2019/09/05

【授業づくり】「メタ認知力」を教科学習で働かせる授業づくり~小学校国語~

学習者中心の授業づくりを目指して———
たゆまぬ挑戦をしてきた実践者の経験から、
これからの授業づくりについて議論を深めます。
2019.09.05 update
町田市立鶴川第二小学校では、国語と算数、体育の教科学習において「メタ認知力」を働かせながら、必要な資質・能力を育成するための研究に取り組んでいる。具体的にはどのような授業が行われているのか、同校の6年生国語の授業の様子を紹介する。また、授業のねらいなどについて、授業を担当した市川裕佳子先生に話を聞いた。

(1)6年生国語の授業概要

授業名:「筆者の主張をとらえ、自分の考えを伝えよう」
教材:「笑うから楽しい」(中村真)、「時計の時間と心の時間」(一川誠)
授業目標:事例と主張との関係を、叙述を基に押さえ、文章全体の構成をとらえて要旨を把握しながら読み、自分の経験と結び付けたり、自分の考えと比べたりしながら、筆者の主張に対する自分の考えを文章にまとめることができる。
授業時数:全9時間中の8時間目

(2)授業の様子

 「今日の授業は、何をやるんだっけ?」
 「となりの人に言ってごらん」
 市川裕佳子先生の国語の授業は、子どもたちへの問いかけから始まった。子どもたちは前回のノートや学習計画表を見ながら「『筆者の主張をとらえ、自分の考えを文章にまとめる』が今日の授業でやること」と答えた。前時までに筆者の主張をどのようにまとめたいか目標を立てており、本時は実際に考えをまとめる時間だ。
 市川先生は、本時の目標を確認させた後、さらに子どもたちに考えを深めさせる。「これから筆者の主張について文章を書きますが、どこが難しそうですか」と問いかけ、自分が何につまずいているのか、何が難しいと感じているのかを確認させる時間を設けた。そして、そのために今まで学んだことの何を使えばよさそうかを確かめさせた。
 その後、子どもたちは自分の考えをまとめたのだが、その際も市川先生は「文章をまとめるのにどのくらい時間がほしいですか?」と質問した。子どもたちからは、「15分」「20分」などと声が挙がり、20分で考えをまとめていくことに決まった。今回の分量は原稿用紙1枚だが、書く内容の見通しがついていれば小学6年生でも15~20分で書くことができるという。
 早く書けた子どもには、友達の文章を見せ合い、自身の文章と比較することで、自分の考えを見直したり、修正をしたりするようにうながした。文章を書くのに時間がかかる子もいるが、自分で目標を立てているので、焦る様子は見られなかった。最後の振り返りでは、市川先生が「自分が設定したゴールに近づけたかな?」と問いかけた。自分の立てた目標と実際に書いた文章とを比較させて、授業は終了した。

