2023/03/31

第1回 外国につながる子どもの日本語学習や教科学習の現状と課題

 本記事では、外国につながる子ども(*)の日本語学習や教科学習の現状と課題について、文部科学省の調査データなどを基に整理します。
* 国籍を問わず、外国にルーツを持つ子どものこと。外国籍の子どもだけでなく、日本国籍でも帰国子女や日本語を母語としない子ども、無国籍・重国籍の子どもなども含まれる。 「外国にルーツを持つ子ども」「海外につながる子ども」などの表現もある。

日本語指導が必要な子どもが増加し、国籍も多様化

 就業などを目的とする在留外国人の増加に伴い、外国につながる子どもの数が増えています。文部科学省「外国人の子供の就学状況等調査(令和3年度)」によると、学齢相当の外国籍の子どもの人数は13万3,310人で、前回調査(令和元年度)に比べ、9,480人(7.7ポイント)増加しました。外国籍の子どもがいる自治体は、全体の約7割に達しています。今後、少子高齢化による労働力不足などを背景として、外国につながる子どもの数はますます増え、滞在の長期化や定住化も進むと予想されています。
 日本では、国際人権規約を踏まえ、在留外国人がその子どもを公立小・中学校などに就学させることを希望する場合は無償で受け入れています。2019年には、「日本語教育の推進に関する法律」(以下、日本語教育推進法)が施行され、日本語教育を希望する子どもに対してその機会を最大限に確保することが、国や自治体の責務として定められました。
 そのような状況の下、公立学校における日本語指導が必要な子どもの数は増え続けており、2021年度は5万8,307人に上りました(図1)。その中には外国籍の子どもだけではなく、保護者の国際結婚や海外からの帰国などの理由によって、日本語指導が必要な日本国籍の子どもも含まれます。
図1 公立学校における日本語指導が必要な児童生徒数の推移
※文部科学省「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(令和3年度)」を基にベネッセ教育総合研究所で作成。
 子どもの国籍が多様化している状況にも留意が必要です。日本語指導が必要な外国籍の子どもの言語別在籍状況を見ると、多い順に、ポルトガル語、中国語、フィリピノ語、スペイン語、ベトナム語などとなっています(図2)。母語とする言語とともに、文化や宗教、生活習慣なども多様化しており、まさに多文化共生社会の実現が求められる状況といえます。
図2 日本語指導が必要な外国籍の児童生徒の言語別在籍状況
※文部科学省「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(令和3年度)」を基にベネッセ教育総合研究所で作成。

「集住地域」と「散在地域」では、状況や課題が異なる

 日本語教育推進法に基づき、全国の自治体では日本語指導の必要な子どもに対する支援体制の整備を進めています。しかし、自治体によって外国につながる子どもの数は異なり、支援に充てられる予算や人員にも差があるため、取り組みの状況は様々です。
 外国籍の住民がまとまって居住する「集住地域」と、地域内に少数が点在する「散在地域」とでは、課題が異なるため、有効な方法も変わってきます。集住地域では、対象となる子どもの数の多さや多様さへの対応が課題ですが、地域内に拠点を設けて集中的に支援しやすいといった側面があります。また、そのような地域では、NPOなどの活動が活発であることも多く、支援を充実させやすい場合もあります。一方、散在地域では、日本語指導が必要な子どもがそもそも少なく、いても学校に1人、2人といった状況です。そのため、支援に必要な人材や予算を確保しづらいという課題があり、学校間や学校と地域との連携をどう進めていくかといった課題も見られます。

