2013/11/11
シリーズ 未来の学校 第2回 | 開校22年目、子どもたちの自主性からすべてが始まる山間の自由学校【前編】[3/4]
【前編】 きのくに子どもの村学園の『自由』な子どもたち [3/4]
体験学習と有機的にリンクする座学
この「プロジェクト」と呼ばれる学習が中心のきのくにだが、普通の学校の学科授業に相当する時間もある、それが「基礎学習」だ。隠れ家を作っている「クラフト」の基礎学習の授業も取材した。
午前中とうってかわり、子どもたちは幾つかのグループに分かれて眉間にシワを寄せながら、プリントの問題を解いている。このグループ分けは習熟度別になっているようだ。早く解けた子どもは、解けていない子どもに教えている。
プリントの内容はいわゆる「算数」で、きのくにでは「かず」とよんでいる。机の上にはプリントのほかに、方眼紙で作った立体の展開図の模型が置いてある。立法体や三角錐などのよくある展開図ではないなあと模型を触っていたら、ひとりの生徒が教えてくれた。
「隠れ家だよ」
「!!」
「!!」
方眼紙を組み立てると、午前中作業した隠れ家の模型ができあがった。模型と共に彼らが向き合っているプリントは、きのくに子どもの村学園オリジナル製の教材だ。プリントの問題文を読むと、隠れ家の屋根、床、壁の面積を求める問題や、方眼紙の模型の縮尺を問う問題もある。きのくにの「基礎学習」は「プロジェクト」と密接に繋がっていて、子どもたちが「かず」を学ぶ意味がわかるようなカリキュラムになっている。つまり、子どもたち自身が決めた目標を達成する過程の中に、長さや面積などを学ぶ必然性がデザインされているのがプロジェクトの授業なのだ。だからこそ、プロジェクトのクラスは工務店やファームといった衣食住と直結する領域に設定されている。
きのくにのルールは、全員参加の全校ミーティングで決める
子どもたちの自主性を重視するきのくにを象徴する時間に、「全校ミーティング」がある。毎週木曜日の午後、小中学校の全生徒と学園長を含めたほとんどの教職員が参加して、学園のルールなど大切なことを決める話し合いの場だ。この学校にはさまざまなミーティングがあるが、なかでも学園全体のルールを決める全校ミーティングはとりわけ重要である。この全校ミーティングでは多数決の際、子どもの一票も大人の一票も、そして学園長の一票でさえ、すべて同じ一票として扱われる。
全校ミーティングが開かれるホールは、コロシアムを半分に切ったような構造になっている。階段状の席には、ぎっしりと子どもと大人が身を寄せ合いながら座っている。座席から下を眺めると、議長と書記らしい生徒2名だけがこちら側を向いて座っている。
議長「それではミーティングを始めるので、静かにしてください」
それまで、ガヤガヤしていた空気が一変、ホールは静まりかえった。そして、この静けさはミーティングが終わる1時間半後まで持続していた。子どもたちの当事者意識の表れだろう。直後、座席の一角から手を上げている大人がいる。子どもたちに混じって座る学園長の堀真一郎さん(以下、堀さん)だ。
堀さん「始める前に、今日きのくにの取材に来ている人たちがいます。議長、このミーティングを取材の人たちに見られてもいいかどうか、聞いてみてください」
議長「それでは、このミーティングを見られてもいいと思う人」
ほぼ全員の手が挙がっているように見える。
議長「見られたくない人」
誰ひとり手を挙げていない。内心とてもホッとする。
議長「それでは、見てもらうことにします」
さすが、すべてのことを子どもたちが決める学校だ、取材の許可であっても例外ではない。ミーティングの初っぱなからきのくに流の洗礼を浴びた。