2014/02/07
Shift│第1回 ICT教育の未来をつないだ、ひとりの中学生 ~自分のエンジンで探求できる生徒を育む~ [4/5]
自立と工夫を促す「学びのリテラシー」と「アカデミア」
県立千葉中学校 大山副校長
県立千葉中学校は、創立136年目を迎える名門、県立千葉高校の付属中学校で2008年(平成20年)に設立されたばかり。山本さんはそこの3期生に当たる。2014年度の志願倍率は12.7倍の極めて狭き門であり、小学校時代は出身校の中でもエリート中のエリートだった生徒がほとんどだ。しかし、だからといって進学校のように先取り教育をすることはなく、授業で教えることはあくまでも中学校教育の範囲内にとどめている。学校のカリキュラム上の特色と言えば、週1時間の「学びのリテラシー」という授業と、先にも触れた「総合的な学習」の時間で行われる「ゼミ」くらいだと大山副校長は言う。
「学びのリテラシー」は、その名の通り探究心を持った生徒たちが、自立した学習を進めるのを手助けする授業で、例えば「インタビューをする際にはどんな質問をすればいいのか」や「アンケートはどのように行い、どう集計すればいいのか」といったことを教えている。この授業の構想は、大山副校長がまだ千葉中学創設に関わる委員会にいた頃に出てきたという。文部科学省からは生徒達の言語能力を高めなさい、思考力と判断力を高めなさい、表現力を向上させなさい、と指導を受ける。県からは「いずれは、世界に出て行く人材を育てなさい」と言われる。「しかし、学校の現場を見渡してみて、実際に生徒達がそういった表現力や発表能力を高められる機会が本当にあるのかと思った」と大山氏は振り返る。
こうして生み出されたのが、生徒たちに「リテ」という呼び名で親しまれる「学びのリテラシー」という授業だった。道徳の授業などと同じで、過去にこうした授業を教えた経験を持つ教員はいない。そこでさまざまな教科の教員が交代で、それぞれに工夫をしながら教えていく。例えば夏休みを控えた時期には自由研究を見据えて、理科の教員が教科の観点で教えたり、他の時期には数学の先生が統計的な情報の扱い方を教えたり、国語や英語の教員もそれぞれの観点で自立した研究や表現に役立てようという観点で教えている。
山本さんのアカデミアでの発表の模様
一方、生徒達が好きなテーマで研究をする「ゼミ」と、その年に1度の発表会「アカデミア」は、親御さん達はもちろん、教育関係者からも「面白い」と大変好評だ。「総合的な学習の時間」を使って同様の試みをしている学校は他にもあるが、どうしても取り扱うテーマなどに教員の考えが反映されやすい中、千葉中では、生徒たちが身の丈にあった興味と切り口でテーマを選んでいると評判で、この中に入ると優秀な山本さんもそれほど目立たなくなるほど、他の生徒たちの研究も面白いという。他の生徒さんの研究の例を紹介すると「ペットの殺処分」や「人間のねたみ」といった深刻なテーマを選ぶ生徒もいれば、中学2年生ながら「オタク」をその語源や歴史まで遡った上で、何で現代社会に「オタク」が必要かを論じる発表もあったという。
発表会は学校の体育館で行われるが、学校の側では特に「これを見に行け、あれを見に行け」といった指導は行わず、生徒たちはプログラムを見て自分たちが本当に見たい発表を聞きに行く。このため人気のある発表には人だかりができるが、下級生や人気のないテーマの発表は保護者や気にかけた先生くらいしか聞いていないこともある。それでも「あえて生徒たちを均等に割り振るようなことはしない」と大山氏は言う。誰にも発表を聞いてもらえず、屈辱的な経験をした生徒たちは、必ず次の発表をもっと工夫してくるだろうと、生徒達を信用しているようだ。千葉中の生徒達は、確かにそもそもエリートで自立心が強いかもしれないが、学校は生徒のそんな資質をさらに伸ばす工夫をしている。それも、ちゃんと学習指導要領に沿った中での、わずかな工夫でそうしているのだ。