2014/01/17

【調査研究】 「使える数学力」は身についているか —大学生調査から見える課題— (前編)

元 研究員 柳沢 文敬
 昨年末、OECDより国際学習到達度調査(PISA2012)の結果が公表された。それによれば、数学的リテラシーの分野において日本の成績は国際的に上位にあることが報告されている。しかし、PISAは義務教育修了段階の幅広い層を対象とした国際調査であるため、大学を経て社会で活躍するために必要な能力を測るものとしては必ずしも適当とはいえない。当研究所では、大学生を対象としたアセスメントを開発して調査を行っているが、この結果からは、PISAの結果とは対照的に、社会で活躍するために必要な「使える数学力」が十分には備えられていないということが見えている。本稿では、当研究所で開発しているアセスメントの概要とその調査結果から見えた大学生の力の実態について2回に分けて報告をしたい。
※本稿の内容は、日本数学教育学会の論文誌『数学教育学論究』に掲載された「大学生の数理活用力を測るアセスメントに関する研究」から抜粋したものである。詳しくはそちらを参照いただければ幸いである。

「使える数学力」のアセスメント

 情報化社会と呼ばれる現代社会では、数学を活用して情報を判断することが日常的に求められる。またオンラインショッピングの「オススメ機能」のように数学的に情報を処理することが新しいサービスの開発につながることも多くある。このような状況で必要とされる「使える数学力」とはどのようなものであろうか。当研究所では、図1に示したような、「現実の問題を数学的な問題に置き換えて解決していく力」に着目し、これを「使える数学力」(=数理活用力)と定義して「数理活用力」を測定するアセスメントを開発した。
「数理活用力」を改めて文章化すると次のようになる。
職業活動や市民生活、研究活動等において直面する問題を、数理モデルを構築して解決する力、すなわち、定量化や幾何学化等により事象から数理モデルを抽出し、そのモデルに対して数学的な処理や分析を施し、得られた結果を元の問題場面に即して解釈することのできる力
 具体的に開発した問題のタイトルを表1に示す。上記の数理活用力の定義からわかるように、数理活用力が実際に発揮されるかどうかを測るためには、どのような状況でどのような知識や技能を、どのように利用することができるのかを測る問題を用意することが欠かせないと考えられる。そのため各問題は、問題の文脈の「状況」、用いられる「数学の内容」、図1の①~③のどの段階での問であるかを示す「プロセス」の3側面の枠組みで特徴づけを行い、広範な能力を測れるように配慮してある。なお、この3側面の枠組みは、PISA2012数学的リテラシー調査でも用いられているものである。
次回の後編では表1に示した問題を用いた調査の結果を報告する。

参考文献

  • 柳沢文敬、西村圭一(2013)、大学生の数理活用力を測るアセスメントの開発に関する研究、数学教育学論究、第95巻、pp.377-384