もあって、「CoderDojoのようなオープンソースコミュニティが盛り上がり、『プログラミングってこういうおもしろさがあるんですよ』『ものをつくるとか表現するって楽しいんですよ』といった楽しく気軽に学べる場が各地域で増えているのではないか」と安川さんは話す。
CoderDojoが各地域で盛り上がれば、間接的に営利企業の事業にも寄与するはずだと安川さんは考えている。無料で敷居の低いCoderDojoに参加し、各地域の子どもや親がプログラミングの楽しさをわかっていけば、それに対してお金を払ってもよいと考える層が厚くなっていき、企業が多様なサービスを色々な地域で展開しやすくなる。非営利団体と営利企業がそれぞれの役割を担うことで市場の創造と活性化が進む。それは結果として、CoderDojo Japanが掲げるミッションにも繋がり、ひいては日本全体にとってもプラスになるはずだと話す。
教育の変化スピードと、ITの変化スピードは違う
日本全体でプログラミングを学ぶ機会を増やすには、公教育におけるプログラミング教育の実施も欠かせない。しかしながら、ここにひとつの問題がある。教育分野の変化スピードとIT分野のそれが大きく違うことだ。
お話を伺った安川要平さん(左)と
宮島衣瑛さん(右)
宮島衣瑛さん(右)
もちろん、教育制度や指導方法、学習内容はこれまでも時代と共に変わってきたし、これからも変わり続ける。しかし、教育分野で大きな変化が現場に受け入れられるまでには、数年かかるのが一般的。一方でIT分野では数年あれば業界の構図も、プログラミングのツールも変わってしまうことが多く、しかも変化と多様化のスピードは増すばかりだ。
宮島さんは柏市教育委員会の声掛けで柏市のプログラミング教育の計画立案(※)にも参加しており、「教育分野で新しい取り組みを実施するのは時間がかかる」ということを理解しているからこそ、両者のスピードの違いを実感するという。だからこそCoderDojo柏では、学校ではできないような実験的取り組みをしていきたいと考えている。「もしCoderDojo柏で何か新しいことをやろうと思ったら、すごく簡単にできると思うんです。実験的な取り組みだって、やろうと思えば毎回できる。失敗もあると思うんですけど、そうして得られた知見というのはどんどん共有していきたいんです」と話す。
※柏市は、2017年度から市内すべての公立小学校におけるプログラミング教育の実施を決めた。今年8月には希望する教師向けのプログラミング体験講座を行うなど、現在その準備を進めている。
知見の共有はボーダーレスに、活動はローカルに
知見の共有は、CoderDojoにとって欠かすことのできない仕組みだ。CoderDojo柏の開催中、安川さんは道場の様子を何枚も写真に収めていたが、これは全国の道場関係者に共有するためだという。Facebook上には全国のCoderDojo関係者が集うクローズドなグループも設置されており、そこではさまざまな情報共有がなされている。CoderDojo柏の運営ノウハウをいいと思った道場があれば、どんどん真似をすればよいと考えている。
知識やノウハウの共有はボーダーレスな一方で、活動はローカルに、というのが、CoderDojoの特徴でもある。各道場の運営に地域性が出やすいのは、CoderDojoに「ほんの少しのルールだけを共有し、それ以外は自由」という運営方針があるからだ。地域性のある運営は結果の話で、「自分の知っている地域の特徴とか、メンターさんを含めた体制などの組み合わせの結果、違いが出ただけ」と安川さんは話す。昨今、文部科学省からは地域と学校の連携・協働を推進する姿勢が打ち出されているが、CoderDojoのローカルな活動は、まさにその事例となり得る可能性を秘めているといえるだろう。
作りたいのは、次世代を育てていく仕組み
全国規模で拡大中のCoderDojo。今後は、道場を卒業した人が次の世代を教える世代になっていく仕組みも必要になってくるだろうと安川さんは話す。CoderDojo自体が始まってまだ数年しか経っていないため、教える側と教わる側の世代交代という事例は少ないが、今後そういう事例が各道場で増えることも想定をしている。
宮島さんは、CoderDojo柏に高校生のメンターを増やしたいと考えており、そのために高校生同士で学べる場を作り始めている。「本当にプログラミングに興味があるとか、教育に興味があるという高校生たちにメンターになってもらうんですけど、その高校生たち向けの学生メンター勉強会を定期的にやっていきたいと考えています。既に何度か試験的に開催していますが、それを構造化することで新たな価値を作り出したいと思っています。ここに興味をもって高校生たちが来てくれると嬉しいです。」
学生メンターは子どもたちにとって「頼れるお兄さん・お姉さん」的存在
CoderDojo柏の隣接地域で開催されているCoderDojo柏の葉は、高校生によって運営されているという。運営する高校生たちの多くは柏の葉高等学校の情報理数科に通う、技術が大好きな高校生たち。その子たちに聞くと、情報理数科ではプログラミングはあまり学べないのだという。こうした状況はもったいないので、地域に根付いた活動をしているCoderDojo柏で「中高生ぐらいの子も取り込んで、大学生もいて、社会人もいて、いろんな年代の人たちがプログラミングというキーワードを共有して、そこで共生できるような場になればおもしろい」と宮島さんは話す。さらに、学校の教師たちにも、プログラミング指導の研修を受けに、道場に来てもらいたいとも考えている。「(道場に)子どもたちはどんどん来るから、(教師が研修に来てくれれば)その子たちにもいいし、僕らにとってもいいし、先生たちにとってもすごいいいと思うので、そういうかたちにできれば」というのが、宮島さんが描く次の道場のかたちだ。
Editor's eye
1人で集中したり、友達と話し合ったり、メンターに教わったり。思い思いの過ごし方ができるのがCoderDojo柏の特徴
教育熱心な親であれば、「無料のプログラミング道場」と聞けば興味を引かれる人は多いだろう。しかし、CoderDojoの本質的な魅力は、「オープンソース」に立脚した文化や、「プログラミングを楽しく主体的に学ぶ場」にあるのではないかと感じた。
自由であること。質問すれば熱心に指導してくれる先輩たちや大人たちがいること。楽しく学び合える仲間がいること。地域コミュニティを体感できる場であること。そして、プログラミングを通じてより広く深い学びの世界へと進んで行ける可能性のある場であること。できあがった作品以上に、子どもたちはこの「場」での経験から、多くの学びを得ているように見えた。
【企画制作協力】(株)エデュテイメントプラネット 山藤諭子、柳田善弘、水野昌也
【取材協力】一般社団法人 CoderDojo Japan、Coderdojo柏
【取材協力】一般社団法人 CoderDojo Japan、Coderdojo柏