【特集19】小学校英語「教科化」のよりよい実現に向けて ~ベネッセ教育総合研究所「小学生の英語学習に関する調査」から見えてきたこと~
いよいよ2018年度から新学習指導要領の移行措置期間に入りました。先生方は、小学校の外国語科(英語)をどう行うべきかと思案を巡らせていることでしょう。ベネッセ教育総合研究所が、小学5・6年生を対象に「小学生の英語学習に関する調査」を2015年3月に実施したところ、今後の英語教育を考える手がかりとなる成果や課題が見えてきました。
調査結果を踏まえ、これからの5・6年生の外国語科および3・4年生の外国語活動のあるべき姿について、お二人の研究者とともに考えていきます。
調査結果を踏まえ、これからの5・6年生の外国語科および3・4年生の外国語活動のあるべき姿について、お二人の研究者とともに考えていきます。
参加者
酒井英樹 さかい・ひでき
信州大学学術研究院
(教育学系)教授
信州大学学術研究院
(教育学系)教授
長沼君主 ながぬま・なおゆき
東海大学国際教育センター
英語教育部門 教授
東海大学国際教育センター
英語教育部門 教授
加藤由美子 かとう・ゆみこ
ベネッセ教育総合研究所
グローバル教育研究室室長
ベネッセ教育総合研究所
グローバル教育研究室室長
「小学生の英語学習に関する調査」概要
【調査テーマ】
小学生の英語学習の実態と意識、保護者の英語教育に対する期待、英語や外国に対する意識や英語の学習観
【調査方法】郵送法による質問紙調査
【調査対象】全国の小学5年生、6年生とその保護者1,565組
【調査時期】2015年3月
【調査項目】
[子ども調査]
小学校での英語学習(実施状況、内容)、英語や外国に対する意識や興味・関心、英語の必要性と使うイメージ、学校外での英語学習、英語学習観、CAN-DOなど。
[保護者調査]
小学校での英語学習に対する意識、学校外での英語学習、英語全般に対する意識、保護者の英語学習歴など。
詳しくは下記をご覧ください。
・「小学生の英語学習に関する調査」
https://benesse.jp/berd/global/research/detail_4760.html
小学生の英語学習の実態と意識、保護者の英語教育に対する期待、英語や外国に対する意識や英語の学習観
【調査方法】郵送法による質問紙調査
【調査対象】全国の小学5年生、6年生とその保護者1,565組
【調査時期】2015年3月
【調査項目】
[子ども調査]
小学校での英語学習(実施状況、内容)、英語や外国に対する意識や興味・関心、英語の必要性と使うイメージ、学校外での英語学習、英語学習観、CAN-DOなど。
[保護者調査]
小学校での英語学習に対する意識、学校外での英語学習、英語全般に対する意識、保護者の英語学習歴など。
詳しくは下記をご覧ください。
・「小学生の英語学習に関する調査」
https://benesse.jp/berd/global/research/detail_4760.html
現状の外国語活動の成果と課題
加藤:本日はよろしくお願いします。「小学生の英語学習に関する調査」は2015年に実施しましたが、そこに表れた外国語活動の成果や課題には、新しい学習指導要領の下で小学校の外国語教育を充実させていく上で多くの示唆がありました。まず主な調査結果の解説をお願いします。
長沼:外国語活動の実態を見ると、多くの学校で英語のあいさつやゲーム、発音練習など、コミュニケーションの素地を育てる活動が行われていました(図1)。
図1:学校での英語の授業や活動の内容
※「学校では英語の授業や活動はありますか」について、「ある」と回答した人のみ
目的である英語への慣れ親しみは、十分に進んでいるようです。ただ、そこから一歩踏み込んで、「自分の考えや気持ちを英語で話すこと」の活動があったという子どもは、56.2%(「いつも+時々している」の%、以下同)でした。この数値が多いか少ないかの判断は難しいところですが、ゲームや練習の中でも子どもが自分のことを表現するような工夫が、どの学校でも大切になります。
酒井:確かに、授業の活動が本当の意味でのコミュニケーションになっているか、よく考える必要がありそうです。「短い文や質問を英語で言う練習」の77.5%という比較的高い数値と比べると、「自分の考えや気持ちを英語で話すこと」は低い値です。活動が形式的な練習にとどまっている可能性があります。例えば、自分が就きたい職業や好きなものについて、映像などの教材を活用してインプットを行い、伝えたい気持ちや聞きたい気持ちを高めてから話せば、コミュニケーションは深まっていきます。
