2015/01/08

【政策動向の解説】 高大接続改革をどう捉え、今後に備えるか

元 主席研究員・チーフコンサルタント 山下 仁司
 2014年12月22日に、中央教育審議会から高大接続に関する答申、「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について」が発表された。既に10月に案として発表されていた内容がほぼそのまま答申の中に反映されているため、大きな驚きはないが、今後この改革がもたらすであろう初中等教育、および高等教育へのインパクトは大変なものになると考えられる。

何のための改革か

 今回の高大接続改革のポイントは、単に大学入試センター試験を廃止して、別の2種類のテストを導入する、というところにあるのではない。この改革の目的は、K-16(幼児期から初等・中等教育を超え学士課程まで)の教育全体を、これからの時代にふさわしいものにしていくことである。これからの時代にふさわしい教育とは、答えが1つではない課題を発見し、異質な者同士が協働してそれを解決し、社会に貢献する人材の輩出を目指す教育である。もちろん、その教育の中では、十分な知識・技能、それを活用して課題解決に取り組める思考力や判断力、主体的に学ぼうとする姿勢の3つの要素から構成される「確かな学力」を育むことは大前提である。
 答申では、「現状の高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜は、知識の暗記・再生に偏りがちで、思考力・判断力・表現力や、主体性を持って多様な人々と協働する態度など、真の「学力」が十分に育成・評価されていない」と、現状の大学入試選抜を中心とした問題を指摘している。この点を、2010年に当研究室で行った大学生・社会人に対する振り返り調査の結果で見てみよう。
 図1は、一般入試を経験した者に限定した、「大学受験で得られたものは何か」という質問への回答である。大学4年制、社会人1~3年目、10~13年目にそれぞれ聞いている。回答は得られたと思うものを全て選ぶ形式である。
 全体的に、大学生の1項目でしか5割を超えない低い選択率ではあるが、比較的選択率が高い項目は「受験勉強で得られた知識・技能」の他には「粘り強く考える習慣」「精神的タフさ」「自己管理能力」「学習習慣」といった項目である。もちろん、これらの自らを律して学びに向かう能力も非常に重要であり、これまでの入試が全て否定されるものではない。
 しかし一方、「学ぶことの面白さ」、「考え方や思考法」、「自分の考えをまとめ、他者に口頭や文章で伝える力」、「人間関係」といった項目は低い。これら現状の受験勉強では得られない能力は、まさに答申で指摘している項目そのものであり、今回の改革が目指す教育で育成したい能力であると言える。

すべての入試がAO入試になる

 今後、具体的な制度設計が検討され、またCBT(Computer Based test)の開発などが進むであろうが、特に注目しておきたいのは、「一般入試、推薦入試、AO入試の区分を廃止」するという点である。つまり、すべての入試が2種類いずれかの学力試験の結果(段階得点)と、高校の評定点や能動的・探求的な学びの履歴を示すためのポートフォリオ、面接や講義を聞いてグループ討議をするなどの観察に基づくルーブリック評価を多角的に検討して合格者を決めるAO入試となっていく。
 各大学は、それぞれのディプロマ・ポリシーに基づくアドミッションポリシーを定め、高度な学力を重視する大学、能動的・探求的学びの経験を重視する大学、集団討議やレポートなどでのコミュニケーション能力、論理的思考力を重視する大学など、大学の個性に応じた選抜を行うことになる。恐らく、一部の選抜性の高い大学では、上記に加え、個別学力試験を課す所も出てくるだろう。例えば専門の学びに数IIIが必須の学部では、これを履修し十分な学力があるかどうかを見ざるを得ない。しかし、これら多様なものを見て選抜する入試の中でも、恐らく最も重要なのは、「能動的・探求的学びの経験を、論文などの形にまとめエビデンスとして提出する」という要素であると思われる。なぜなら、高校以前にそのような学びを行う教育を実現し、K-16にわたる教育改革を実現する事が今回の改革の主目的だからである。
 答申の中では、大学入学者選抜実施要項を抜本的に見直し、段階的に改革の中身を反映させてゆくという事になっているので、この流れは2020年に急に変わるというものではない。既に16年度入試より実施予定の東大・京大の特別入試、推薦入試などの動きも同様の文脈で捉える事が可能であるし、来年度以降の様々な補助金制度などでも高校と大学を教育的に接続する試み等が重視される事になると思われる。高校にとっても、知識を活用し、能動的・探究的な学びをさせることが大学合格の重要なカギとなるとなれば現行のカリキュラムを見直さざるを得ないだろう。今後の制度設計の進捗から目が離せない。

プロフィール

山下 仁司

元 ベネッセ教育総合研究所 主席研究員・チーフコンサルタント
福武書店(現ベネッセコーポレーション)入社後、進研模試副編集長、ニューライフゼミ英語教材編集長、ベルリッツ・アイルランド、シンガポール出向、国際教育事業部長、ベルリッツ・ジャパン取締役、英語力測定テストGTEC開発統括マネージャーなどを経て現職。

◆近年の活動◆
大学FD・SD研修講演
広島大学、宮崎大学、名古屋工業大学、福岡工業大学、名城大学他多数

◆シンポジウム◆
・全国大学入学者選抜研究連絡協議会大会 公開討論会パネル
(平成22年、25年)
・九州工業大学シンポジウム
「大学教育のあり方と秋入学-世界で活躍できる人材を育てるために-」
(平成25年)
・ベネッセ教育総合研究所シンポジウム
「主体的な学びへと導く大学教育とは」(平成24年)

◆論文◆
・「高校・生徒からみた高大接続の課題と展望~高大接続の真の課題は何か~」
(2011)
・日本高等教育学会 学会紀要『高等教育研究』第14集 高大接続の現在
・『「答え」や「モデル」のない今後のグローバル社会で活躍できる力とは?
 産学連携教育の研究実践と、主体性を引き出す大学教育の在り方』(2012)
・第4回横断型基幹科学技術研究団体連合シンポジウム 予稿集