2014/09/01
第56回 大学入学者選抜における「多面的・総合的な評価」は広がるか-「高大接続に関する調査」より-
ベネッセ教育総合研究所 高等教育研究室
研究員 吉本 真代
研究員 吉本 真代
現在、中央教育審議会の高大接続特別部会では、平成24年に出された諮問「大学入学者選抜の改善をはじめとする高等学校教育と大学教育の円滑な接続と連携の強化のための方策について」の答申に向けての議論が大詰めを迎えている。今回の入学者選抜の改革については「能力・意欲・適性の多面的・総合的な評価への転換」が強く提唱されている。
だが、この「多面的・総合的な評価」の議論は今に始まったことではない。平成11年の中央教育審議会答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」や翌平成12年の大学審議会答申「大学入試の改善について」にも同様の提言がなされた。答申を受けて、以降AO入試が増え、入試の多様化は進んだものの、それらの答申に書かれていることと、今回の改革における課題認識は大筋同じである。高大接続改革はこの15年間で現実にはあまり進んでいないとも言える。
では、今回の提案に沿った改革によって本格的に「多面的・総合的な評価」が広がるのだろうか。本稿では、当研究所で2013(平成25)年11月~12月に全国の高校の学校長、大学の学科長を対象に実施した「高大接続に関する調査」の結果から、実現の可能性と課題について考えてみたい。
教科学力以外の能力の評価の必要性
本調査で、入学者選抜で評価する内容についてたずねたところ、高校・大学ともに「教科学力を中心に評価するのがよい」が8割の支持で最も高く、「思考力・表現力などの今以上の重視」や「学問に対する関心・意欲や大学での目標」の評価もいずれも7割前後の肯定率であった(図1)。「高校での学習履歴」や「高校での課外活動や社会活動等の状況」の評価は大学では肯定率が4割前後にとどまるものの、高校では半数を超えている。教科学力以外の能力も評価していくという方向性については支持が得られていると言えよう。ただし、そのバランスをどう考えどのように評価していくかは今後の重要な論点である。
図1:入試で何を評価するか
現行の推薦・AO入試に対する評価をどうとらえるか
一方で、調査からは課題もみえてくる。推薦・AO入試は教科学力以外の能力を評価する方法として実施されてきた。しかしながらその有効性に関する評価は必ずしもよいとは言えない。高大接続特別部会の審議経過報告の中にも記述があるように「国公私立全体で4割以上の学生が推薦入試・AO入試で入学しているが、一部には、これが事実上学力不問となっているなど、本来の趣旨とは異なる状況になっているのではないかと指摘されている」のが実態である。
今回の調査で、大学に対して入試方法別に「入学させたい学生が選抜できていますか」とたずねた結果においても、AO入試と指定校推薦入試は、それぞれ当該入試方法の実施学科のうち44.5%、38.3%が「できていない」(あまりできていない+できていない)と回答している(図2)。こうした状況がみられる中で、AO入試型の選抜方法のさらなる拡大を行うことに危うさはないのだろうか。同部会では、「一般入試・推薦入試・AO入試の区分を見直し、入学者選抜全体において、多面的・総合的に評価する総合型選抜へ」の転換が検討されている。今一度これまでの推薦・AO入試の課題を丁寧に総括した上で、今回の改革でそれがどう改善されるのかを具体的に示し、関係者の理解を促すことが必要だろう。
図2:入試方法の評価(大学)
「貴学科の入学者選抜では、学科として入学させたい学生が選抜できていますか」
「貴学科の入学者選抜では、学科として入学させたい学生が選抜できていますか」
入試方法のさらなる多様化に対する懸念
さらに、今回提言されている総合型選抜の実現可能性を左右する大きな要素として、実際に入学者選抜にかかる様々な負担がある。今回の調査で「入学者選抜の方法はこれ以上多様化しないほうがよい」という質問に対し、高校・大学ともに約9割が「そう思う」(とてもそう思う+まあそう思う)と回答、「とてもそう思う」だけでも4割にのぼった(図3)。また、大学の73%は現状の課題として「入学者選抜における教職員の負担が大きい」と感じている。これは、選抜性の高い(=入学難易度の高い)大学ほど負担感が大きい傾向がみられている。今回の改革で、入学者選抜が一層複雑化し、現場に負担増をもたらす結果になれば、特に選抜性の高い大学での実現は難しい。現場の負担をいかに減らすかは重要な課題だ。
図3:入学者選抜方法の多様化と大学の入学者選抜の負担について
「関心・意欲」を評価する前提としての進路選択の環境整備
志願者の「関心・意欲」を評価するためには、高校生がその大学に入学したらどのようなことが学べるのかを知ることができることが前提である。調査結果では、高校の約半数が「大学が提供する教育内容などの情報は、高校生には分かりづらい」としており、同じく半数が、現在入手できる情報をもとに、教員が進学先をすすめることの難しさも感じている(図4)。また、アドミッションポリシーについても5割弱の高校で、「受験指導の参考になりにくい」と感じている。オープンキャンパスや出張講義などの取り組みは広がってきたものの大学情報の提供は充分とは言えないようだ。
図4:大学に関する情報について(高校)
さらに、今後のあり方についてたずねたところ、「やる気のある高校生に、大学の授業を受けられるようにしたほうがよい」は高校で72.4%、大学で64.2%が肯定し、また、「高校教員と大学教員の交流の機会を増やしたほうがよい」も高校84.5%、大学74.7%と高い肯定率である(図5)。このような高大連携の取り組みを充実させるための仕組みづくりや、国において現在準備が進められている「大学ポートレート」*1の稼働も待たれる。高校生が直接大学の教育に触れる機会や、大学と高校の教員同士が直接意見交換を行うなど、入試改革とともに高校生の主体的な進路選択を可能とする環境の整備は欠かせない。
図5:高大連携について
以上、今回の調査結果からみえる可能性と課題について概観してきた。加えて基礎レベルと発展レベルの二つの「達成度テスト(仮称)」がどのような内容のものになるのかが大きな鍵を握ることは言うまでもない。
高校・大学現場が、多面的・総合的に能力を評価する必要性を感じていても、実現に向けては乗り越えるべき課題が多い。具体化に向けて今後の具体的、専門的な検討が急がれる。15年前の議論から大きく踏み出してほしい。
*1 データベースを用いた大学の教育情報の活用・公表のための共通的な仕組。平成26年度中に稼働予定(『中央教育審議会高大接続特別部会審議経過報告』平成26年3月25日)
調査の概要・調査結果はこちらから
著者プロフィール
吉本 真代
ベネッセ教育総合研究所 研究員
ベネッセ教育総合研究所 研究員
2004年に(株)ベネッセコーポレーション入社後、アセスメント研究や大学における高大連携活動の企画・運営に携わり、近年は中等・高等教育領域を中心とした調査研究に従事している。これまで担当した主な調査に「第2回 大学生の学習・生活実態調査」など。