2014/05/21

[第1回] 「ICTを活用した学びのあり方」を追究する

 ベネッセ教育総合研究所が「『ICTを活用した学びのあり方』に関する調査報告書」を公開した。本調査報告書では、普通教室でどの機器がどのような頻度で使われているのか、教員のICT活用度による特徴は何なのか、ICT活用を推進する体制はどうなっているのか、教員の授業でのICT活用の意識はどうなのか、ICTはどのような学習場面で使われているのか、等について、よりふみこんだ調査を行っている。この調査については次回以降の連載で、いくつかの視点で語られることになるが、これからのICTの活用に対して3つのポイントと今後のあり方を考察していきたい。

中川 一史●なかがわ ひとし

放送大学教育支援センター教授・博士(情報学)
横浜市の小学校教師、教育委員会、金沢大学教育学部教育実践総合センター助教授、独立行政法人メディア教育開発センター教授を経て2009年より現職。専門領域はメディア教育、情報教育。
主な研究テーマとしては、国語科教育におけるメディア活用の研究、情報教育に関する学習環境の研究、ICT活用指導力育成に関する研究、情報端末機器の教育利用の研究など。 国語と情報教育研究プロジェクト代表、D-project(デジタル表現研究会)会長。数々の小中学校の実践研究の指導・助言にあたる。
主な著書は、「タブレット端末で実現する協働的な学び」中川一史・寺嶋浩介・佐藤幸江編著(フォーラム・A)、「情報化社会と教育」苑復傑・中川一史編著(放送大学教育振興会)など。

日常的にICTが使えることの重要性

 まず、「普通教室において、小学校で5割以上、中学校で3割以上がデジタルテレビ、教師用コンピュータを常に使える状況であると回答している」点である。普通教室は、児童生徒が多くの時間、学習を行う場所だ。特に小学校においてこの頻度が高い。本調査では、小学校において、実物投影機は3割以上、指導者用デジタル教科書は2割以上が常に使える状況であると回答している。普通教室で常に使える環境が整ってきた状況の一端がうかがえる。普通教室においてICTが使われる割合が高くなっていくことで、今後さらに活用度も上っていくことが推測される。なぜなら、ICTが使われるというのは、効果だけでは語れないからだ。例え効果があるとしても、どれだけの先生が教室と階のちがう鍵のかかった場所にある機器をわざわざ自分の教室に持って来て、セッティングして授業で使うのか、ということだ。日常的に使われるには、効果とともに手間がかからないということも重要な要素である。例えば、教員用のタブレット1台とプロジェクタを使い、特別な環境がなくても、すぐにクラスで共有できるなどの使い方も考えられるだろう。

子どもたちの学びのツールになること

 次に、現在全国的に少しずつ進んでいるタブレット端末導入の影響が少しずつ調査結果にあらわれていることである。例えば、ICT活用度の高い教員は、「自宅においてもタブレット端末を利用している」「今後、授業でICTを積極的に活用していきたいと考えている」「今後、実施したいことでは、教材提示から協働的な学び、個別対応という流れがある」などの傾向がみられた。タブレット端末が学校に導入され、使われるようになっていくということは、これまで教師が提示用などに使われてきたICTの位置づけが変わり、今後、児童生徒が学習で使うようになる頻度が高くなるということだ(図1)。
図1
 これまで教室で使ってきた多くのICT機器などとは性格は変わってくる。しかし、当面、いつでも一人1台使える程度の台数の導入はなかなか見込めない。多くても1校で40台ということになろう。予算的にまずは8~10台ずつ各学校に、と考える自治体も少なくない。そうなると、当面はグループ学習などで使われる可能性が高くなる。さらに、今後、複数の学級で一人1台使える程度の台数が導入されたり、個人所有の機器を活用することになると、学習者用デジタル教科書等をからめて個別学習で使ったり、家庭学習と関連させて本格的に活用される可能性も出てくる。いずれにしても、まだ導入がはじまった時期であり、タブレット端末導入については、今後のさらなる調査が必要である。

ICTによって広がる学びの可能性

 最後に、ICT活用度が高い教員は、「(児童生徒の)意見の共有や議論する機会が増える」「(児童生徒の)発表する機会が増える」「教え合い・学び合いが増える」ことに期待を寄せているという結果が明らかになった。情報収集や教材の提示にとどまらず、ICTで思考を可視化するなど、学校によっては多様な活用へと広がる可能性がある。思考の可視化とは、頭の中にある思いや考えを視覚的に表すことである。これまでも、ホワイトボードや付箋紙、ワークシートなどでもやってきたことだが、電子黒板やタブレット端末などICT機器を使うことで、拡大、書き込み、転送、保存など、紙などではできなかったことができるようになる。
 ICTを導入し、活用を促進するには、教員のICTに関わる実態や校内の教員構成にもよるが、段階があると考える。まずはとにかく使ってみるという段階である。活用効果がどうのこうのと言う前に、まずはどんどん使ってみるということを大事にしたい。しかし、いつまでもそこにとどまるのではなく、従来の教材・教具との関連を検討したり、ICTならではの使い方・場面の追究にギアチェンジすることが重要だ(図2)。
図2
 このタイミングをどうするのかは、研究主任や情報担当リーダー等のミドルリーダーの判断にかかっている。タイミングをまちがえると、ひんぱんに使ってはいるが、使わなくてもいい場面で使ったり、十分な活用ができていない段階で効果を要求され、その結果使われなくなるなどの事態が起こってしまうこともある。目的に照らしたICTの効果的な活用を見出していくことが求められる。
 本連載は、次回以降、ICTの活用度による教員の差や、協働学習を通じた新しい学力への期待、学校現場での調査結果の活かし方などについて、多彩な執筆者にバトンをつないでいく。お楽しみに。[END]