日常会話ができても、授業を理解できるとは限らない

 日本語指導には、学校生活に最低限必要な日本語、いわゆる「サバイバル日本語」から、日本語と教科を統合した学習まで、外国につながる子どもたちにむけた日本語指導には到達度に応じた段階があります(図3)。
図3 日本語指導が必要な児童生徒を対象に行っている指導内容別学校数(小・中学校)
ア:あいさつや体調を伝える言葉、教科名や身の回りの物の名前などを知って使えるようにする学習
イ:文字・表記・語い・文法、学校への適応や教科学習に参加するための基礎的な力をつける学習
ウ:「聞く・話す・読む・書く」の4つの技能のうち、どれか1つに焦点を絞った学習
エ:JSLカリキュラム(注3)
オ:在籍学級での学習内容を先行して学習したり、復習したりする学習
注1)日本語指導が必要な児童生徒が在籍している小学校・中学校の回答をグラフ化した。
注2)複数回答可。
注3)日本語の初期指導後、学習活動へ橋渡しをする文科省作成のカリキュラム。大きく分けて、「トピック型」「教科志向型」で構成。トピック型では、教科の枠組みを超えた学習課題を設定し、体験や探究を進める中で、情報の収集、思考、推測といった教科学習の基礎となる活動を行い、その成果を日本語で表現できるようにする。教科志向型では、各教科の学習課題を追求する過程において、具体物に触れながら抽象的な概念を理解することなどを目指す。詳しくは、文部科学省のウェブサイトをご確認ください。
※文部科学省「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(令和3年度)」を基にベネッセ教育総合研究所で作成。
 多くの学校では、学校生活に必要な最低限の日本語の指導(図3のアに相当)や、学習に参加するための基礎的な日本語の指導(図3のイに相当)を行っていますが、日本語と教科の統合学習(図3のエに相当)には対応していない場合が少なくありません。
 その状況が、現在の日本語指導を巡る大きな課題の1つといえます。外国につながる子どもの支援では、まず日常生活で使う基礎的な日本語を教えてから教科学習に移行する流れが一般的です。しかし、日常会話ができても、教科学習の理解は難しいことが様々な研究により指摘されています。
 カナダの研究者ジム・カミンズは、日常生活では「生活言語能力」(Basic Interpersonal Communicative Skills: BICS) が用いられるのに対して、学習場面では「学習言語能力」(Cognitive Academic Language Proficiency: CALP) が求められると説明しています。また、文部科学省の「外国人児童生徒受入れの手引き」では、日本語指導担当にむけたパートで、「生活言語能力」は、普段の生活の中である程度自然に身に付くものであるが、教師による支援も必要であること、「学習言語能力」については、生活の中で身に付くことがあまり期待できないため、教師による計画的な支援が必要であることが述べられています。
出典:Cummins, J. (2000) Language, Power and Pedagogy: Bilingual Children in the Crossfire. (Bilingual Education & Bilingualism Book 23). Multilingual Matters.
 そうした課題を踏まえて、国や自治体は、学習言語能力の育成を図るためのツールの開発や制度の充実を進めています。
 学習言語能力を効果的に育成するためには、最初に一人ひとりの日本語能力を正確に把握する必要があります。そこで文部科学省では、各学校が利用できる日本語能力の測定方法「外国人児童生徒のためのJSL対話型アセスメントDLA(Dialogic Language Assessment)」(*)を開発しました。
加えて、文部科学省が作成した「JSLカリキュラム」の活用が進むことも期待されています。JSLカリキュラムは、日本語の初期指導を終えた後、子どもがスムーズに学習活動に参加できるよう、橋渡しをするカリキュラムです。
* 日常会話ができても教科学習に困難を感じている子どもを対象に、子どもと測定者のマンツーマンでの対話を通じて、「会話の流暢度」「弁別的言語能力」「教科学習言語能力」の3点から、ペーパーテストでは捉えられない子どもの日本語能力を把握するためのアセスメント。その結果に基づき、日本語学習や教科学習の支援のあり方を検討する。
詳しくは、文部科学省のウェブサイトをご確認ください。

「特別の教育課程」で一人ひとりの課題に応じた指導を目指すには

 そうした中、日本語指導に関する個別や少人数での指導に対応できるよう、2014年、学校教育法施行規則の一部が改正され、小・中学校において日本語指導が必要な児童生徒に対し、「特別の教育課程」を編成できるようになりました。2023年度からは、高校でも「特別の教育課程」による日本語指導が導入されます。
 「特別の教育課程」による日本語指導では、子どもが学校生活を営み、学習に取り組めるようにするための日本語指導を、在籍学級とは別の教室で行います。「特別の教育課程」を編成する場合は、各学校が指導の目標や内容を明確にした計画を作成し、教育委員会などに提出します。年度末には、指導の実績などの提出も求められます。
 一人ひとりの子どもに合わせたきめ細かな指導がしやすい「特別の教育課程」の利点を生かして、JSLカリキュラムなどを活用して指導を充実させる学校は徐々に増えています。しかし、様々な理由により「特別の教育課程」による指導を実施していないケースも見られます。理由として最も多いのは、「日本語と教科の統合的指導を行う担当教員がいないため」です(図4)。日本語と教科の統合学習を実施できる人員の確保に苦慮している学校現場の様子がうかがえます。
図4 「特別の教育課程」による指導を実施していない場合の理由別学校数(小・中学校)
注1)学校において特別の配慮に基づく指導を受けている児童生徒のうち、「特別の教育課程」による日本語指導を受けていない児童生徒が在籍している小学校・中学校の回答をグラフ化した。
注2)複数回答可。
注3)「その他」記入例:スクールサポーター(市職員)が必要に応じて学級へ入り学習を補助したり、授業後などに保護者の承諾を得て日本語指導や日常生活のカウンセリングを行ったりしているため。入り込み指導のみで、他の生徒と同じ教育課程によるため、など。
※文部科学省「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(令和3年度)」を基にベネッセ教育総合研究所で作成。
 日本語指導の授業時数を十分に確保できないケースも多いようです。文部科学省の「日本語指導が必要な児童生徒を対象とした指導の在り方に関する検討会議」では、日本語(聞く・話す)の習得状況によるレベルに応じた週あたりの日本語の授業時数を提案しています。例えば、レベル3の「日常繰り返される事象については、ほぼ聞いて分かるが、授業での言葉はよく分からない。間違いが多く含まれるが、3語~4語での会話ができる。」レベルの児童生徒に対しては小学校の低学年は3時間程度としていますが、小学校中高学年は8時間程度、中学生は8時間程度と提案しています。しかし、「特別の教育課程」を実施する学校の約7割は、日本語指導の授業時数が「週4時間未満」にとどまっています(図5)。
図5 週あたりの日本語指導の授業時数(小・中学校)
注)「日本語指導における『特別な教育課程』の指導時間別児童生徒数」の小学校、中学校の結果をグラフ化した(児童生徒数の表記は省略)。
※文部科学省「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(令和3年度)」を基にベネッセ教育総合研究所で作成。
 以上のように、近年、外国につながる子どもの日本語や教科の指導・支援の充実に向けて、法整備や支援ツールの開発が行われています。しかし、様々な事情で、施策が十分に進んでいない自治体もあり、支援の状況には大きな差が生じています。
 そうした様々な課題にどう取り組んでいけばよいのか。第2回、第3回では、中学校やNPOで、外国につながる子どもの日本語や教科の指導・支援に携わっている方々にお話をうかがい、指導・支援の実態と課題への対応について理解を深めていきます。