2022/02/25
第5回 学校の学びが変わり、家庭の学びも変わる中で、保護者ができることは?(邵勤風 ベネッセ教育総合研究所)
新学習指導要領の実施や急速なICTの普及などによって、学校の指導や子どもの学びが大きく変わり、それに伴って家庭の学びも変わりつつあります。その変化のスピードは、地域や学校、教員によって異なるのが実態です。保護者世代が知る授業や宿題と、今の学校の授業や宿題との違いを、データを見ながら確認し、保護者に求められる子どもへのかかわり方を考えます。
ベネッセ教育総合研究所 主任研究員 邵 勤風
学校の学びは、思考力・判断力・表現力等重視へ
ベネッセ教育総合研究所は、 2021年8〜9月、全国の公立小・中学校における学習指導の実態と教員の意識を把握することを目的に調査を行いました。そこで得られたデータから、学校の学びが明らかに変化していることがわかりました。
図1は、小学校教員に、どのような授業を行っているかを尋ねた結果です。2020年と比べ、「自分で調べたり考えたりしたことを発表する」「体験的な学びを取り入れる」「グループで話し合う」といった授業が大きく増え、その一方で「教師主導の講義」が減っています。そうした結果から、新学習指導要領の理念に基づく授業方法が浸透してきたことがわかります。
図1 授業方法(小学校、2020年と2021年との比較)
授業方法が変われば、学習評価のしかたも変わってきます。図2は、中学校の定期試験の出題について尋ねた結果です。2020年と比較して、2021年は、「記述式の問題を出す」「入試問題に対応した問題を出す」「まったくオリジナルな問題を作成する」が増えています。
小・中学校でのそうした変化は、小学校では2020年度から、中学校では2021年度から、新学習指導要領に基づき、学校が子どもの「思考力・判断力・表現力等の育成」を重視し、「主体的・対話的で深い学び」を実施しているからだと考えられます。
小・中学校でのそうした変化は、小学校では2020年度から、中学校では2021年度から、新学習指導要領に基づき、学校が子どもの「思考力・判断力・表現力等の育成」を重視し、「主体的・対話的で深い学び」を実施しているからだと考えられます。
図2 定期考査の出題と内容(中学校、2020年と2021年との比較)
ICT活用によって、学びの変化が促進
学校の授業の変化を促進しているのは、教育におけるICT活用の広まりだと考えられます。文部科学省は、2019年、全国の児童・生徒が、パソコンやタブレットなどの端末を1人1台活用して、一人ひとりに合った「個別最適な学び」と、多様な他者との「協働的な学び」を実現する「GIGAスクール構想」を打ち出しました。当初は5年ほどかけて、端末や高速大容量の通信ネットワークを各学校に整備する計画でしたが、コロナ禍の影響で計画は大きく前倒しされ、2021年度中に、公立小・中学校においては1人1台端末がおおむね実現することとなります。
小・中学校の教員の回答を見ると、授業でインターネットに接続された端末を活用して、教員は主に情報を検索したり、電子黒板などで教材の拡大提示を行ったりしています。子どもは、情報収集のほか、グループでの話し合いにおいて複数の意見・考えの整理などに活用しています。教員も子どももまだ十分ではありませんが、ICTを活用することで、子どもの調べ学習はより充実し、調べたことをまとめることも容易にできるようになってきています。また、端末を介して、効率的・効果的にほかの子どもと意見や考えを共有し、自分の考えをさらに深めることもできるようになってきています。
1人1台端末は、思考力・判断力・表現力等や協働的な力の育成を重視する新学習指導要領の実現において、とても大切なツールとなっています。そして、子どもが1人1台の端末を使うことで、地域や学校の教育環境、家庭の経済力などに左右されず、どの子も同じようによりよく学ぶことができることを期待されている面もあると思います。
1人1台端末は、思考力・判断力・表現力等や協働的な力の育成を重視する新学習指導要領の実現において、とても大切なツールとなっています。そして、子どもが1人1台の端末を使うことで、地域や学校の教育環境、家庭の経済力などに左右されず、どの子も同じようによりよく学ぶことができることを期待されている面もあると思います。
地域差や学校差が見られる、ICT機器の活用状況
