これからのプログラミング教育とScratchの操作法を網羅した「おとな向け」入門本

Scratchは米国MITメディアラボによって開発された、子どものためのプログラミング環境です。これまでにも何冊か関連の本をご紹介していますが、子ども向け、またはおとなと子どもと一緒に学ぶ書籍が多い中、本書は完全に「おとな向け」の入門本です。
これからプログラミング教育を受ける子どもたちの保護者や教育関係者を主な対象としています。

第1部では昨今のプログラミング教育への関心の高まりや、学校教育に導入される狙いと解決したい課題、そしてScratchの特徴についてわかりやすく解説されています。
第2部はプログラミング初心者に向けたScratchの使い方です。

第1部「プログラミング学習とScratch」

第1部では、これからの日本ですべての子どもがプログラミングを学ぶ必要性を説明しています。
ICTによって、ここ20年ほど世界に大きな変化がもたらされています。社会、産業、仕事、社会への参画方法の4つの変化を挙げ、今後必要とされるのはICTの使い方だけではなく、ICTを活用して問題を発見したり、考えたり、解決したりする力だと言います。
そのような社会情勢の中で出された新しい学習指導要領は、「プログラミング教育」を通して「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」を行うことで、小学校・中学校・高校に渡ってこれらの力をつけていく内容となっています。
プログラミングによって問題解決をする経験・態度を積む小学生時代から、科目「情報I」として情報科学やソフトウェア工学の基礎を学ぶ高校まで通して、すべての子ども達がプログラミングを学ぶ時代がすぐそこに来ているのです。

Scratchは、子どもがプログラミングを学ぶことを目的として開発されており、今回の新指導要領に基づく授業でも今後おおいに利用される可能性があります。
本書では、「作ることで学ぶ環境」を実現しているScratchのデザインには5つの大きな特徴があると整理しており、それらを詳細に解説しています。

・目的やゴールを自分で決める構築主義であること
・プログラムを簡単に公開/共有できる学習コミュニティがあること
・スプライト単位でプログラムをするオブジェクト指向のプログラミング
・プログラムの実行を止めずに変更することができる動的プログラミング
・複数のプログラムが同時に動く並列処理

第2部「Scratchを使う」

本書の約7割のページ数を占める第2部は、プログラミング初心者のおとなのためのScratch入門です。
アカウント作成から、子ども向けの本にはあまり載っていないグラフを描写するような複雑なプログラムまで、丁寧な解説で、初心者を経験者へと確実にスキルアップさせてくれる構成です。

特筆すべきは、本書の実践ケーススタディで登場する21個のプログラムが全てScratch上で公開されていることです。ゼロから作らなくても、解説を読みながら動かしてみたり、「リミックス」と呼ばれる機能を使って中のプログラムを自分なりに少し変えて試してみたりできるのは、おとなには非常に嬉しい部分です。

21のプログラムは、7つの章に分かれ、それぞれプログラミングの作り方や考え方のテーマを持っています。それぞれについて概要、アルゴリズム、Scratch上でのプログラムが詳細に解説され、ゼロから作る場合にも、公開プログラムを読み解く場合にも、とてもわかりやすい内容になっています。
子ども向けの解説書に比べると語彙や言い回しは当然難しいですが、おとなだけで読む場合は、むしろ理解しやすい印象を受けました。

7つの章は、「アニメーション」「インタラクション」「図形&空間表現」「数値&時間」「サウンド」「文字」「グラフ」と、プログラミングで実現する内容の性質ごとに分類されています。
こうして整理されたそれぞれの概要やアルゴリズムを眺めていると、あの教科のあの単元で使えるのではないか、という想像が広がります。日々教材を研究している先生であれば、さらにより具体的に、プログラミング活動をご自分の授業に取り入れた場合の予想図を描けることでしょう。

プログラミング教育の入り口に立った先生にお勧めしたい本

パソコン上で本書のプログラムを動かしながら解説を読み、内容を理解していくと、デジタル時計やタイマーなど日常にあふれている物も、たくさんのスプライトを動かしたり、多くの変数を使ったりする複雑なプログラムで実現しているのだという実感を持つことができました。
また、本書に出てくる実践ケースのプログラムの理解を進めるうちに、「こんな風にしたいときはどうする?」「ここを変えたらどうなる?」と新しい疑問が次々に湧いてきます。
これこそが、第1部で書かれていた「学習者が知識を自分で再構成すること」なのだと気がつきます。

この本で、プログラミングの技術だけでなく、その考え方も学ぶことは、今後プログラミング教育をする先生方にもお勧めできる体験だと思います。そしてその気づきの機会を学校の授業を通してすべての子ども達にも伝えることができたら……その後の学生生活や社会に出てからの学び方も大きく変わるだろう、そんな未来を想像させてくれる本でした。

出版社 エムディエヌコーポレーション
著者 横川 耕二 著/阿部 和広 監修
発売日 2018/9/27
ISBN 978-4-8443-6772-7
価格 1,620円 (税込)
仕様 B5変形判/160P

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