2013/12/09
シリーズ 未来の学校 第2回 | 開校22年目、子どもたちの自主性からすべてが始まる山間の自由学校【後編】[4/4]
【後編】 自己決定と個性が切り拓いた、卒業生の未来 [4/4]
"日々生きるのが楽しい"教育の今後
さまざまな課題を抱えている学校教育だが、これからの社会を支える子どもたちに対してどのような教育をすればよいか、また、今後の展望について堀さんに聞いた。
堀 必要な教育は大きく3つあります。1つ目は、子どもたちが自信をなくさない楽しい教育、2つ目は憶える教育ではなく考える教育、3つ目は孤立することなく、みんなと一緒に力を合わせて何かを成し遂げる楽しさを得られる教育です。感情面、知性面、社会性や人間関係の面、いずれも考え直さないと、ますます閉塞状況に追い込まれるのではないかと、心配しています。
取材班 堀さん自身、これからどのような展望をおもちでしょうか。
堀 1つは、日々の教育実践を深めていかなければならない、これはいつまで経っても終わることのない課題だと思います。もう1つは、日本のあちこちから「きのくに」のような学校をつくりたいという声が聞こえてきます。そういう人たちと横の繋がりを深めていきたいです。今までは自分たちのことで手一杯でしたが、同じ思いの人と手に手をとりあっていきたいです。
現在、きのくに子どもの村学園は、「きのくに子どもの村小学校・中学校」のほかに、「かつやま子どもの村小学校・中学校」「南アルプス子どもの村小学校・中学校」「北九州子どもの村中学校」「きのくに国際高等専修学校」など、多くの学校を設立している。また、「きのくに子どもの村学園」を前例に、「きのくに」と同様の教育方針をもつ別の私立学校が各地に設立されている。
最後に、堀さんに開校から22年を経て、「きのくに」は社会にどのような影響を与えたと思うか聞いた。
堀 「教育改革に小さな一石を投じる」という目的で設立したこの学校も、良い意味で波紋は広がっているようです。ちなみに、これまで地元自治体や文部科学省から何か文句を言われたり圧力がかかったりしたことなどは一度もありません。むしろ応援してくれています。今では「きのくに」を前例に体験学習を中心とした私立学校が全国各地で設立され、幸いなことに私の著書は韓国でも翻訳されています。また、スウェーデンの学生が卒業論文のテーマとして選んでくれたり、全国各地でみなさんに応援していただいたりしていることは、私たちにとっても、日本の子どもたちにとってもいいことだと思っています。
無い無い尽くしですが楽しいことは沢山あります、という堀さんの言葉を思い返しながら「きのくに」を後にした。楽しい授業の本質は生きるための学びであり、高いモチベーションが湧く自己決定の原則が貫かれている。自己を律する気持ちが無くては守れない自由を携え、答えの無い課題に対して思考錯誤を繰り返し、人生を楽しむ子どもたちの声が山間に元気よく響いていた。
編集後記
「まずは子どもをしあわせにしよう。すべてはそのあとに続く」というニイルの言葉が「きのくに」のウェブサイトの最上段に書かれている。言うのは簡単だが、実践は容易ではない。同校は自己決定の原則を徹底していたが、最終責任は常に大人が持つという前提に立っている。自由にやってもいいけど自己責任だよ、という「自由」では子どもは開放されないという。
子どもにとって学校は人生の舞台そのもの。学校が楽しくなければ人生も楽しくない。自己肯定感が低い、将来に希望を持てと言われても酷な話である。学校は楽しい!ということに「きのくに」が徹底的にこだわる理由がここにある。本来、漢字を学ぶのはより多くのことを学べるようになるためだし、面積の概念や公式を学ぶのも生活する上で困らないようにするためだ。しかし、そういう本来的な目的を実感できないまま日々、教科書と黒板に向かわなければならないとしたら大人だってツライ。高いモチベーションが生まれる「プロジェクト」授業は大人もわくわくすること間違いなし。
そして、教育実践の成果。人里離れたこの学校を巣立った卒業生たちが、グローバルな舞台でも活躍しているのは少し意外かもしれない。しかし、理由は明らかで、それはゼロから何かを作り上げることや、多様な価値観を持つ他者と協調しながらも自律的に生きていくことをしっかり学んでいるからだと感じた。どんな子どもにもある可能性をいかに引き出すか。そのことだけに特化して、日々考え、実践する大人が居る場所を良い学校と呼ぶのだと思う。
ベネッセ教育総合研究所 ウェブサイト・BERD編集長 石坂 貴明