2015/03/04

Shift│第5回 テクノロジーとオーダーメイド教育が、障がいを持つ子どもの学びの意欲を生む [7/7]

変わったのは、学び方だけではなく子どもたちの姿勢

 ある日、山口氏が授業の中で生徒たちにアンケートをとった。その質問のひとつに「もし、iPadがなかったらどうするか」という項目があった。すると、ひとりの生徒からこんな答えが返ってきた。
 「すごく不便になるだろうが、別の方法を考えたい」
山口 飛 氏
 山口氏にとって、とても嬉しい答えだった。
 「これまではすごく受け身だった生徒が、自分から周りの環境を変えていこうという姿勢に変わったのです。これまではそういう選択肢がなかったですから」
 最近では、授業以外の生活面でも「自分でできます」と言って、支援を断る子どもたちが増えてきたという。
 障がい者を支援するテクノロジーはもちろん大切だ。それに加えて、テクノロジーに頼るだけではなく、活用する方法や意味を考え続けて、実行に移す山口氏の存在。彼のような触媒としての教員の登場が、障がいを持つ子どもの心の中に「シフト」をもたらし始めているのかもしれない。

■目覚ましい進歩を遂げる、教育支援テクノロジー■

 ディスレクシアは、目は見えるが文字の読み書きに困難を感じるという障がいだ。文章の読み書きができないため、普通の学校ではあまり知的印象が良くないこともあるが、実はディスレクシアは知能レベルには何ら関係していない。ディスレクシアに悩まされた有名人といえば、ダ・ヴィンチやエジソン、アインシュタイン、そしてiPodやiPhoneを生み出したアップル社のデザイナー、ジョナサン・アイブなどが含まれているという。
 最近、このディスレクシアを抱えた生徒も、タブレットの合成音声による文字の読み上げによって本の内容を知ることができるようになった。また、タブレット上で、読み上げている文字に印をつけて表示することで、読む能力が向上することもわかってきた。日本では東京大学先端科学技術研究センター・人間支援工学分野、日本マイクロソフト株式会社,株式会社EDUASの共同プロジェクト「DO-IT Schoolプロジェクト」などが、この分野を研究・実践している。また、自閉症の子どもたちが、タブレット上に表示する絵のカードをタップして意思表示することで、コミュニケーションがとれるという事例も世界中からたくさん報告され始めている。

【筆者プロフィール】

林 信行(はやし のぶゆき)

ジャーナリスト

最新テクノロジーは21世紀の暮らしにどのような変化をもたらすかを取材し、伝えるITジャーナリスト。
国内のテレビや雑誌、ネットのニュースに加えて、米英仏韓などのメディアを通して日本のテクノロジートレンドを紹介。
また、コンサルタントとして、これからの時代にふさわしいモノづくりをさまざまな企業と一緒に考える取り組みも。
ちなみに、スティーブ・ジョブズが生前、アップルの新製品を世に出す前に世界中で5人だけ呼んでいたジャーナリストの1人。
ifs未来研究所所員。JDPデザインアンバサダー。
主な著書は「ジョブズは何も発明せずにすべてを生み出した」、「グーグルの進化」(青春出版)、「iPadショック」(日経BP)、「iPhoneとツイッターは、なぜ成功したのか?」(アスペクト刊)など多数。
ブログ: http://nobi.com
LinkedIn: http://www.linkedin.com/in/nobihaya