長沼:そうした活動が充実していけば、中学・高校でも形式的な練習に留まらないコミュニケーションを一層重視する流れになることが期待されます。
加藤:小中高一貫で英語教育を行うためにも、小学校からの継続を意識したいですね。
長沼:そうですね。現状の外国語活動でも、英語によるコミュニケーションを行うことに対する前向きな気持ちは育まれていることが分かっています。例えば、「わからない英語があっても続けて聞こうとする」は75.7%(「とても+まあそう」の%、以下同)、「おたがいの気持ちや考えを伝え合おうとする」は68.3%といずれも高く(図2)、すべては分からず、理解に曖昧なところがあったとしてもコミュニケーションを続けようとする気持ちが育っています。
図2:コミュニケーションに対する関心・意欲・態度
※「とてもそう」+「まあそう」の%
※「学校では英語の授業や活動はありますか」について、「ある」と回答した人のみ
※「学校では英語の授業や活動はありますか」について、「ある」と回答した人のみ
酒井:関心・意欲・態度に関して少し気になったのは、前向きな気持ちがある半面、「英語やジェスチャーなどを使って、言いたいことをなんとか伝えようとする」「積極的に手を挙げようとする」といった目に見える形の関心・意欲・態度がやや低いことです。子どもたちが自分の意欲を目に見える形で積極的に外に表せるような指導の工夫も、課題の一つと言えそうです。
8割以上の子どもが「英語の面白さ」を実感している
長沼:英語学習に対する子どもの意識を見ていくと(図3)、まず、ほとんどの子どもが、「英語がわかったり通じたりするとうれしい」(85.2%、「とても+まああてはまる」の%、以下同)と答えており、英語を使うことを楽しんでいることが分かります。これは、従来の外国語活動の大きな成果と言えるでしょう。また、「友だちと話し合ったり協力することが大切だ」も8割を超えており、共に学ぶ姿勢が育っている点は、次期学習指導要領における対話的学びを考えると、中高にもつなげていきたいよい傾向と言えます。
図3:学校での英語の授業や活動について
※「とてもあてはまる」+「まああてはまる」の%
※「学校では英語の授業や活動はありますか」について、「ある」と回答した人のみ
※「学校では英語の授業や活動はありますか」について、「ある」と回答した人のみ
加藤:分かったり通じたりするとうれしいという気持ちは、ことばを学ぶときの喜びや醍醐味ですよね。そうした子どもの思いを大切にして、「もっとこんなことをやりたい」という気持ちにつなげていけるとよいと思います。
長沼:そういう意味では、「教室の外で英語を使ってみたい」という子どもが61.5%に上ることもよい傾向です。別の調査項目との関連を見ると、教室の外で英語を使いたいと思っている子どもの方が、将来、自分が英語を使っているイメージを持っています(図省略)。また、教室の外で英語を使いたいと思っている子どもほど、「外国人と友だちになりたい」「英語を使って仕事をしたい」といった思いも強いようです(図省略)。こうした気持ちは、英語学習に大きなプラスになります。一方で「英語が話せたらかっこいい」「海外旅行に行きたい」といった気持ちは、「教室の外で英語を使ってみたい」と思っているかどうかでそれほどの差はないので、こうした動機づけから広げ、例えば、「総合的な学習の時間」やキャリア教育などを通して自分の将来や職業などのイメージと、英語を結び付ける工夫も小学校教育では大切になるでしょう。
加藤:学校で英語教育が始まる小学生の時期に、言葉として英語を使うことが楽しいと感じられたり、英語が人生の可能性を広げられると感じられることなど、英語学習の価値付けをする大切さが改めて明らかになった調査結果だと思います。
酒井:調査結果で驚いたのは、「他の教科と比べて英語の授業ではほめられる」が34.6%と、かなり低かったことです。先生方と話していると、外国語活動ではむしろ子どもをほめる機会が増えたと聞きますが、子どもはそう受け取っていないようです。「Good!」などの言葉が形式的になっているのかもしれません。先生自身がほめようという気持ちをしっかりと持っているか、それが子どもの心に届いているかをもっと意識する必要があるでしょう。
「言語活動」を中心に学力の3つの柱の育成を目指す
加藤:続いて、新学習指導要領の内容を確認したいと思います。
