2014/06/20
【調査研究】 学生が大学で本当に学びたいことを見つける事を、 どのように支援するか
元 主席研究員・チーフコンサルタント 山下 仁司
来る6月28日(土)、7月12日(土)に、大学シンポジウム2014 「学生が成長する教学改革~学びに向かう動機づけの工夫と効果~」が開催される。筆者は、そのシンポジウムで冒頭に調査報告を行う予定であるが、本日はそこで紹介しきれないデータを使って、どのような事を一緒に考えて行きたいか少し先行してご披露したいと思う。
入学後に「学びたい事が見つかるか不安」は、3~6割弱
図1は、2014年度のベネッセアセスメント「大学生基礎力調査I」からのデータである。各学部系統別・合格偏差値帯別に入学時の不安について聞いたもので、入学後に「学びたい事が見つかるか」という質問に「やや+とても」と回答している学生の割合である。
大学は本来、学びたい専門の学問があって進学するのであるから、この質問はやや矛盾している。しかしながら、入学直後の大学生の3割~6割弱は「学びたい事が本当に見つかるか不安である」と回答しているのである。これはある意味、大まかには自分の興味のある学問系統には進学したが、本当に学びたい事は明確ではなく、本気で打ち込めることがあるかどうか、手探りをしているという状態をよく表している。このデータだけを見ても、入学後に学生に「本当に学びたい事」を見つけさせる事が重要であることが推察される。
大学は本来、学びたい専門の学問があって進学するのであるから、この質問はやや矛盾している。しかしながら、入学直後の大学生の3割~6割弱は「学びたい事が本当に見つかるか不安である」と回答しているのである。これはある意味、大まかには自分の興味のある学問系統には進学したが、本当に学びたい事は明確ではなく、本気で打ち込めることがあるかどうか、手探りをしているという状態をよく表している。このデータだけを見ても、入学後に学生に「本当に学びたい事」を見つけさせる事が重要であることが推察される。
初年次での学びの転換の重要性
では、入学時に「学びたい事が見つかるかどうか不安」と回答していた学生が、その後どのような学びや活動を通して2年次には「大学で学ぶべきことがわかっている」と自覚するようになるのか。詳細は、シンポジウムでご紹介するが、その一部要因をここにご紹介する。
図1で見たように社会科学系統の学生が最も不安が高かったことから、社会科学系統の学生に絞り、2年次に「大学で学ぶべき事が分かっている」と回答しているかどうかを見たものが図2以下のデータである。図2は、入学時に学びたい事が見つかるか非常に不安と回答した学生のみに絞っている。この学生が、1年次に「論理的思考を身に付ける事」に力を入れたかどうかで分類して、「大学で学ぶべき事が分かっている」という質問への回答分布をみると、非常に+ややの合計で、論理的思考の習得にかなり力を入れた者が学びたいことを見つけられたのは約64%に対し、全く入れなかった者はわずか21%しか見つかっていない事がわかる。
図1で見たように社会科学系統の学生が最も不安が高かったことから、社会科学系統の学生に絞り、2年次に「大学で学ぶべき事が分かっている」と回答しているかどうかを見たものが図2以下のデータである。図2は、入学時に学びたい事が見つかるか非常に不安と回答した学生のみに絞っている。この学生が、1年次に「論理的思考を身に付ける事」に力を入れたかどうかで分類して、「大学で学ぶべき事が分かっている」という質問への回答分布をみると、非常に+ややの合計で、論理的思考の習得にかなり力を入れた者が学びたいことを見つけられたのは約64%に対し、全く入れなかった者はわずか21%しか見つかっていない事がわかる。
図3は、入学時に学びたい事が見つかるかは全く不安でないと回答していた学生群での2年次の同じデータである。もともと明確に学びたいものがあった学生群なので、総じて大学で学ぶべき事が分かっている比率は高いが、それでも「論理的思考を身に付ける」ことに全く力を入れていない学生では、4割が「大学で学ぶべき事」について迷っていると言う事がわかる。
