少人数学級の「効果」、どう測る?

気分を新たにした新学期もつかの間、ゴールデンウィークが過ぎ、お子さんにも心の疲れが出ているころかもしれません。不登校をはじめとした、生徒指導上の問題が気になり始める時期です。一人ひとりの子どもにきめ細かく目が届くためにも、また、世界一忙しいといわれる日本の先生の負担を減らすためにも、1クラスの人数は少ないほうがよい気がしますが、国や地方の財政も厳しそうです。どう考えればよいのでしょうか。

小学校の不登校は減るけれど…

「少人数学級はいじめ・暴力・不登校を減らすのか」……。こんなタイトルの論文が、経済産業省所管の独立行政法人経済産業研究所のホームページに載りました。なぜ文部科学省じゃなくて経産省?と思うかもしれませんが、執筆者の中室牧子・慶応義塾大学准教授が、『「学力」の経済学』というベストセラーもある経済学者(専門は教育経済学)だからです。

関東近郊の自治体の協力を得て2年間のデータを分析したところ、▽学級規模を縮小させれば、小学校の不登校を減少させる効果があった▽非常勤加配教員の配置も、不登校数の減少に大きく貢献する可能性がある▽一方で、小学校のいじめ・暴力や、中学校に関しては、必ずしも学級規模縮小や非常勤加配で効果があることは確認できなかった……といいます。そこで中室准教授は、いじめ・暴力・不登校の問題を、単純に教員の増加で解決しようとするのではなく、スクールカウンセラー(SC)など専門家を配置するなどの政策と組み合わせるよう提言しています。

全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)を活用した実証研究も促進

現在、公立学校の学級編成は、法律に基づく国の「標準」によると、小学校に上がりたての1年生だけが1クラス35人までの「35人学級」で、他は40人学級です。実際には「加配措置」という予算上の増員枠を使って、小学2年生も、同じ低学年ということで、実質的な35人学級を全国で実施できるようにしています。

もっとも都道府県などによっては、他の学年にも35人学級を広げたり、小学校低学年で35人を下回る学級編成を実施したりするなど、国の標準を下回る学級編成をしている自治体は少なくありません。

一方、心理の専門家であるSCをめぐっては、福祉の専門家であるスクールソーシャルワーカー(SSW)とともに、「チーム学校」の正式な一員として学校に置ける職に位置付けるよう、文科省が省令改正を行っています。

いじめなど生徒指導上の諸問題の解決、あるいは学力向上などのために、どういう措置を取ればよいのか。それを検討するにも、中室准教授が行ったような、実証的な研究が欠かせません。文科省も民主党政権時代、中学校までの全学年を35人学級にするためにデータを集めたことがありましたが、財務省の説得材料にはならず、政権交代もあって仕切り直しとなりました。

一方、文科省の専門家会議は、全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)のデータを、研究者が一定条件の下で利用できるようにすることを提言しています。今後、実証的な研究が進み、生徒指導上も学習指導上も有効な学級編成・教職員配置の在り方を一刻も早く追究してほしいものです。

※少人数学級はいじめ・暴力・不登校を減らすのか
http://www.rieti.go.jp/jp/publications/summary/17030016.html

※全国的な学力調査の今後の改善方策について(まとめ案)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/112/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2017/03/30/1383351_1.pdf

(筆者:渡辺敦司)

プロフィール


渡辺敦司

著書:学習指導要領「次期改訂」をどうする —検証 教育課程改革—


1964年北海道生まれ。横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。初等中等教育を中心に、教育行財政・教育実践の両面から幅広く取材・執筆を続けている。

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