2016/12/14
Shift│第14回 ものづくりの真髄を伝える専門学校が、学生の意欲を高め、クリエイターの在り方を変える [3/5]
現役デザイナーの教員から学べること
今回取材したもうひとりの学生は、久保さん。彼女は一度社会人を経て、同校に附帯するキャリアスクールに通っている。ヒコ・みづのジュエリーカレッジを母体とするキャリアスクールなので、ジュエリー製作に必要な設備が揃っているのが特徴だ。
その日、久保さんはピアスを製作していた。石座に大きい石と小さい石を入れた可愛らしいものだ。今年4月に入学してからおよそ半年で、これだけのものが製作できるようになった。もちろん、本人の努力は不可欠だろうが、専門的なものだけに彼女らはどのように技術を習得するのかが気になるところだ。
久保さん
「テキストはありますが、具体的な作り方が詳細に書かれているわけではありません。だから、先生に作り方を直接教えていただくことになります」と、久保さん。
現在進めているピアスづくりも、授業時間だけで完成するわけではなく、帰宅してからの自宅作業は必須だ。むしろ、学校にいる間は先生をできるだけ活用する。例えば、石座を彫金加工する際、どうやったら台から滑り落ちないようになるかなど、テキストには書かれていない具体的な技術を教えてもらう。また、技術の習得方法やモノづくりに向かう姿勢についてのアドバイスももらう。先ほどの菅谷さんと同様久保さんも、本校の価値は、「現場で活躍する先生からの多様なアドバイスを得られることだ」と、言っていた。
久保さんは、同じ疑問を異なる先生にぶつけてみることもある。先生ごとに返答は違うが、かえって物事に対する多面的な見方を教わるという。先日、こんなことがあった。学校内のコンペにアイデアを数案出そうと思って相談したところ、「それぞれのアイデアの評価はしてくれましたが、一方でそんなにたくさん出してはもったいない。いくつかは自分のアイデアとして取っておいて、今回のコンペに出すのはこれだけでいいのでは、と指導してもらった」という。久保さんは、現役のデザイナーとして働く先生ならではのアドバイスに、アイデアは財産として大切にするべきという意見に納得した様子だった。
脈々と受け継がれるモノづくり精神
キャリアスクールに通っておよそ半年、久保さんにこれまでの手ごたえを聞いた。
「入学する前までは、既存のパーツを使ったジュエリーはつくったことがあったのですが、彫金での金属加工は未経験でした。ピアスに石を留めたのもまだ3個目ですが、ようやくここまで来たという感じです」
「入学する前までは、既存のパーツを使ったジュエリーはつくったことがあったのですが、彫金での金属加工は未経験でした。ピアスに石を留めたのもまだ3個目ですが、ようやくここまで来たという感じです」
教室で作業する久保さん
彼女としては、ある程度技術も上がってきた実感はあるようだ。しかし、満足感以上に、展示会などで母体である専門学校の学生たちの技術を目の当たりにして、刺激を受けている。
「同時期に入学してきた専門学校の学生たちの作品を見ると、自分はもっとやらなきゃいけないなあと強く感じています」と、久保さん。
高いモチベーションをもつ人間は強い。彼女は、入学前に比べると集中力が格段に続くようになり、それまで短時間しか続かなかった作業が、昼夜問わず続けて行えるようになったという。夜間には「ジュエリーデザインコース」を受講する貪欲な姿勢も見せている。さらに、今年は夏期特別講座にも参加した。
ヒコ・みづのジュエリーカレッジには、学生をその気にさせる空気のようなものが存在する。そのひとつが教員の熱意だ。山本先生自身、本校の卒業生で、今のように情報がそれほどなかった時代に、自分で調べてどうしてもこの学校でジュエリー製作を学びたくなったという。結果、高校卒業後に鹿児島から上京して3年通った。山本先生には、その頃恩師から伝えられた忘れられない言葉がある。
「作品は、構成されている『細部』でクオリティが決まる」
久保さんがつくったピアス
細かいところをいい加減にしておくと、いいものにはならない。デザインもそうだが、社会に出ると、隅々まで行き届いた考え方と行動が求められるのもそうだ。また、山本先生がデザイナーとして、教員として大切にしている「作品のオリジナリティの重要性」にも、この言葉はつながる。オリジナリティは作品の細部に宿るからだ。
学びと実社会をつなげるためにヤフーとコラボ
ヒコ・みづのジュエリーカレッジでは、昨年に続いて、夏期特別講座として学生クリエイターに向けて、IT人材育成講座を開講した。サイバー大学とヤフー株式会社とのコラボレーションである。この講座は、学生たちがつくった作品を商品としてオンライン販売できるように、Yahoo!ショッピングに自分たちのストアをつくるカリキュラムとなっている。
本講座には学内から「ジュエリーコース」のほか、「シューズコース」「バッグコース」「ウォッチコース」の各専門課程やキャリアスクールから、希望する参加者が集まった。学校側の狙いのひとつとして、クリエイターはモノをつくるだけではなく、それをどうやって売るかというところまで学んでもらいたいということがある。そのあたりの学校の方針は、クリエーターズ・マーケットの企画・運営などからも感じられる。
アナログの手作業を得意とするクリエイターたちは、対極にあるITなどのデジタルツールの取り扱いは苦手な人が多いとも聞く。しかし、インターネット上では、手軽に店のオーナーになれる時代だ。自分自身もジュエリーデザイナーである山本先生は、これからのクリエイター像に言及した。
「学生たちがクリエイターとして生きていけるようになることを願うと、自分の商品を自分で売れるようになった方がいいですよね。幸いなことに今、インターネット上にそういう環境があります。しかもYahoo!ショッピングは敷居が高くないから、自分のモノを売ろうとする入口としてはこの講座は適しています。あわせて対人関係が苦手でも、自宅でもできるということを学生には伝えています」
山本先生はこうも言う。
「学生たちは自分の属性を学生だと思っています。でも、彼らの作品を見た人にとっては、モノづくりの力を相当もっているように思えるはずです。今回、インターネット上にストアを開店すれば、お客さんの立場からすると店のオーナーは学生ではなく、一人前の大人として扱うでしょう。学生であれ、そのように振る舞わなければならないですし、そういうことをわかってもらうには絶好の機会ではないでしょうか」
「学生たちは自分の属性を学生だと思っています。でも、彼らの作品を見た人にとっては、モノづくりの力を相当もっているように思えるはずです。今回、インターネット上にストアを開店すれば、お客さんの立場からすると店のオーナーは学生ではなく、一人前の大人として扱うでしょう。学生であれ、そのように振る舞わなければならないですし、そういうことをわかってもらうには絶好の機会ではないでしょうか」