第25回大学教育研究フォーラム 参加者企画セッション 開催報告 2年半の追跡調査に基づくアサーティブプログラム・アサーティブ入試の現状と課題 ~多面的な評価に基づく選抜の効果とは~ [5/7]
■報告4 ポートフォリオ、学生カルテのシステム構築に向けて
追手門学院大学 特任副学長 福島 一政
私からは、これまでお話のあったことを踏まえて、学生からみればポートフォリオ、我々からみれば学生カルテ、というシステムを作ろうということを進めてきましたので、そのことについてお話させていただきます。
これは追大e-Navi(略称「追ナビ」)というものなのですが、なぜこのようなものが必要だと考えたのか、ここまでどのように進んできたか、実際の画面イメージをご覧いただきながらお話する予定です。このようなものは、多くの大学で実施されていると思いますが、必ずしもうまくいっていないとも聞いていますので、そういうことを踏まえて、今後どのようなことを進めていくかについてご説明させていただきます。
追ナビの目的の一つとして、学生一人ひとりが自身の成長や学修成果の可視化ができて、自らの成長の振り返りと、一層の成長に向けての課題を主体的に考える手段として活用できることを目指しています。もう一つは、教職員が、学生一人ひとりの成長を見守って、成長が滞っている学生に対して主体性を引き出しつつ、適切なアドバイスができる手段として活用する、ということを考えています。
なぜこういうものが必要だと考えたか、についてですが、先ほどからの話にもあったように、学ぶ意欲があっても、関心のある領域を学ぶ機会がない、学ぶ方法が分からないという学生が結構いるということがデータ上からもはっきりしました。また、学習習慣も十分でないということもあり、これをなんとかしたいというのがありました。また、最近、学修成果の可視化ということが言われますが、「成果の可視化」は結果情報です。フローがよく分かりません。成長の可視化も一緒にやりたいと考えました。
また、教学マネジメントの基本は、CPやDPに基づくカリキュラムの体系化とそのマネジメントにあると思いますが、なによりも学生一人ひとり、マスの学生だけではなく一人ひとりの成長が担保されなければ、学習者中心の学びと教育は実現できないと考えています。
さらに、先ほど原田副学長からの話にもあったように、本学の教育理念である「独立自彊・社会有為」、とりわけ「独立自彊」の部分、自分の考えをしっかり持って、個性を大切にして、自らの成長に向かって日々着実に努力することを文字通り実現するための手段として、我々が「何とかしろ」ということではなく、自分で気づいて成長につなげていく手段にしたかったということでもあります。
いま我々がやっている研究との関係についてですが、この共同研究は「アサーティブラーナーの学びと成長のプロセスを可視化する実証研究」をテーマとしています。そして、研究目的は、アサーティブプログラム、アサーティブ入試の施策の成果を検証するということと、入学前後の学生の学びと成長を追跡する総合的なアセスメント手法の活用、そしてこれらに基づいた成長要因のモデル開発、と位置付けられています。これらの課題設定の詳細は、報告書のこちらに記載してありますので、ご覧ください。
これまで、どこまでやってきたかについてですが、昨年(2018年)の春学期に、学生カルテのシステムを教職員向けにオープンしました。そして、昨年の9月、秋学期のところでポートフォリオとして学生向けにオープンしました。この春学期にはいよいよ、学生の成長の可視化と位置付けてスタートしようとしています。
掲載情報は、出身校、入試種別、アカデミックアドバイザー(専任の担当教員)、学籍情報、GPA、学内の相対的位置(上位、中位、下位のどの位置にいるか)、領域別の修得単位数、履修科目名と成績、時間割、科目別欠席日数、取得しようとしている資格、課外活動などがあります。そして、この春から搭載する予定の機能として、一つのページ例ですが、SPI試験の結果を学年ごとにグラフ化して変化が分かる、社会人に必要な水準に対してどの程度の水準なのかが分かるものになっています。また、ベネッセアイキャリアのアセスメント「GPS-Academic」を、今は1,2年生、来年(2020年)は3年生まで、次の年は全学年に受けてもらって、思考力、姿勢態度、経験などを経年的に評価し、成長しているかどうかを見ることができるようにする予定です。SPIのグラフもですが、現在のこのフォーマットは開発中のもので、多様な能力の全体が分からないので、能力間のバランス、成長・変化を一目で見て分かるようにしたいと考えています
学生たちが、今の取得単位数でいくと4年間で卒業できるのか、GPA1.5とはどのくらいの位置なのか、成績70点と言われても、「イメージがつかないけど、何とかなるかなあ」ということでは困るので、「もうちょっと頑張ろうかな」と思ってもらえる、単位が足りない、教務課や先生に相談してみよう、というふうになってもらえるといいなと思っています。
また、部活などの様々な取り組みについて記入することになっていますので、3年生、4年生になって就職活動をするときに、「そういえばこんなこともやっていたな」と思い出してエントリーシートに書いてもらえるようになるといった使い方かたも期待しています。これまでやってきたことの振り返りと、自分の力の入れ所が分かってくるような仕組みにしたいと考えています。
こういった取り組みを先行的に行っている大学にお伺いをしたところ、1つは短い周期、例えば1週間に1回何か書かなくてはいけないと義務付けられると、学生が飽きてくるし、教員も負担が増加する。その飽きと疲れから、システムにログインもしなくなっていく、というシステムの過疎化が起こるということでした。せっかくのシステムが、大金をかけたのに無駄になってしまうことのないように、失敗事例にも学びながら、学生の成長を可視化するツールとして開発したいと思っています。
今後のことですが、専任の教員による年2回程度の面談が実施できるかどうかということです。データだけで判断するのではなく、データを活用して学生と直接コミュニケーションを図ることが必要だと考えているからです。せっかくいいデータがあっても、ちゃんと活用しなければ意味がないわけです。しかし、かといって、学生たちは自発的に成長する、育つものがあるわけで、それに対して必要以上に介入するのは、却って成長を阻害することになります。面談で的確なアドバイスができるようにするには、教職員の相当な能力開発や訓練が必要になりますので、FD/SDの取り組みが重要になると思います。そのためには、かなりの時間がかかると思います。十分に活用できるには、私の予測では、10年くらいかかるだろうと思います。それから、追ナビを活用して、学生が成長実感を得られているかどうかの評価、検証の仕組みも必要でしょう。
そして最後に、追ナビの取扱い基準の策定と厳格な適用という、ここでは慎重な言い回しをしていますが、「成長を支援する」という取り組みのはずが、「学生の管理」に使ってしまう可能性がないとはいえないので、その点を我々が我慢できるかどうかが問われることになると思います。