酒井:改訂の大きなポイントは、小学校中学年で「外国語を用いてコミュニケーションを図る素地となる能力を育成した上で、高学年では言語活動を通してコミュニケーションを図る基礎となる資質・能力を育成する」と記載されたことです。これまでは、英語に慣れ親しみ、コミュニケーションを積極的に図る態度を育てることに重点を置いてきました。子どもが英語嫌いとならないよう、楽しく学ぶことが優先されてきたわけです。もちろん、今後も英語を学ぶ楽しさを伝えることは大切ですが、それだけではなく、知識・技能、思考力・判断力・表現力、そして学びに向かう力・人間性の3つの柱を育てることが求められます。
そのために重要なのが、言語活動の充実です。言語活動とは、語句や表現を理解したり練習したりする活動ではなく、自分の考えや気持ち、情報などを伝え合う活動です。まさに、子どもたちが「伝えたい」「知りたい」と思い、コミュニケーションをする活動です。これまでは、反復学習が中心だった場合もあったと思いますが、新学習指導要領の下では言語活動が主となり、必要に応じて練習をするイメージになります。
長沼:思考力・判断力・表現力の育成に向けては、自分の考えや思いを表現するアウトプット活動を単に行うだけでなく、例えば、小学校の新教材の中の「Let's Watch and Think」にもあるように、英語音声のついた映像などの多様なインプットから気づきを与え、子どもの考え方や価値観、判断に揺さぶりをかけることで、アウトプットの質を深める活動の工夫も考えられでしょう。また、人間性の育成については、英語を用いた様々な活動を通して、自己発見をしたり、友だちの意外な側面に気づいたりすることを通して行うことが考えられます。
加藤:小学校高学年に「読む」「書く」が入ることはどう捉えるとよいでしょうか。
酒井:中学年で音声による学習を十分に経験した上で、5年生から段階的に「読む」「書く」を取り入れていくイメージです。「読む」「書く」の指導で意識したいのは、あくまでもコミュニケーションの一環だということです。自分の考えを伝えるために書き、相手の考えを知るために読むのであり、単に文字や単語の綴りを練習するのではなく、「聞く」「話す」と同様、相手と伝え合いたいという気持ちを持たせて活動を展開しましょう。先日、ある小学校で模擬授業を行った際に、「What do you want to be?」と投げかけ、一人ひとりに考えを書いてもらいました。子どもたちは「Police officer」「Doctor」などと書き写していましたが、一人の子が何も書いていないので「どうしたの?」と聞くと、「なりたい職業が決まっていないから」と返ってきました。確かに、書かないことも1つのメッセージです。そうした思いをくみ取って指導する大切さを改めて感じました。
小学校では文法を説明するのではなく、モデルを示してたくさん使う
加藤:小学校高学年の教科化により、文法の扱いも議論されてきました。
酒井:最初から文法として教えるのではなく、まとまりのある表現として使えるようにすることを意識してください。例えば、「Nice to meet you.」というフレーズには不定詞が用いられていますが、不定詞について詳しく説明する必要はありません。同様に、過去形や三人称などについても、まずは自然に使えるようになることが大切です。
長沼:文法を説明してしまわないよう、気を付ける必要があります。例えば、「enjoy~ing」といった表現にしても、ある意味、それ自体を語彙の1つとして、慣れて使えるようにすることを目指します。文法の系統的な学びを行うのではなく、モデルを提示する中で表現の幅を広げるための一つの手段として気づかせていくとよいでしょう。
加藤:評価のあり方にも、先生方からは高い関心が寄せられています。
長沼:現段階ではまだ、そこまで評価に関する議論は深まっていません。今後の課題です。教科化において、教員が子どものテストやパフォーマンスをもとに採点し、子どもはその成績を手にして初めて「ああ、自分はこうだったんだ」と知るような、教員が評価を与える形だけではなく、子どもの側に寄った評価をすることが望ましいと考えています。Can-Doリストの活用にあたっては、教員が一方的に到達目標を設定するのではなく、何ができるようになりたいか、次は何を頑張りたいかといった子どもの視点を反映させたりすることが考えられます。パフォーマンス評価でも子どもと評価の観点を共有することは大切です。そうすることで、一人ひとりが評価を肯定的に受け止め、自分のことをより理解し、今後の見通しを立て、「できる」という感覚を育んでいくようになるでしょう。
経験する活動内容によって、英語に対する意欲や意識は変化する
