2013/09/06
第20回 教育改革は学校現場から(2)~生徒の心にいかに火をつけるか~
ベネッセ教育総合研究所 情報編集室
室長 小泉 和義
室長 小泉 和義
生徒が主体的に学びに向かっていくために、教師は生徒とどう関わっていけばよいのだろうか。今回は、中学校教師向け情報誌「VIEW21」中学版の最新号「生徒の心に火を付ける(2013年8月発刊)」の取材内容をもとにしながら、この課題について考えてみる。
中学時代に学びの意欲が低下する
平成25年度全国学力・学習状況調査の結果が公表された。都道府県での正答率の差が縮小したことは、学校教育の成果と言えるだろう。しかしその一方、記述式問題が多いB問題で、解答欄に全く記述がない「無解答」の率が20%を超える設問が、中学校数学Bで全16問中7問もあった。この結果から、中学生の「学びの意欲」に関わる課題が改めて浮き彫りとなった。
学ぶ意欲に関して、ベネッセ教育総研で調査した結果を見てみよう。図1によると、「問題が解けるとうれしい」「今まで自分ができなかったことができるようになってうれしい」など学習に前向きな動機を見出す生徒の割合が、中学校時代に減少することが分かる。また、図2のとおり、「上手な勉強の仕方がわからない」と回答する生徒の割合も中学校時代に増加している(*)。学校教育では、学力向上の課題だけではなく、子どもの心にいかに火を付け、主体的に学び続けていく意欲を育むかを考えなければならない。
図1.
図2.
意欲を高める教師の工夫
小学校と比べて学習内容が難しくなる中学校では、生徒の心に火を付け、主体的に学びに向かう生徒を育てるために、教師はさまざまな工夫をしていた。
今回の取材では、どの先生も生徒の「自己肯定感」を高め、自信を持たせるための関わりを大切にしていた。福井県の中学校に訪問した際、ある数学の教師から伺った話だが、そのクラスには勉強が苦手でどの教科の宿題も出さない生徒がいたそうだ。そこで、授業の最後5~10分を「宿題タイム」として授業の復習をさせたり、生徒からの質問を受けたりする時間とした。勉強の苦手なその生徒は、あるとき「途中式も書くように」との指示を守って解答までにしっかり書いていた。そこで、次の授業でその生徒を指名し、黒板に書いて発表してもらったが、その生徒には初めての経験だったようで、その出来事以降、背筋を伸ばして授業を受けるようになったということだ。日常の授業の中でも、生徒が「出来た」という瞬間を見逃さず、褒めて励ますことが、生徒の意欲を高める方法の一つだ。
「間違えても大丈夫」という意識を生徒に浸透させることも、意欲を高めるためには重要だ。「間違いや失敗をしても大丈夫」という雰囲気が醸成されていれば、その環境の中でトライ&エラーをしやすくなり、生徒自身が「どうして間違えたのだろう」「どうすれば間違わないようになるのだろう」などと、前向きに考えやすくなるようだ。
上記の他にも取材を通して生徒の心に火を付けるための様々なキーワードを伺うことができた。「リーダーとしての責任を持たせ、一人前として生徒を扱う」「結果だけではなく生徒の努力のプロセスを大切にする」「生徒個々のつまずきに丁寧に対応する」「模範解答のない問題と向き合うことの楽しさを体感させる」など、生徒の心への火のつけ方は様々だ。
教師自身が前向きな学び手であること
取材した先生方に共通していたことは、生徒の目線に下りて行き、生徒が求めていることをしっかり把握した上で指導をしている点だ。また、生徒に考える時間を与えて待ち、答えを見つけ出す喜びを実感させることで自信を持たせようとしている点も共通していた。
そして、生徒の心に火を付けるためには、なによりもまず、教師自身が前向きな学び手であることが不可欠だ。「今実践している指導は、本当に子どもの成長に資するものなのか」を常に問い続け、指導変革をし続ける姿勢は、必ず生徒にも伝わる。日常の授業の中に、いつもと少し違う試みを取り入れてみる。そうした教師のささやかな営みが、生徒の心に火をつけ、生徒の学びに対する姿勢を変えていく源泉なのだと思う。口でいうのは容易いが、これを実践し続けるのは、大変な労力だろう。生徒にとって、教師は人生の先輩。教師がどう生きているのか、生徒はしっかり見ている。
著者プロフィール
小泉 和義
ベネッセ教育総合研究所 情報編集室 室長
ベネッセ教育総合研究所 情報編集室 室長
福武書店(現ベネッセコーポレーション)入社後、高校の進研模試営業に関わる。その後、研究部門に異動し、教育分野に関する調査研究、サイバー子ども学研究所のチャイルドリサーチネット(CRN)の運営に関わる。その後、学校向け情報誌進研ニュース(VIEW21の前身)中学版の編集担当、VIEW21(小学版、中学版、高校版)副編集長、VIEW21(小学版、中学版、高校版)編集長を歴任し、現在に至る。これまで関わったおもな研究、発刊物は以下のとおり。
- 中学生のもつ場における意欲研究(1997年)
- PLAYFUL(1999~2001年 チャイルドリサーチネット)
- 「VIEW21」小学版(2003年~)
- 「VIEW21」中学版(2002年~)
- 「VIEW21」高校版(2004年~)
- 「これからの幼児教育」(2013年~)
関心事:主体性は育成できるものなのか。スキルを育成した結果としての姿勢なのか。
その他活動:任意団体 次世代の教育を考える会 幹事
その他活動:任意団体 次世代の教育を考える会 幹事