もちろん、「論理的思考を身に付ける」ことだけが、大学で本当にやりたい事を見つける手立てではない。「専門を学ぶ」事でも、同様の分布結果になっている。ということは、もともと学生自身が積極的で、初年次に大学での学びに全般に力を入れて取り組んだ者が学びたい事を見つけられる可能性も高くなるとは言える。
しかし、その事は大学が積極的な働きかけをする必要がない、と言う事ではない。できるだけ早く学生の学修に対する考え方を改めさせ、教えられる事を受動的に覚えるだけでなく、自ら積極的に学習に取り組む事の必要性をいかに理解させるか(学びの転換)。専門の知識をベースに、自らの考えた仮説を元に、それを実証する実験や調査を行うといった、能動的な学びを早期に体験させ、知的好奇心を高めてゆく、そのような仕組みをいかに初年次に作るかにかかっていると言えるだろう。
シンポジウムでは、これらの視点をもとに岐阜大学などから実践報告をお願いし、具体的な教育のしかけ、カリキュラム構成等について深く掘り下げてゆく予定である。
しかし、その事は大学が積極的な働きかけをする必要がない、と言う事ではない。できるだけ早く学生の学修に対する考え方を改めさせ、教えられる事を受動的に覚えるだけでなく、自ら積極的に学習に取り組む事の必要性をいかに理解させるか(学びの転換)。専門の知識をベースに、自らの考えた仮説を元に、それを実証する実験や調査を行うといった、能動的な学びを早期に体験させ、知的好奇心を高めてゆく、そのような仕組みをいかに初年次に作るかにかかっていると言えるだろう。
シンポジウムでは、これらの視点をもとに岐阜大学などから実践報告をお願いし、具体的な教育のしかけ、カリキュラム構成等について深く掘り下げてゆく予定である。
プロフィール
山下 仁司
元 ベネッセ教育総合研究所 主席研究員・チーフコンサルタント
福武書店(現ベネッセコーポレーション)入社後、進研模試副編集長、ニューライフゼミ英語教材編集長、ベルリッツ・アイルランド、シンガポール出向、国際教育事業部長、ベルリッツ・ジャパン取締役、英語力測定テストGTEC開発統括マネージャーなどを経て現職。
◆近年の活動◆
大学FD・SD研修講演
広島大学、宮崎大学、名古屋工業大学、福岡工業大学、名城大学他多数
◆シンポジウム◆
・全国大学入学者選抜研究連絡協議会大会 公開討論会パネル
(平成22年、25年)
・九州工業大学シンポジウム
「大学教育のあり方と秋入学-世界で活躍できる人材を育てるために-」
(平成25年)
・ベネッセ教育総合研究所シンポジウム
「主体的な学びへと導く大学教育とは」(平成24年)
◆論文◆
・「高校・生徒からみた高大接続の課題と展望~高大接続の真の課題は何か~」
(2011)
・日本高等教育学会 学会紀要『高等教育研究』第14集 高大接続の現在
・『「答え」や「モデル」のない今後のグローバル社会で活躍できる力とは?
産学連携教育の研究実践と、主体性を引き出す大学教育の在り方』(2012)
・第4回横断型基幹科学技術研究団体連合シンポジウム 予稿集
福武書店(現ベネッセコーポレーション)入社後、進研模試副編集長、ニューライフゼミ英語教材編集長、ベルリッツ・アイルランド、シンガポール出向、国際教育事業部長、ベルリッツ・ジャパン取締役、英語力測定テストGTEC開発統括マネージャーなどを経て現職。
◆近年の活動◆
大学FD・SD研修講演
広島大学、宮崎大学、名古屋工業大学、福岡工業大学、名城大学他多数
◆シンポジウム◆
・全国大学入学者選抜研究連絡協議会大会 公開討論会パネル
(平成22年、25年)
・九州工業大学シンポジウム
「大学教育のあり方と秋入学-世界で活躍できる人材を育てるために-」
(平成25年)
・ベネッセ教育総合研究所シンポジウム
「主体的な学びへと導く大学教育とは」(平成24年)
◆論文◆
・「高校・生徒からみた高大接続の課題と展望~高大接続の真の課題は何か~」
(2011)
・日本高等教育学会 学会紀要『高等教育研究』第14集 高大接続の現在
・『「答え」や「モデル」のない今後のグローバル社会で活躍できる力とは?
産学連携教育の研究実践と、主体性を引き出す大学教育の在り方』(2012)
・第4回横断型基幹科学技術研究団体連合シンポジウム 予稿集