2015/07/30

Shift│第8回 学校でも塾でもない、躍進する「アフタースクール」という新たな選択肢 [2/5]

学童+保育+プログラム

 今回、取材した「キッズベースキャンプ二子玉川」は直営のもので都内に24拠点、それに加えて運営を委託している施設も8つある。発足以来、順調に会員数を伸ばしているキッズベースキャンプ。このアフタースクールは、どのような経緯で設立されたのだろうか。株式会社キッズベースキャンプの代表取締役、島根太郎さんに話を聞いた。
 「今のキッズベースキャンプは、東急電鉄の子会社ですが、もともとはエムアウトという会社で私が始めた事業でした。その会社では、自分自身が共働きで、子どもがいたのですが、教育や児童福祉など自分にとって大きな関心がある分野で起業しました」と島根さん。
 創業にあたり、保育業界について調べていた島根さんは、ほとんどの保育所が公的なお金、税金で賄われており、利用者が行きたい保育所になっていないことへの疑問を感じていた。
 「たまたま会ったワーキングマザーたちの話で、いわゆる小1の壁にぶつかったことを複数人から聞きました。小学校に入学するまでは、子どもを保育所に預けることで生活が成り立っていたのに、小学校にあがると仕事を辞めなければならないことを彼女たちは悩んでいました」
 島根さん自身、子どもをもつ親として学童保育の限界を感じていた。
株式会社キッズベースキャンプの代表取締役 島根太郎さん画像1
キッズベースキャンプ代表の島根太郎さん
 「当時、小1の息子が学童保育から突然いなくなる事件がありました。探し回ると、近所のクリーニング屋に上がりこんでテレビを見ていた。理由を聞いたところ、学童保育にある本は全部読んだし、特別なアクティビティもない。遊びたい友だちは学童に行っていないし、体育の時間が終わらないと学校の校庭も使えない。学童保育のサービスの部分と子どもが楽しいと思う部分、両方とも足りないのではないかと感じたのです」
 保護者の視点でいうと、従来の学童保育の問題は18時には終わってしまうという保育時間にあった。保育所では延長保育が当たり前なのに、学童保育になった瞬間、子どもを預かってもらえない。それでは困るだろうという声もあり、キッズベースキャンプをはじめ、最近では民間の学童保育が19時以降まで保育を延長する動きが出てきている。
 こうした経験を通して、2006年9月にサービスをスタートさせたのが「キッズベースキャンプ」だ。当時、島根さんは「アフタースクール」という領域を確立するために、研修をしてキッズコーチを育てていくことを第一に考えた。キッズコーチを憧れの職業にするためだ。いい人材を集めるために、ネーミングにもこだわった。
 「『足つぼマッサージ』が『リフレクソロジー』になるとイメージがガラッと変わるように、『学童保育』も『アフタースクール』と言い換えました。『学童保育指導員』も『キッズコーチ』に変えました」と、島根さん。そのおかげか、「アフタースクール」という名前は、一般に定着しつつある。
 もちろんネーミングを変えるだけでは従来の学童保育と変わらない。アフタースクールというからには、通常の学童保育にはない、特徴的な教育プログラムが存在する。
 「教育プログラムは、前職で心理学に関わる事業を研究していましたので、その時学んだ知見をベースにつくっています。また、前職で人材採用する中で、いわゆる地頭の良さやIQの高さとは異なる力の必要性を感じていました。チームとして機能させる力や人を巻き込む力、社会と関わる力です。昔は近所にいるお兄さん、お姉さんと一緒に遊ぶ中で、斜めの関係を築いて、いろいろなことが学べました。ここでは、キッズコーチがそういう関係をつくって、子どもたちの力を引き出せるようにしています」
 人格形成に関わるこのような力は、社会人になって企業研修で身に付けるのではなく、幼少期に獲得した方がいいそうだ。島根さんは、学校以上に共にいる時間を費やすアフタースクールという場で、社会で役立つスキルを身に付けられるプログラムを行いたいという。

子どもたちのスターバックスにしたい

 株式会社キッズベースキャンプでは、「一般社団法人キッズコーチ協会」も設立している。この協会では、もともとキッズベースキャンプで行っていた社内研修を体系化して、保育士を養成する専門学校の履修科目に組み込み、卒業生に認定キッズコーチ資格を付与する仕組みをつくった。現在、個人のほか、競合他社も含めて、様々な受講者がこの資格検定を受けているという。
株式会社キッズベースキャンプの代表取締役 島根太郎さん画像2
 「キッズコーチの認定は、ビジネスというよりは社会への貢献です。また、自分たちが運営できない地域は、パートナーシップという形で同じような志をもっている方にやってもらえばいいじゃないかという考え方があります。例えば、阪急・阪神ホールディングスさんやJR九州さんの学童保育事業のコンサルティングも行っています」
 キッズベースキャンプの今後について、島根さんに聞いた。
 「公設の受託の事業ニーズ(児童館、学童保育、放課後事業)が大きくなっているので、そこはしっかり進めていきます。事業開発に関しては、社会の変化や利用者のニーズに合わせた面白いものをやってみたいです。キッズコーチ協会の検定の裾野も広げていきたいですね。キッズベースキャンプは、子どもたちの集まるサードプレイスです。大人たちにとってのスターバックスと同じです。家庭と学校とは別のもう一つの場所。昔は近所のコミュニティでそういう場所がありましたよね。子どもたちにとって、親に行かされるのではなく、行きたくてしょうがない場所になってほしいです」
 インタビューの最後に、島根さんがこの事業への思いを話した。
「一般的に、保護者の方々は習い事にはお金を払うのに、保育施設には安さを求めます。たとえ、良い保育をやっていたとしてもです。こういう価値観を変えていきたいですね。放課後の時間を消費から教育的な投資に変える。わかってもらえるのではないかと願って始めた事業です」