2014/09/30

未既婚男女4,100人の「子どもを持つことについて」の意識・実態について ~日本家族社会学会での発表より~

次世代育成研究室 研究員 持田聖子
 晩産化が進行し、女性の第一子出産時年齢は30歳を超えました。合計特殊出生率も1.43(2013年)と依然低い水準にあります。2012年頃から、メディアでは「卵子老化」が話題となったり、国からの不妊治療費助成に年齢制限が設けられたりする等、晩産化にともなう問題が取り上げられることが多くなっています。
 こうした時代において、これから子どもを持つ可能性のある人びとは、子どものいる暮らしや親になることについて、どのように考えているのでしょうか。ベネッセ教育総合研究所では、子どもを持つ意向(以下、挙児意向)や予定に影響を与える要因について検討するために、関連領域の専門家のご協力をいただき、2013年9月に、子どものいない未婚・既婚男女約4,100人を対象にしたインターネットによるアンケート調査と面接調査を行いました。
 調査結果から、未婚男女については、結婚意向と挙児意向には高い相関がみられること、既婚男女については、晩婚化の進行する中でも、子どもを「今すぐにでも持ちたい」割合が男女共に7割を超えていること(挙児意向のある人が母数)、婚姻状況や性別に関わらず、子どものいる暮らしのイメージとして、「お金がかかる」と感じている人が多いことなどが分かりました。

発表テーマ:子どものいない有配偶・無配偶男女の「子どもを持つこと」について

 この度、2014年9月6日に行われた第24回日本家族社会学会で、共同研究した専門家と共に本調査を軸にしたセッションを行い、属性別に挙児意向の規定要因や、妊娠に向けた活動実態、親になることへの意識を詳しく分析して発表しました。
 少子化対策は、子どもを持っていない男女の「子どもを持つこと」についての意識や意向と一致しているのでしょうか。・・・会場では、50人以上の方にご参加をいただき、活発な議論が展開されました。詳細は、本サイトの『教育フォーカス』コーナーで連載する予定ですが、発表のエッセンスと議論のポイントを報告致します。
オーガナイザー:白井千晶 (静岡大学)   司会:木村治生 (ベネッセ教育総合研究所)

注) 以下、未婚は無配偶、既婚は有配偶と表記。

発表1.子どものいない無配偶男性における「拳児意向」に影響する要因

発表者:吉田穂波 (国立保健医療科学院)
 無配偶男性1,037人について、「ぜひ子どもが欲しい」「できれば子どもが欲しい」という挙児意向に影響する要因について、二変量・多変量解析を行ったところ、結婚意向や年齢(上がると挙児意向が低下)、学歴(四年制大学卒以上の場合は上昇)の影響がみられました。本分析では、「子どもを持つことに対する肯定的なイメージ(「憧れ」や「楽しい」など)」が、経済状態や就業状態よりも「挙児意向」と関連することが明らかになりました。次世代が肯定的なイメージを持つために、そして、子育てのハードルを低くするために、今の子育て世代が出来ることは、「頼っていいんだよ」「子どもがいることでネットワークが広がるんだよ」という良い面を伝えることではないかと考えます。こうした考察から、若い世代向けに「受援力(お互いにとって心地よい関係で助けを受ける能力)」について広めています。

発表2.子どものいない有配偶男性における「父親になるタイミング」に影響する要因

発表者:竹原健二 (国立成育医療研究センター研究所)
 子どもを持ちたいタイミングは、「今すぐにでも持ちたい」、「今ではない」のいずれに該当するかを尋ねています。このタイミングに影響する要因について、二変量・多変量解析をおこなったところ、カップルの年齢の上昇や結婚期間が2年以上経過することに加え、結婚生活や子どもを持つことに対する幸福感も、男性が「子どもを持つタイミング」を判断する際に関連することが示されました。男性の子どもが欲しいタイミングは、その後の生活をポジティブに想像できるかどうかにも影響を受けるようです。男性の中で、子どもを持つことによる幸福感がどのように芽生え、育っていくのかということに目を向け、取り組んでいくことが求められているのではないでしょうか。

