2014/02/27
シリーズ 未来の学校 第3回 | 過疎からの脱却、地域を復興に導いた教育改革【前編】[4/4]
【前編】 生徒の夢と地域の将来を見つめた、隠岐島前高校の人間育成 [4/4]
地域学を通してみんなが「ますます隠岐が好きになった」
プレゼンテーションを終えた生徒からは、「準備してきたものを全部出し切れた」「地域の方たちから意見してもらうことで、調べなければならないことに気付けた」といった感想が聞こえてきた。
また、地域学の授業については、「島前地域のことについて知らないことが多かった。地域の課題解決を自分たちで考えるのはいい学びになる」「地域学を通してますます隠岐が好きになった。隠岐をもっとよくしたいという気持ちも強くなった」「地域学の授業を通して、あらためて自分の島を知ることができた」といった声が聞かれた。
一方、発表会に参加した隠岐島前地域の大人たちにも話を聞いた。60代の男性は、「隠岐島前高校のすぐ近くに住んでいるので公開授業にはよく参加している。今回は町の有線放送で地域学の発表会があるということで来た。若い人たちの話を聞くことは刺激になる」という。また、西ノ島に住む60代の男性は、「現場をもっと知ることに時間を使ってほしい。少ない情報で企画を立ててもいいものにはならないし、地域の人たちを動かすエネルギーにもならない。現状を知っていればもっとよい発表になっただろう。ただ、地域に目を向けるのはとても重要なので授業自体は評価できる。今後もこういった授業を続け、島の大人たちにさまざまな提案をしてもらいたい」と話した。また、西ノ島で働く30代の女性は、地域学の発表会に参加するのは3回目だという。「今回の発表会に参加し、自分にとっても勉強になった。もともと教員で学校が好きなので、高校生の意見を聞くと刺激を与えてもらえる。隠岐にもっと多くの人が訪れ、隠岐を知って、愛してほしいという気持ちは私も同じ。今後は島前だけでなく、隣の島後(どうご)地域のことも取り上げるようにすれば、隠岐の良さがさらによくわかってくるのではないか」と話した。
校長が考える地域学の課題
隠岐島前高校校長の西藤昌裕氏は、同校の特徴として特色ある学習プログラムを挙げる。
「子どもたちの将来を考えると、早い段階で進路選択ができるようになることが重要です。そのため隠岐島前高校では、普通科でありながらキャリア教育に力を入れています」
隠岐島前高校では、キャリア教育として前述の地域学の授業を行っている。地域学を開講して3年経つが、2つの課題が浮き上がってきたと西藤氏はいう。
「1つは生徒たちの活動をもっと“深化”させること。情報収集をしっかり行い、机上の空論にならないように自ら地域に足をもっと運び、掲げたテーマを深化させることが必要です。もう1つは、同様の取り組みを行っている他校と交流を持つこと。本校の生徒を他校に向かわせ、“他流試合”をすることで、より骨太な活動が行えると考えています」
隠岐島前高校では、地域学のほかに「夢探究」という授業がある。自らの進路について、個人やチームで探究を進めるものだ。ここでも、その探究過程を通して自己実現の発見と地域社会に貢献を果たす志を醸成し、主体的、意欲的、協働的に進路を切り開く生徒を育成していく狙いが見える。自分の適性を知り、将来の方向性を決め、夢の実現に向けた実践力を身につける。この高校には3年間を通底するキャリア教育の理念と実りある人間育成プログラムが存在していた。
島前地域が島を挙げて推進するキャリア教育の「場」は、学校だけに留まらない。次回後編では、高校と連携する町の公営塾「隠岐國学習センター」の役割と授業の様子、また、島根県の行政から見た「隠岐島前高校魅力化プロジェクト」の効果をレポートする。