第5回:大学入試改革から見える“自分の人生を切り開く力”を育てるヒント

今春、中学3年生になるお子さんが大学入試に挑む2020年。大学入試センター試験に代わって、新たに「大学入学希望者学力評価テスト(仮)」が導入される予定です。このほかにも文部科学省は、さまざまな大学入試改革(高大接続改革)案を検討中です。これほどの大きな変化は、近年なかったこと。その背景には、何があるのでしょうか。すでに始まっている入試の変化と合わせて、大学入試改革の舞台裏をベネッセ教育総合研究所の木村治生がお話しいたします。

●なぜ今、大学入試を変えるのか?

グローバル化や技術革新の進展によって、社会はこれまで人類が経験したことがないほど早く、大きく変わる。そうした予測が、多くのところで語られています。子どもたちが社会人として活躍する未来は、多様な価値観をもつ人と協力し合い、難しい課題を解決していくことが今以上に求められます。そのとき、今までと同じように従来の学力である「知識・技能」を身につけることに終始してよいのか。この問題に対応するため、文部科学省は【知識・技能】に加えて、【思考力・判断力・表現力】や【学びに向かう力・人間性】を重視しようとしています。次の学習指導要領では、この【3つの力】を育てる学校教育にしようと、『教育目標』が見直されます。

『教育目標』が変われば、『学び方』も変える必要があります。たとえば、【思考力・判断力・表現力】を育てるには、自分の問題意識をもって調べたり、調べたことをもとに友だちと議論したり、考えたことをレポートにまとめて発表したりといった活動が必要になります。文部科学省は、それを「主体的で対話的な深い学び」と言っています。そして、『学び方』が変われば、それによって身についた力を測るための『評価』を変えなければなりません。大学入試も、子どもたちの学びの成果を図るひとつの評価ととらえることができます。このような『教育目標→学び方→評価』の大きな変化と連動する形で、大学入試を変えようとしているわけです。

とはいえ、「考える力が大事だ」とか「学びに向かうための意欲や態度を育てる必要がある」といったことは、かなり昔から言われていました。それでも、日本の教育は、先生の授業を聞いてその内容を身につけるという「習得型の学び」から脱却できていません。それはなぜか。その理由の一つに、大学入試があると考えられています。大学入試が「知識・技能」を測る形から変わらないので、先生の指導も子どもたちの学びも変わらない。今回の教育改革ではここにメスを入れることで、先生や子どもたちの意識を変えたいという狙いもあるのです。

●高校で、大学で、すでに改革の動きは始まっている…

入試を変えるというのは、本当にたいへんな作業です。今までの入試にもよい部分があります。どこを変えず、どこを見直すべきなのかの検討が必要です。また、「知識・技能」以外の多様な能力を公平に測ることは可能なのか。記述式の問題が増えると言われていますが、短期間に採点ができるのか。そういった難しい課題が多くて、改革は一気には進みません。しかし、変化はすでに起こっています!

私立大学は、「一般入試」で入学する学生の割合が半数を下回り、すでに半分以上が「推薦入試」や「AO入試*」で入学しています。当初は、入学定員を満たすのが難しい大学が、入学者の確保のために行うという傾向がありました。今でもそういう面は残っていますが、難関と言われる大学が推薦・AO入試を導入するようになっているのが近年の特徴です。国公立大学でも16%の学生が推薦・AO入試で入学しており、近い将来に3割まで増やすことが計画されています。最難関の大学である東京大学や京都大学も、平成28年度から推薦・AO入試を取り入れました。
*AOは入学事務局を意味するアドミッション・オフィスの略。AOが、高校時代の活動や成績、面接や小論文などの多様な方法で入学者を選抜する試験のこと。

こうした入試では、高校時代にどのような活動を行い、成果を収めたのかを生徒自身が証明する必要があります。活動記録や資格・検定試験の結果、入学希望の理由書、学修計画などの提出が求められます。そのうえで、模擬授業を受けてレポートを書いたり、集団討論やプレゼンテーションを課したり、小論文を書かせたりと、多様な方法で選抜が行われます。ここでは、「知識・技能」はもちろんですが、「思考力・判断力・表現力」や「学びに向かう力・人間性」などを評価されることに。大学側には、多様な能力をもった、やる気の高い生徒を入学させたいという思いがあります。

大学入試をすべてこのような選抜方法にするのは難しいと思います。でも、多様な力を多様な評価軸で測るタイプの入試が広まることは、間違いないでしょう。部活動やボランティア、資格取得、生徒会活動などの状況も、「学びに向かう力・人間性」を評価する際の材料として見られるので、高校までの過ごし方が重要になります。大学入試改革は単に入試が変わるだけでなく、中学校や高校での生活にも大きな影響を与えることになるのです。

「学び方」も変わり始めています。小学校から大学まで、近年では子どもたちが主体的に学ぶための「アクティブ・ラーニング」を増やそうという動きがあります。アクティブ・ラーニングは、文部科学省が示している「主体的で対話的な深い学び」と同義。学習者(=子ども)自身が、自分の課題を発見し、それについて調べ、仲間と議論して解決策を探すような、探究的な学びのことです。入試が変わると、そうした学びを増やして「思考力・判断力・表現力」を育てようという動きは、もっと増えていくと思います。

●合格の先にある「自分の人生」を見つめた対応を

では、保護者はどのように考え、行動したらよいでしょうか。今まで話してきたように、教育改革はある日を境に劇的に変化するものではありません。しかし、保護者の世代のころとは変わっていることがたくさんあります。大学入試の内容も方法も、ますます多様化していくと予想されます。その状況を理解するためにも、一定のアンテナを張って情報収集していくことが大切です。かつてのように「学力があっている」だけではなく、もっと主体的・多面的に大学を選び、入試に対応していく姿勢が必要です。最終的に選ぶのは子ども本人ですが、保護者も幅広い視点を持ってそれをサポートしなければなりません。

その一方で、私が強調したいのは、大学入試はゴールではない、ということです。その先にある自分の人生を、子ども自身の手で切り開いていくことが大切です。今回の教育改革や入試改革は、もともと社会で活躍するための能力を育てることを目的にしています。学び方を変え、入試を突破していくことは、社会で自分の人生を切り開いていくプロセスに過ぎません。ですから、あまり思いつめず、入試はこれからあまたある人生のイベントの一つと寛大に構えることが、保護者として必要だろうと思います。

私たちベネッセ教育総合研究所が東京大学社会科学研究所と共同で実施した調査(「高校生活と進路に関する調査」2015年)では、大学入試を経験した直後の高校3年生の81.1%が、大学入試は「成長の機会だった」と回答しています。実際に、入試に必要なのは試験で問われる教科の学力だけではありません。目標を決め、目標をクリアするための方法を考え、それを計画し、実行するような課題解決のための能力が求められます。入試を「自分を成長させるチャンス」と考えて主体的に取り組むことが、結果的に自分の人生を切り開く力を高めることにもつながるのです。

第6回では、大学入試改革の具体的な内容について解説いたします。
(取材日:2017年2月1日)

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プロフィール

木村治生(ベネッセ教育総合研究所 副所長)

木村治生(ベネッセ教育総合研究所 副所長)

現在、東京大学客員准教授を兼任。ベネッセコーポレーション入社後、初等・中等教育領域を中心に子ども、保護者、教員を対象とした意識や実態の調査研究、学習のあり方についての研究、教育市場(産業)の調査などを担当。文部科学省や経済産業省、総務省から委託を受けた調査研究にも数多く携わる。専門は社会調査、教育社会学。

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