2013/11/28

【調査研究】 大学におけるカリキュラム改訂の阻害要因・課題 -大学生の主体的な学習を促すカリキュラムに関する調査結果より(その2)-

ベネッセ教育総合研究所 高等教育研究室 主任研究員 樋口 健
本稿では、前回(11月13日掲載)に引き続き、日本高等教育開発協会と共同実施した「大学生の主体的な学習を促すカリキュラムに関する調査」より報告する。特に今回は、カリキュラム改訂の阻害要因について、焦点を当てる。

「教員間の合意形成」と「必要な教員の確保」がカリキュラム改訂の「2大」阻害要因

 まず、概略を見てみる。質問紙の中でカリキュラム改訂における阻害要因・課題をたずねたところ、「学部・学科内の教員間の合意形成」(45.4%)、「新カリキュラム実施のために必要な教員の確保」(37.7%)の順に高くなった。これに続くのが「新カリキュラム実施のために必要な機器・設備・教室の準備」(22.1%)であり、トップ2項目がカリキュラム改訂に際しての「2大」阻害要因であることが分かる。
 設置者別にみても「学部・学科内の教員間の合意形成」が国立で51.1%と半数を超え、公立(47.3%)、私立(43.7%)に比べて若干高くなっている。しかし、全体にあまり大きな違いはみられず、設置者を超えた「大学の共通課題」となっている。
図1 カリキュラム改訂における阻害要因・課題

大胆なカリキュラム改革の「必然」として

 上図において示された「教員間の合意形成」、「必要な教員確保」は、大胆なカリキュラム改革を目指すほど必然的に生じる課題である。授業科目の大幅なスクラップ&ビルトが必要となる可能性が高いからである。
 図2は「カリキュラム改訂の重視点」を問うたものである。88.5%が「学部・学科のディプロマポリシー(以下DP)に沿った教育目標の達成」を「重視した」とし、その中で「とても重視」との比率は実に49.5%にのぼった。既に、教育目標の達成を目指す成果志向のカリキュラム改訂は通念となりつつある。こうした中で、大学が社会変化に鋭敏に対応した人材育成を目指し、カリキュラム改訂を追求していけば、教員がこれまでの担当授業の内容を抜本的に見直す必要も出てこよう。また、「必要な教員確保」が阻害要因として高い割合で認識されているが、そうした状況では、未経験であっても既存教員が新たな分野の授業を担当しなければならない。その一方で「科目廃止」などにもつながる可能性があるだけに「教員間の合意形成」が困難な課題となるのは当然だろう。
図2 カリキュラム改訂の重視点(抜粋)

大学の中に、変化に立ち向かう風土をどう創出するのか

 しかし、こうした状況を乗り越えなければ、環境変化に対応した有効なカリキュラム再編成、教学改革は実現できない。図2では、そうした困難を現実と調和させつつ何とか乗り越えようと、「既存の教員だけで科目の教員配置ができる」、「教員に過度の負担がかからない」、「多くの教員の意見をまんべんなく反映する」等、カリキュラム設計上の運用や合意形成面を中心に多様な努力が重ねている様子が見て取れる。
 実際、我々が並行して訪問ヒアリングしたいずれの大学においても、様々な苦心と工夫がなされていた。例えば、学科長みずからがリーダーシップを発揮し、第1段階の議論でDP達成に必要な科目体系の設計について検討・合意し、第2段階として科目担当者の検討を行うなど、議論を意図して段階的に行うことで「科目の属人化」を脱却しつつ体系的なカリキュラムを取りまとめたケース。また若手中心のFDを繰り返す中で、新たなカリキュラムのあり方を議論し巻き込んでいったケースなど等である(詳細は3月最終報告書で刊行予定)。
 今後は、こうした大学の中にあるカリキュラム改訂に向けた個別の努力をオープンにし、担当者の経験や課題を突破する知恵を相互交換する取り組みがもっとあってもよいだろう。また特筆すべきは、いずれの大学でも、学内の合意形成には「最終的には、ねばり強いコミュニケーションが必要である」と指摘されていたことである。この点について即効薬はないようだ。それだけに、学長・学部長・学科長のリーダーシップ強化が求められる。その一方で、フォロワーサイドに視点を置くと、ややもすると「動かない」と指摘される大学の中に変化志向の組織風土をどう育むのか、その方法についても検討すべき時といえよう。