2015/03/17

Shift│第6回 「ICT」は目的ではない、生徒と教員が共に学び、共に未来を描く学校 [5/6]

今までの授業形態では時間が足りなくなる

 ここにまたひとり、iPadを積極的に活用して授業を展開している教員がいる。物理を担当する渡邉靖文氏だ。渡邉氏にはもともと、「実験を多く取り入れたい」「演習を通して、理解を深めたい」「議論を通して、自分の考えを伝える能力を高めたい」といった願望があり、「今までの授業形態では時間が足りない」という結論にたどり着いていた。
 渡邉氏の授業は、iPadをさまざまな場面で活用している。例えば、教員の手元で行う実験の様子を見やすくするために、iPadのカメラで撮影したものをプロジェクタで大きく投映している。また、iPadの角度センサーや加速度センサーなど、普段あまり使わないような機能もこの授業では効果的に使用している。
iPadのさまざまな使い方を紹介する渡邉氏
 渡邉氏はiPad導入の結果、「実験回数が増え」、「議論の回数が増え」、「基本事項についての質問回数が減った」と満足げだ。特に実験は、それまで1年に2?3回だったものが、多いときは週に1回できるまでになった。基本事項の質問が減った理由については、生徒が何度も動画を見ているのが理由ではないかと分析している。
 ICT教育推進室長の乾 武司氏も理科の教員だが、独特な教え方を確立している。教室の前方にはプロジェクタが置かれ、黒板の中央には常にiPadの画面が投映されている。このiPadにはロイロノートが入っていて、いつでも生徒たちの手元のiPadの画面を映し出せるようになっている。
 生徒たちに問題を解かせると、黒板に投映された問題文の上にチョークの文字を重ねて解説を始めた。続いて、ロイロノートで全員の答えを映し出した。よくある間違いにチョークで印をつける。また、ある生徒の解答をピックアップして映し出し、その上にチョークの文字を重ねて解説する。「一番いい方法を模索しているうちに今の形になった」という。
 乾氏は、いちいち映像投映用のスクリーンを用意する手間もないことから、この方法が気に入っているようだ。
 乾氏の「スーパー文理コース」の化学の授業を見学した。「今までiPadの活用事例は、低学力層のモチベーションアップが中心で、最初からモチベーションが高く要求も高い高学力層向けはあまりなかった」と語る乾氏。間違った生徒がどのあたりでつまずいているのかを精査し、必要な場合は生徒に指導する。生徒たちの「完全習得学習」を実現するために今の形態になった。
 網羅的な完全習得学習でありながら、板書などの余計な手間がなくなったこともあり、問題演習をこなす量は以前の1.5倍程度に増えたという。また、乾氏は昨年度から「生物基礎」という新カリキュラムの科目も教えている。この科目は教える内容が多く、2単位では時間数が全く足りないという課題があった。そこで授業ノートを先に配信したり、ビデオ教材の予習を課したり、練習問題を自動送信するなど、授業の準備などに関わることを「授業時間の外」に出し、授業でやることを精査したという。その結果、授業時間に余裕ができたのだ。結果として、授業の最後に、「自然環境」に関する項目を調べ学習にあててディスカッションすることができた。「そのディスカッションも、リアルタイムで資料などを持ってきてアクティブな授業ができました」という。