2014/12/15

シリーズ 未来の学校 第5回 | 秋田県発、リベラルアーツ教育がグローバル人材を輩出する【前編】[4/6]

【前編】 国際教養大学が実践する、英語で学ぶリベラルアーツ [4/6]

米国人でも難しいと感じる専門教養教育の授業

 AIUの特徴の1つに挙げられるのが、交換留学制度である。世界46カ国・地域の167校の提携大学から留学生を1人・1年間受け入れることで、本学からも学生を1人・1年間、その提携大学に派遣できる。この制度のおかげで、授業料を納めれば留学先の大学の授業料は免除される。 先ほど紹介したムルギヤ先生の「地球社会学」にも多くの海外留学生が参加しており、授業を終えた2人の留学生に話を聞いた。ひとりは米国デンバー大学からの交換留学生ゾーイ・チャップマンさん、もうひとりは本学2年生の渡辺ガス空太さんだ。
チャップマン「地球社会学はグローバルなスケールで大変面白い授業です」
渡辺「授業は一方通行ではなく双方向のコミュニケーションがあり、先生も学生が参加しやすいようにしてく ださるので、一方通行の講義形式の授業よりもはるかに楽しめます」
 「地球社会学」の授業を見学した限り、先生の話す英語のスピードは速くテーマも重いだけに、内容を深く理解するには相当の語学力が必要だと感じていた。一見日本人の渡辺さんだが、実は米国に生まれて15年間過ごした後、マレーシアの高校に通っていたそうだ。では、日本で生まれ育った日本人学生はこの授業についていけるのだろうか。
渡辺「先生の英語は丁寧な言葉遣いなので、日本人にもわかりやすいと思います」
チャップマン「時々早口になることがあり、難しい専門用語を使われることもあります。ただし、その場合は 米国人の学生でも苦労します。全体的には、日本人の学生もよくついてきていると思いますよ。彼らと話をすると授業を理解しているように思えますし、わからないことは先生に質問しています」
 チャップマンさんは、来日して約1カ月。学習環境もよく、溶け込みやすい雰囲気のAIUをとても気に入っている。もともと日本の文化にひかれていたところ、日本人の友達もでき、少しずつ日本のことがわかってきたことがとても嬉しいのだという。
 一方の渡辺さんは、自分の出自、自分は何者であるかというアイデンティティについて危機感を持っていたという。
渡辺「私の中にあるアメリカ人の部分と日本人の部分の間での葛藤ですね。高校卒業後に日本へ来たとき、自 分はアメリカ人だと思っていたのですが、自分の中に日本人の部分がこれほどあるとは思いませんでした。これまで、自分の出自を嫌だと思っていたこともありましたが、AIUにいると自分を日本文化の中に置くことができ、自分がこれまで全く知らなかったことを知り、とても楽しい毎日を送っています。私のような立場の人間は、いつかこうしたアイデンティティの危機に出会うのでしょうね。自分が何者であるのかを知るのにAIUはとてもいいところです。人生でとても貴重な時間を過ごせていると思います」