2014/03/14

eテスティングとeポートフォリオ :コンテンツからビッグデータ時代へ(第1回)

研究員 中島 功滋

開催日

2014年1月27日

会場

ベネッセコーポレーション東京本部(多摩)

発表者

植野 真臣(電気通信大学大学院 情報システム学研究科 教授)

内容

 講演会「eテスティングとeポートフォリオ:コンテンツからビッグデータ時代へ」を開催し、教育分野におけるICT環境の変遷・eテスティングを支えるテスト理論・eポートフォリオの実践例等について植野真臣先生(電気通信大学大学院情報システム学研究科教授)に講演していただきました。講演の詳細について講演者の植野先生から寄稿いただきましたので、3回シリーズで紹介します(第1回,第2回第3回)。

eテスティングとeポートフォリオ :コンテンツからビッグデータ時代へ

量から質へ
 近年、ICT(Information and Communication Technology)に関連する知識産業の構造はダイナミックに変容しつつある。1990年代の、米国クリントン政権を端として、世界各国で知識社会という新マーケット創造のためにインターネットのインフラ整備が始まった(インフラ時代)。
 まず、光ケーブルなどのインフラが整備され、その次にインターネット上のコンテンツ整備が課題となった。90年代の社会的課題はまさしくインターネットコンテンツの充実であり、インフラ系の事業に大きく投資が行われ、教育分野では高等教育でのeラーニングが脚光を浴びることとなった。そのため、高等教育への多額の投資が行われ、コンテンツ開発とインターネット上への公開が促進された。しかし、インフラ時代の特徴でもあるが、開発されたコンテンツの質は全く問われず、各機関が何個のコンテンツを開発・公開したかの数のみが問われる時代でもあった。2010年を超えると、これらのインターネット上のコンテンツは溢れかえるようになり、インフラ時代は終焉を迎えている。
 次は、この膨大なコンテンツデータ、ユーザーデータを用いてどのようなサービスが創造できるかが問題となる。このような時代をビッグデータ時代と呼ぶ。インフラ時代にも大容量データ処理は話題になっており、データマイニングなどと呼ばれる分野であった。しかし、インフラ時代では、いかにデータを蓄積するかの設計が重視されたのでデータベース技術研究が中心であり、蓄積されたデータの解析手法は単純な共起の数え上げ程度しか実現されてこなかった。ビッグデータ時代は、膨大なデータを用いていかに精度高く、競争力あるサービスが提供できるかが課題となり、データベースのみでなく、統計数学、アルゴリズム、というコンピュータサイエンスの最先端技術を駆使してこれを実現しなければならないのである。
社会文化の変容が起こる!!
 ビッグデータ時代という名から想像されるのは、「単に大規模データを蓄積し、解析すればよい」ということかもしれない。しかし、これはインフラ時代の考え方である。ビックデータ時代の到来のインパクトは、社会文化の変容である。これまでも歴史は、絶えず、インフラ時代→競争時代を繰り返してきた。インフラ時代の終焉は、競争時代、質の時代の到来を意味する。ビッグデータ時代では、質の高いデータを膨大なデータから見つけ出し、競争力のある解析手法によりサービスを提供していかねばならない。誰でもできる技術でビッグデータを解析しても競争力は得られないのである。インフラ時代はだれもが参入できる時代であったのに対し、ビッグデータ時代では高い質を求めた熾烈な競争時代へと移行するであろう。この意味では、日本は大きく出遅れている。日本の大学にはビッグデータ解析を学べる専門コースがない。一方で、米国の有名大学のコンピュータサイエンス学科では、すでに10年前よりほとんどの研究室がビッグデータ解析の研究に移行している。今では、これらの大学の博士課程を出た研究者が企業で引っ張りだこになっている。以上のように、時代はインフラ時代の専門家軽視の時代から、高い質を重視する専門家重視の時代に変容しつつある。
 このような流れを受けて、教育分野におけるICT利用はどのように変容するのであろうか。これまでのようにただコンテンツを開発するだけでは認められないであろう。
 はたして、教育分野にビッグデータを用いた競争力のある技術などがあるのであろうか。その答えは「イエス!!」である。教育分野における次世代のビッグデータのマーケットは、まさしくeテスティングとeポートフォリオにある。
次回はeテスティングとeポートフォリオの今後について紹介する予定です。

報告者

  • ベネッセ教育総合研究所 アセスメント研究開発室 研究員
    < 中島 功滋 >