2018/01/09

教育改革のいま、「子どもの主体性をいかに育むか」【後編】主体性を育む経験[3/3]

失敗経験から学びを得るために

 小泉 失敗を許さない窮屈な社会状況の中で、子どもの主体性を育むために、保護者や教員、学校・園にできることは何でしょうか。
 邵 子どもが選択できる機会の増加も、主体性の向上につながると思います。例えば、教員が宿題を出す際に、内容の異なるもの、難易度が違うものなどを提示し、その中から子どもが興味のあるものや、自分に合った宿題を選ぶといった方法をとることが考えられます。
 木村 失敗経験を実りあるものにするためには、周囲の大人のかかわり方が大切です。大人は子どもの失敗の原因を客観視できるので、できていない点を指摘して責めてしまいがちです。しかし、子ども自身が原因や解決策をさまざまな観点から考えられるよう手助けできるといいですね。
 邵 私も、子どもが失敗したときには、温かく見守ってあげたり、励ましてあげたり、場合によっては支援の手を差し伸べたりする必要があるように思います。どの程度までかかわるべきかは子どもによって異なりますが、大人が「こうしなさい」と指導してしまうと、子どもは自分で考えて行動しようという意欲を削がれてしまいます。あくまでもアドバイスにとどめておいたほうがよいと思います。
 高岡 子どもは、失敗したときにどのように自分と向き合っていけばよいのかを、あまり学んでいないのかもしれません。そのような場合の手本を大人が示すことも必要かと思います。
 小泉 幼児の失敗経験とはどのようなものでしょうか。
 高岡 日常の遊びの中で無数にあるでしょう。例えば、コマ回しや折り紙などの活動でも、どうしたらうまくいくかと、子ども自身が試行錯誤しながら学んでいきます。その原動力は、遊びの楽しさであり、もっとうまくなりたいという本人の思いだと思います。周囲の大人は、子どもが集中できる環境を用意し、自分で考えながら取り組めるように促したり、意欲を促したりすることが大切かと思います。
 小泉 前編で、主体性につながる非認知能力の1つとして、「頑張る力」に注目しました。非認知能力はスキルの一種なので、その能力を向上させることは可能であると考えられていますが、初等中等教育段階で「頑張る力」を伸ばすために、大人はどうしたらよいと思いますか。
 邵 子ども一人ひとりに応じて、背伸びをしてようやく届くかどうかという水準の課題を設定してはどうでしょうか。そして、達成できた場合には、褒めてあげるとよいと思います。小学生に限らず、中高生に対しても褒めることは次への頑張りにつながります。一方、思うような結果が得られなかった場合には、改善につながるような適切なアドバイスが重要になります。
 木村 大人には、子どもの失敗を成功につながるプラスの経験として捉える視点が必要です。そして、先ほどお話ししたように、子ども自身が失敗を振り返る機会を設けるとよいと思います。失敗から何を学び、次にどうしたらよいかを子ども自身が考える。そうしたことができなければ、試行錯誤が欠かせない経験主義的な学びも根づきません。それでは、今回の教育改革も系統主義的学習の重視へと揺り戻され、結局は過去の改革と同じ結果に終わってしまうでしょう。
 小泉 系統主義と経験主義の融合を図る今回の改革の鍵は、「頑張る力」を含む主体性、つまり非認知能力であり、それを育成し、向上させていくためには、失敗経験の活用がポイントになるということですね。最後に、それぞれの領域において、今後取り組みたいと考える研究テーマをお聞かせください。
 高岡 乳幼児領域では、幼児期に自分なりに工夫をしながら遊びこんだ経験が、児童期以降のどのような力につながっていくのか、また、周囲の大人はどのようにかかわるとよいのかについて、今後、縦断調査を続ける中で明らかにしていきたいと思っています。
 邵 初等中等教育領域では、どのように子どもの自ら学ぶ力を育てるのかが、関心が高く、重要なテーマです。特に、学びを中心とした子どもの成長発達のプロセスを明らかにすることや、ICTを使った子どもの学習プロセスの可視化、学習効果を上げる指導法や学習方法の調査に取り組みたいと考えています。
 木村 高等教育の領域では、現在、「学生の成長の可視化」というテーマに取り組んでいます。高等教育は、本来、主体的な学びを思う存分実現できる場です。しかし、課題が多いのも現実です。どのような学びのあり方が学生の力を伸ばすのか、その方法を明らかにし、広げていく試みをしていきたいと考えています。

邵 勤風

ベネッセ教育総合研究所
初等中等教育研究室長/主任研究員
しょう きんふう ●教育領域を中心に、子ども、保護者、教員を対象とした意識や実態の調査研究に多数携わる。これまで担当した主な調査は、「学習基本調査・国際6都市調査」(2006~2007年)、「第3回子育て生活基本調査」(2007~2008年)、「小中学生の学びに関する実態調査」(2014年)など。文部科学省「平成30年以降の子供の学習費調査に関する研究会」メンバー(2017年)。近年、学校段階間の接続といったテーマに関心をもち、子どもの発達を踏まえ、学びの連続性を保障するために、周囲(親や教師など)の適切な支援のあり方を考察している。