現状では、ICT機器を活用した学習指導は、教員によって差が見られます。図3は、中学校教員に、授業で教員自身がICT機器を使う頻度と内容を尋ねた結果です。3割の教員が毎回の授業でICT機器を使うと回答したのに対し、2割弱の教員が1割以下の授業でしかICT機器を活用していないと答えました。授業での教員のICT機器の活用に差が生じています。また、人口規模が大きい自治体ほど、教員のICT機器の活用率が高い傾向が見られました。一方、授業における生徒のICT機器の活用頻度を尋ねたところ、「毎回の授業」「7〜8割程度の授業」と答えた教員が2割弱であるのに対し、1割以下の授業と答えた教員は4割弱に上っています。教員に比べ、生徒のICT機器の活用は少ないといえるでしょう。
今回の調査からはICT活用について、教員と子どもとの相関があることもわかりました。子どものICT活用を高め、一人ひとりの子どもの学びを保障するために、教員のICT活用の頻度を高めること、さらに教員間や地域間の活用の差を縮めることが必要だと考えます。
今回の調査からはICT活用について、教員と子どもとの相関があることもわかりました。子どものICT活用を高め、一人ひとりの子どもの学びを保障するために、教員のICT活用の頻度を高めること、さらに教員間や地域間の活用の差を縮めることが必要だと考えます。
図3 授業でのICT機器の活用頻度(中学校)
中学校では、端末を家庭に持ち帰って、家庭学習に活用しているのは2割(「ほぼ毎日」~「月に2~3回」の合計)で、「まったく持ち帰らせていない」割合は6割強に上ります。また、「まったく持ち帰らせていない」のは、人口規模が小さい自治体ほど多い状況でした(図4)。同様の傾向は、小学校でも見られました。
図4 ICT端末持ち帰り頻度(中学校)(中学校)
そのように、学校の授業や家庭学習での端末の活用においては、地域や教員によって大きな差があることが明らかになりました。こうした現状を知った上で、保護者の方々には、お子さまの学校では授業や家庭学習にどの程度ICTを活用しているのかに関心を持っていただきたいと思います。
ICTは子どものことを知るきっかけに
学校では、どのようにICTを活用しているのかにも注目することが大切です。例えば、宿題は、保護者世代では、クラス全員が同じプリントの問題に取り組むことが一般的だったかもしれません。ところが、今は、端末を活用することで、家庭で取り組める宿題は、AIが個々の学力に合わせて出題するドリル学習から、インターネットでの調べ学習、さらにインターネットを通じて子ども同士の話し合いまで、多様な学びが可能となります。
そこで、子どもが端末を学校から持ち帰ってどんな宿題をしているのか、ぜひご覧になり、またそれを話題にして聞いてみてください。端末の持ち帰りを行っていない場合も、授業で端末をどのように使っているのか、どんな授業を楽しいと思うのかを聞いてみるとよいでしょう。そうすることで、学校での学習の状況や、子どもがどんなことに興味を持っているのかを知ることができます。
端末を使ってどんどんドリル問題を解くのが好きな子どももいれば、調べたことをプレゼンテーションソフトでまとめたり、画像や動画にして発表したりするのが得意な子どももいます。また、チャット機能などを使った話し合いをリードするのが上手な子どももいるはずです。保護者の方も、これまでペーパーテストの点数や通知表の成績で知ることが多かった子どもの学びの状況が、ICTを通して、多様な形で把握することができるようになります。今まで知らなかった、見えていなかったわが子のよさを発見し、そのよさを褒めたり認めたりすることは、子どもが学ぶ意欲を高めるきっかけになるでしょう。
ぜひ、お子さまに「授業では、どんなことをしているの?」「タブレットは授業や宿題でどんなふうに使っているの?」「どんな勉強が楽しい?」と聞いてみてください。今まで気がつかなかった、子どもの「得意」や「好き」が見えてくるはずです。
(まとめ・TIPS)
思考力・判断力・表現力等、そして協働する力の育成を促すICT活用は、現段階では地域や学校によって差があるので、子どもの授業や宿題に興味を持ち、子どもの話を聞いてみることが大切です。学校のICT活用の現状を理解するとともに、子どもの興味があるものや得意なことを知ることで、子どもに合ったかかわりができ、子どもが学ぶ意欲を高めることにつながるでしょう。
図1~図4出典:ベネッセ教育総合研究所「小中学校の学習指導に関する調査2021」(2021年8月末~9月中旬実施)