(3)授業づくりのねらい

 市川先生は、「メタ認知力」を働かせながら、必要な資質・能力を育成する授業づくりを模索している。授業中に、何を学んできたのかを振り返り、できるようになったことや課題を自覚(モニタリング)させ、何をどのような目標にして学ぶのかを考えさせる(プランニング)といった活動を授業に積極的に取り入れている。今年度は、国語科と算数科、体育科の3教科を中心に研究を進めている。今回の授業のねらいを市川先生は、次のように話す。
 「国語は、授業の中でどのような能力を伸ばしたいのかぼんやりしがちですが、今回は『考えを形成する能力を伸ばす』ことに焦点化して単元を構成しました。このまま、子どもの『メタ認知力』を働かせ、子ども自身にどんな力をつけたいのかという目標を立てさせ、どんな学習をしたら良いか見通しを持たせたいと考えました」
 市川先生が授業で子どもたちに「メタ認知力」を働かせるため、工夫した点は以下の4つだ。
(1)比較することで、自分に必要な力に気付かせる
 子どもに授業の目標を立てさせる際、市川先生は前単元の「笑うから楽しい」で、自分の考えを書いた文章と、友達の文章やモデルの文章を比較させる場面を設けた。
 「自分の力を評価するのは、大人でも難しいことです。そこで、子どもたちには自分が書いた文章とモデルの文章を『比較』させ、今の自分の力をモニタリングし、次はどのように自分の考えをもって書けるようになりたいのかをプランニングさせようと考えました」
 自分の考えを形成し文章にまとめる場面では、比較する場は一度だけではない。自分で書いた文章と友達が書いた文章を比べさせたり、単元の終盤では、自分が立てた目標と自分が書いた文章を比べさせたりする場を設け、子どもが目標を意識してモニタリングをし、自分の足りない力に気付かせるようにしていた。
(2)子ども自身に解決の道筋を立たせる
 主体的な学びを大切にしている市川先生は、問題解決の道筋も子どもに立てさせている。
 今回の単元の1時間目に、どのように筆者の主張をまとめたら良いか、今までの学習を生かして、子どもたちに計画を立てさせる時間を設けた。子どもたちからは主張をまとめる方法として、「筆者の考えを正しくとらえる」「考えを深めるため友達と相談する」「自分の経験と結び付けて読む」などの声が挙がった。それらを短冊型のマグネットに記入し、どの順番で行うと良いか話し合わせ、学習計画を決めた。この作業は一人で行うのは難しいと考え、クラス全体で取り組むことにしているという。
 「目標を達成するための道筋を考える力は、この先社会に出てからも必要な力です。私がすべて指示してしまうのではなく、子どもたちにどうしたいのか常に投げかけるようにしています。計画通りに行くことは少なく、『4と5の手順は分けていたけど、一緒にできたよね』といったこともよくあります。ただ、それで良いと思っています。子どもたちが自分で決めたことに責任を持たせて取り組ませ、失敗から気づかせることが大事です。次の計画づくりにその気付きが生かされるはずです」(市川先生)
(3)「思考のすべ」を使って、考えをまとめさせる
 筆者の主張をまとめる際は、子どもたちは同校が取り入れている「思考のすべ」を活用して文章を作成していた。「思考のすべ」とは、「比較」(筆者の考えと自分の考えを比較し、違いや共通点を明らかにする)や「関連づけ」(自分の経験や知識と関連づけて理由づけをする)などの視点を活用し、思考を深めさせる手法だ。同校では1年生から「21世紀スキル科」という独自の授業を設け、この手法とメタ認知を使って、目標を実現していく学習をしている(詳しくは前回の記事参照)。
 「漠然と子どもたちに考えさせるのではなく、『比較』や『関連づけ』を意識させることで自分の考えを深める場面に焦点をあてることができ、授業設計がしやすくなりました。子どもたちも何を考えれば良いのか明確になっているため、自分の意見を持ったり、課題を発見できたりするようになりました。現在は、本校の研究担当として、『思考のすべ』を取り入れた授業をこれからも学校全体で取り組んでいきたいと考えています」(市川先生)
(4)自分が学んできたこと全体を見渡す力を身につけさせる
 今回は「時計の時間と心の時間」を読んで「筆者の主張をとらえ、自分の考えをまとめて、相手に伝える」授業であったが、市川先生は、その過程で汎用的な力を獲得することを目標にしているという。
 「子どもたちはこれからさまざまな文章に出合っていきますし、他教科でも考えを形成する力として生かしてほしいと願っています。そこで、より汎用的な力になるよう、国語では単元の終わりに単元を通して付けた力や、文章を読んだり書いたりするときのコツを振り返ってノートに書かせています」(市川先生)
 ノートのタイトルは、子どもたちが思い思いにつけている。例えば、「国語のモニタリングノート」「ことばのノート」「自分の成長ノート」といった具合だ。市川先生は子どもの書いた振り返りに目を通し、メタ認知をして振り返りができている箇所をチェックし、子どもたちに返却する。ただ、一人で振り返りを記入できない子もいるため、そうした子どもには個別に対応を行っているという。
 「書くことが苦手な子どもには、私が個別に単元の振り返りをさせる質問をし、それに答えてもらう形式で行います。質問形式にすると、自分は何がわかっていて、何がわかっていないか話せる子どもも多いため、このような形式をとっています。単元ごとに振り返りをさせることで、『こんな方法を使うとよくできた』という自分なりの学びの手法を蓄積させていき、その後の子どもたちの学習につながると考えています。いずれは、教員が指示をしなくても、子ども自身が『前回、このように読んできたので、今回もその方法を使いたい』『この前こんなことができたから、今回もその力を使ってみたい』と思ってくれることが理想です」(市川先生)

(4)成果と課題

 「メタ認知力」を働かせる授業に取り組むようになり、市川先生は、自分の目標に向かって意欲的に取り組む子どもが増えたと感じている。
 「書くことが苦手な子どもも今回の授業では良い取り組みができていました。教員から目標を与えられていたらもしかすると『やらされている』という気持ちで終わっていたかもしれませんが、自分で目標を設定したことで、『自分なりにここまでがんばりたい』『こんな自分になりたい』という気持ちが強く出たのだと考えられます。そうした意欲を引き出すことができたのも『メタ認知』したからだと思います」(市川先生)
 また、教科などで育成した「メタ認知力」は、学校行事などでも生かされているという。
 「本校で毎年実施している『鶴二祭』というお祭りでは、子どもたちに企画・運営を任せています。何をいつまでに、どのようにすれば良いのか、見通しを持って、段取りを立てられるようになり、成長を感じます」
 今後の課題を市川先生は次のように話す。
 「国語と算数、体育の3教科で研究に取り組むことにより、教科ごとに『メタ認知力』の働かせかたに違いはあるのか、教科ごとに特性があるのかといったことを研究しています。また、各教科6年生と2年生の教員がペアになって研究しているので、学年ごとの違いや継続性も研究できればと考えています」

プロフィール

市川 裕佳子 いちかわ ゆかこ

 町田市立鶴川第二小学校指導教諭・国語教育