加藤:小学校英語の教科化と早期化のよりよい実現に向けた具体的な方向性について提案をいただきたいと思います。先ほどご紹介した「小学生の英語学習に関する調査」の二次分析の結果が参考になると思いますので、解説をお願いいたします。
長沼:二次分析では、授業で経験する活動のタイプが、英語学習に対する意識とどう関連しているかを調べました。調査結果を分析するうちに、外国語活動は大きく次の3グループに分けられました。現状で最も多いのは、あいさつやゲーム、練習、さらに自分の考えや気持ちを話す活動などで構成された、いわば一般的な外国語活動を行うグループです(音声活動グループ)。次に多いのは、自分を表現する活動までには踏み込まず、ゲームや練習にとどまるグループ(ゲーム・練習グループ)。続いて、音声活動を中心にしつつ、今後の教科化で求められるであろう、自分の考えや気持ちを書いたり、文や文章を読んだり、少し高度な活動を取り入れるグループ(4技能活動グループ)。
これら3グループの子どもが、それぞれどのような意欲(動機づけ)を持って英語学習に臨んでいるかを調べました。その際、動機づけも3種類に分類しました。1つは「世界で活躍できる人になりたい」「英語で外国人をおもてなししたい」「外国の高校や大学に留学したい」など、英語を使う世界の一員となり、英語を使って自分を成長させたり、できることを増やしたりしたいという動機づけ(統合的志向)です。次に、テストでよい点数を取ったり、大学入試や就職に役立てたり、英語を道具として捉える動機づけ(道具的志向)。最後に、英語の音やリズムを面白いと感じたり、文のつくりやしくみが面白いと思ったり、言語そのものへの興味を持ち、中学校での学びを楽しみに期待している動機づけ(言語興味)です。
3つの活動グループ別に子どもがそれぞれの動機づけでどのような結果を見せたかというと、まず、すべての動機づけの領域で最も高い数値を示したのが、「4技能活動グループ」でした。一方、「音声活動グループ」はすべての領域で中間的な数値を示し、「ゲーム・練習グループ」はいずれも低い数値となりました。「音声活動グループ」と「ゲーム・練習グループ」の結果の差を生み出しているのは、自分の考えや気持ちを言葉に乗せて話す活動の有無だと思われます。また、「4技能活動グループ」は道具的志向が相対的に低く、逆に「ゲーム・練習グループ」では高くなっています。動機づけの点からは、英語を他の目標を実現する手段としての道具ととらえるだけではなく、現実に言葉を用いて世界と関わることに関心を持ったり、言語そのものへの興味を深めることが望ましいことがわかります。
加藤:教科化で目指す4技能のバランスの取れた活動を通し、英語を学ぶ意味の捉え方がとても前向きになることが分かります。
バランスよい言語活動は知識・技能だけではなく、「できる」という自信を育む
長沼:次に、3つのグループが自分の英語力をどのように自己評価しているか比較し、英語力についても3種類に分類しました。1つ目の英語力は、自分の考えや気持ちを表す短い文を書いたり、少し長い文章やストーリーを読んだりする「表現・理解」、2つ目は英語で簡単なあいさつをしたり、質問の受け答えをしたりする「やり取り」、3つ目は、文字を書いたり読んだりする「文字」としました。
まず「4技能型活動グループ」は、いずれの英語力自己評価でも最も高い結果でしたが、次に高かった「音声活動グループ」と比べると、特に「表現・理解」の差が顕著に表れました。活動経験を積むことで実際に英語を使うことに対して「できる」という自信が高まっている様子がうかがえます。対照的に、「ゲーム・練習グループ」はどの自己評価も最も低い数値でした。このグループも、あいさつや簡単な質問への受け答えなどの練習をしているはずですが、「できる」という自信にはまだつながっていないと考えられることは、注意したいポイントです。こうした結果から、言語活動を通して、知識・技能面での慣れ親しみが高まりつつ、「自分はできそうだ」という肯定感も育まれていくものと考えられます。
酒井:これらは、今後の英語教育のあり方を考える上でいいデータだと捉えています。これまで外国語活動は5・6年生で各年間35単位時間でしたが、新学習指導要領では各70単位時間に増えます。さらに、3・4年生が新規に各35単位時間増えることも含めて、合計210単位時間となります。時間数が増えた分、これまでやってきたゲームや練習を単に増やすだけでは、学習意欲や英語力の自己評価の向上にはつながらないでしょう。また、言語活動を取り入れるにしても、音声面だけの活動では、学習意欲などの面で効果が限定される可能性があることが分かります。やはり、4技能のバランスの取れた言語活動を行う工夫が求められるでしょう。
