2014/02/07

Shift│第1回 ICT教育の未来をつないだ、ひとりの中学生 ~自分のエンジンで探求できる生徒を育む~ [3/5]

山本さんを育てた県立千葉中学校

山本さんを育てた県立千葉中学校
 自立して興味を徹底的に追及し、自分なりに消化し、発信して、周りの人々に大きな影響を及ぼす。こうした山本さんの行動力や発信力は、次代のリーダーの資質としてよくあげられるものだ。こうした特質は山本さんの天賦の才で、他の学生たちが真似しようと思ってもできないものなのだろうか。もちろん、そうした部分もあるかもしれないが、一方でとりまく環境が現在の山本さんをつくっているのだと思う側面もある。後者の思いは、山本さんの取材を続けるうちにますます強まってきた。
 山本さんが中学時代に接していた環境とはいったいどんなものなのか。まずは家庭環境が挙げられる。山本さんがさまざまなことにチャレンジし、取材のために東奔西走するのを数歩離れて見守ってきたご両親の後ろ支えの素晴らしさは最も重要な要素の1つと言えよう。だが、これがすべてではない。やはり、山本さんが中学時代の多くの時間を過ごした学び舎、千葉中学校という環境も素晴らしい。「名門校」であり「難関校」の同校だが、そこで受ける授業は受験に向けた先取り教育などはなく、学習指導要領通りのカリキュラムに沿っているというから驚きだ。その代わり同校では、学習指導要領で許された枠の中で、生徒たちに好きなことを追求させる時間を設けることで山本さんのような学生が、その溢れる情熱を研究や発表に打ち込める土壌を整えている。もちろん、同校を素晴らしい環境たらしめているのはカリキュラムだけではない。ショックを受けていた山本さんを励ましてくれる大山副校長や、山本さんにiPadの効果的な活用方法を相談する英語科教員の生徒達との距離感も、過保護でも疎遠でもない絶妙なものになっている。
 翻って、山本さんは何をするにも、その分野の一流の人の元へ足を運んだ。そして神戸大学の杉本真樹医師ら、一流の大人たちも中学生の山本さんに対して真摯に向き合った。そして、これが山本さんの活躍を後押しし、さらなる活動へつなげたのだ。こうした要素がすべて揃い、いい循環を生み出したからこそ、山本さんが中学時代にあそこまでの活躍ができたとも言えるはずだ。そうだとしたら、我々が「これからの教育」を論じる際、考えるべきことは、学校でどんな道具を用いて学習するかの議論だけでも足りなければ、どんなカリキュラムを組むかだけでも足りない。周囲の大人たちが学生にどう接するかも含めて、優秀な次世代を育てる社会という器そのものを考えていかなければならないのではないか。つまり、学校だけではなく、政府も自治体も、メディアも、商業も、学生たちと関わりを持つすべての課題なのだ。もっとも、あまり大風呂敷を広げると収集がつかなくなるので、今回の記事を読む保護者や教育関係者にとって最も身近な学生たちとの接点「学校」について、もう少し考察を加えたい。山本さんを育てた県立千葉中学校とはどんな学校なのか。