発表3.子どものいない拳児意向のある有配偶者の妊娠に向けた活動の実態と意識—「妊活」はどのような人がどのような場合に行っているのか—

発表者:持田聖子 (ベネッセ教育総合研究所)
 「妊活」は、2014年上半期の流行語第4位となり、主に女性を対象とする妊活情報はネットや出版で増えています。しかし、さまざまな「妊娠に向けた活動」の実態や意識について包括的に調べた研究はありません。本発表では、31の活動項目を設定し、「子どもを今すぐにでも持ちたい」と回答した男女の妊娠に向けた活動の傾向を経年比較、男女比較、二変量・多変量で探索的に分析しました。結果、2007年と比べて活動が全般的に活発になっていること(女性)、女性の方が男性よりも活発に取り組んでいること、不妊への気がかりを感じていたり、夫婦で子どもを持つことについてコミュニケーションを取っている場合、活動がより促進されることが分かりました。妊娠に向けてどのようなアプローチを取るかは、カップルの問題であると思いますが、女性の妊よう力は年齢と共に低下することを考えると、男女双方に向けて早期から、妊娠・出産についての正確な情報を提供することが必要です。ただし、生き方の選択肢が多様化する中で、年齢や対象者の状況を考慮し、情報提供の内容や方法は工夫する必要があるといえます。

発表4.子どものいない有配偶女性の親なりに対する距離とその要因—「子どもを持つことについての調査」インタビューより—

発表者:白井千晶 (静岡大学)
 結婚と親になること(以下親なり)(典型的には出産)が結びついている社会においては、結婚する女性は、少なからず親なりについてイメージしているのではないかと思われます。そこで、30~37歳の有配偶女性12人に対して行った面接調査の語りから、「親なり(親になること)」についての背景や理由について、KJ法による分析を行いました。結果から導き出されたのは、子どもがいる生活の体験不足は、親なりのイメージを具体的にもちにくいこと、しかし、子どもといっても、乳幼児のイメージを持っている人は少ないことが分かりました。また、配偶者の意向や状況も、親なりへのイメージに影響していました。親なりへのネガティブなイメージの中には、配偶者との関係や、生活、自分の体型などの変化に対する忌避感も含まれていました。
 これらから、親なりイメージや子育てイメージは、現在の社会経済的地位や子育て環境・条件だけではないことが予想されました。子育てのタコツボ化と世帯構成の変化(きょうだい数の減少等)が、成育過程において子どもとの接触を減らし、子育てイメージの欠如につながっているのであれば、親なりしていない人を含む子育ての共有が一助になるでしょう。また、キャリアプラン形成において家族キャリアが含まれていなかったことが、子育てイメージの欠如につながっているのであれば、ワーク&ライフを含むキャリアプラン教育が求められるといえるのではないでしょうか。


 各発表に共通することとして、社会経済的要因よりも、「子どものいる暮らし」の意識が、挙児意向に影響をしているという点が挙がりました。そして、これから子どもを持とうとする人たちに、どうしたら「子どものいる暮らし」のイメージを具体的に、ポジティブに届けられるだろうか、という課題について、活発な討議をしました。
 会場からは、少子化が進む社会において過去の時代の家族像を模倣することは不可能であり、問題の根は深い。子どものいる暮らしを若い世代が実感できる、新しい社会のあり方をつくっていくべきではないか、という意見も挙がりました。本調査では、特に女性が、親になることの負担や、「親になる自信がない」、「安心して子育てできる社会ではない」という不安を感じている傾向がみられました。世代間や地域での交流が希薄になるなかで、親子をあたたかく見守り、必要な時にサポートできる風土ができれば、親子が安心して過ごすことができ、その姿を通して、次世代の人々が「子どものいる暮らしっていいな」と感じられるのではないか。そんな社会になればよいと思いました。
 今後、「教育フォーカス」コーナーで、学会発表をベースにした連載を始める予定です。ご期待ください。
発表要旨はこちらから>日本家族社会学会 第24回大会サイト
http://www.wdc-jp.com/jsfs/conf/2014/index.html