2013/10/25

「書く力」の必要性と評価

主任研究員 加藤 健太郎

報告者

ベネッセ教育総合研究所 アセスメント研究開発室 主任研究員
< 加藤 健太郎 >

内容

 2013年8月27~28日に九州大学で日本テスト学会第11回大会が開催されました。その中で、ベネッセ教育総合研究所・高等教育研究室として「『書く力』の必要性と評価~論述試験における諸問題~」というセッションを企画・開催しました。その中で、高校・大学・社会のそれぞれの現場を代表する先生方に考えを述べていただきました。このセッションで明らかになったのは、それぞれの立場に置かれた先生方の「書く力」に対する見方の多様性でした。そして、論述式テストを通じた「書く力」の評価ということに関しても、テストの専門家の立場から種々の課題が提示されました。
 このセッションを企画した背景には、「書くこと」への全社会的な意識の高まりがあります。新学習指導要領では初等・中等教育における「言語活動の充実」が強調されており、この言語活動には論述・要約・説明といった「書く」という作業を含むことが明示されています。大学生の読み書き能力の低下については既に1990年代から指摘があり、これに対応する形で入試で小論文を課したり、初年次教育として書くことを含めた基礎的なスキルの習得を学生に求める大学は増加傾向にあります。また、特に大学・社会のレベルでは、実際的な文脈において主体的に問題を捉え、論理的・批判的に考え分析し、解決法を導くための一連のスキル、いわゆるジェネリックスキルが国内外で注目を集めて久しいですが、その中で、自身の考えを整理し、他者にわかりやすく伝えるというコミュニケーション能力の一端としても書く力は位置づけられています。
 このような意識の高まりに伴って、学習・教育評価や入試・採用などの選抜場面においては、個人の書く力をどう評価するのかということが問題になってきます。これは主に「テスト」の文脈での話になりますが、多肢選択式問題や穴埋め問題のようにはっきりと正解が決まっている問題から構成されるテスト(客観式テスト)では採点基準やスコアの算出の仕方が明確ですが、論述式テストではそうではありません。解答として書かれたものに反映されている要素は、例えば文法的なスキル、語彙力、読解力、与えられたテーマに関する知識や経験、内容の一貫性や説得力、ひいては解答者のモチベーションや、微妙な言い回しや行間から垣間見える「センス」のようなものまで実に様々です。
 論述式テストでは、こうした多様な要素を含む解答を採点者が一定の観点や基準に従って評価し、スコアを与えます(どのような側面をとって「書く力」とするのか、あるいはこれらの総体として「書く力」と捉えるべきなのか。これは我々がそのテストを通じて何を見たいかということに依存します)。採点ルールをしっかり定めて採点者の主観性をできるだけ排除することで、テストの信頼性(スコアの安定性)や妥当性(スコアに測定したい能力やスキルが適切に反映されている程度)を高め、テストの公正性を確保することが求められます。
 こうした一律に「型にはめる」やり方では、書く力の真の評価はできないという批判的な見方もあると思います。目的や状況に応じて他の評価方法を用いたり、あるいは併用したりすることが大切であると考えます(例えば、より包括的な評価が必要であれば、論述に加えて、それを元にしたプレゼンテーションや面接を課すことなどが考えられます)。そうした使い分けを可能にするために、テストを提供する側は、採点基準やプロセスを明確にし、測定している能力およびスコアの意味付けを使用者にしっかりと伝えていく必要があると考えます。