加藤:授業の時間数が増えるという「量」と、その中でしっかりと計画的に授業を構成する言語活動の「質」の両面が非常に大事なポイントになるということですね。
酒井:3・4年生で音声活動を十分に経験することで、5・6年生から4技能型活動が可能になりますから、理想の活動を行う条件はそろってきたと言えます。
長沼:中学・高校にも見られる傾向ですが、「本校の生徒にはそんな高度な活動はできない」と、子どもを過小評価し、コミュニケーション活動を積極的に取り入れないケースも懸念されます。教員の不安から、まず基礎を固めなくてはと、結局、ワークシートなどをたくさん与える反復練習だけで終わらないようにしなければなりません。
加藤:『We Can!』という教材が文部科学省から提示され、ワークシートやデジタル教材も潤沢に用意されていますが、そうした教材を活用しつつも、子どもに育てたい力をしっかり見据えてバランスのよい活動を構成する必要があると感じました。
長沼:授業は、予想外の展開があるところに面白さがあります。そういう状況を子どもたちと一緒に楽しみ、共に学んでいくスタンスを持つといいと思います。
加藤:そういう意味では、移行措置の2年間は、新学習指導要領のねらいを考えながら試行錯誤するよい期間になります。
長沼:教科書をすべて終わらせようとする傾向は中学・高校でもありますが、まず全体を見通し、大事にするところに十分に時間をかけ、子どもの様子を見取って調整するといった、育てたいパフォーマンスをイメージした逆向き設計の姿勢を大切にしてほしいと思います。
本来の教育の目的に立ち戻り、英語教育を捉え直してほしい
加藤:最後に、小学校英語において新たな教育活動にチャレンジされる先生方にメッセージをお願いします。
長沼:小学校で外国語活動が始まった頃から現場での指導を見てきました。最初は不安そうな表情をしていた先生が、すぐに適応し、自然に授業をするようになった姿をいくつも見てきました。教科化を控えて不安を感じている先生が多いかと思いますが、英語の発音が流暢でなくても、ICT機器などを活用しながら授業を進められるようになると思いますし、子どもとともに学び、成長するといった学びのあり方は小学校の先生が得意としているところかと思います。先生方が協力して、一緒に授業をつくり上げていけば、先生同士の同僚性を育む機会にもなります。今後、移行措置期間に様々な形で事例が紹介され、具体的な活動が見えてくると思いますし、我々も一緒に英語教育をつくっていきたいと思います。
酒井:英語が得意な先生でも、子どものメッセージをくみ取れなければ、外国語活動や外国語科のねらいには到達できません。つまり、子どもの気持ちを理解することが言語活動の要となりますが、そこは先生方が小学校教育の中で日常的に大切にされている部分だと思います。自信を持って授業に臨んでください。「どうしても教え方が分からない」と思ったら、ご自身の中学・高校時代の英語の授業ではなく、小学1年生のときの国語の授業や幼稚園での学びを思い出し、「どのように言葉を学んできたのか」と立ち戻るとよいでしょう。小学校で国語を教えられている先生方は、そういう点でも英語教育にこれまでの知見や経験を生かせるに違いありません。
加藤:新学習指導要領の3つの柱で考えると、小学校の先生は英語教育に関する知識・技能の部分に不足や不安を感じておられるかもしれません。しかし、他教科においては、思考力・判断力・表現力を育む授業を様々に創意工夫され、学びに向かう態度や人間性を高める指導をされています。本来の教育において、子どもたちの力を伸ばしていくという点に今一度自信を持ち、小学校英語教育に取り組んでくださるとよいのではないでしょうか。私たちベネッセ教育総合研究所は、長年調査研究を続け、専門家の先生方の力もお借りして、数字の奥にあるものにメッセージを乗せて現場の先生方や保護者の皆様にお伝えする役割があると、改めて認識させていただきました。引き続き、私たちの立場でそうした活動を続けていきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。
参考資料:
-
日本児童英語教育学会(JASTEC)第36回秋季研究大会(2016年)
「『小学生の英語学習に関する調査』結果から見る外国語活動の教科化に向けた課題」
http://www.arcle.jp/research/edu_english/data/pdf/pdf1_20161023.pdf